53 / 95
避けては通れぬ道
6-1
しおりを挟む
眠りたい。
でも、眠りたくない。
寝たい。
でも、寝れない。
気が付けば遠くの空は白み始めていて、やっと朝が訪れたことを知った。
夜は長い。眠ってしまえばあっという間なのに、起きていると何故こんなにも長いのだろう。
紅葉は何をするでもなく、机に突っ伏したまま窓の外へと視線を向けた。
明るくなっては来たものの、日が昇り始めるのはまだもう少し先だ。そして普段起きだす時刻までは、まだまだ二時間半程余裕がある。
(…ねむい…)
頭の中には、もうそれだけしかなかった。
朦朧とする中、それでもうっすらと瞳を開いたまま外を眺めている。
…眠るのが怖かった。
夜な夜な出歩く症状など、ある意味今更ではある。嫌だなぁと思いつつも自分自身には記憶がない為、どの程度の頻度でそれが出ているのかさえ把握出来ていない状況で。その分、あまり深く考えないようにしていた感はある。
だって、目が覚めれば眠った時と同様に自室のベッドにいるのだ。これが、朝目覚めて知らない場所に寝ていた…とかであるなら、危機感は半端ないものだったろうとは思う。でも、そんなことは今まで一度たりともなかった。
だから変に安心していたのかも知れない。外へ出るとは言っても、ご近所をフラフラと散歩して戻ってくる程度なのだと。(いや、それでも十分ヤバイけど。)
でも、今回出歩く範囲が広いことを知った。前に圭ちゃんが駅前で見掛けたと話していた時に、もっと警戒していれば良かったのかも知れない。
(そうすれば、圭ちゃんにあんな風に迷惑掛けずに済んだのに…)
今更そんなことを悔やんでも、後の祭りだけれど。
そして、最近もう一つ知ったことがある。それは…。
突っ伏していた顔を僅かに動かすと、机の上に組んでいた左腕を軽く目線の前へと持ち上げた。そこには白い包帯がぐるぐると巻かれている。
腫れた手の甲。これは痛みが酷いので湿布を貼った上から剥がれないように自分で包帯を巻いたものなのだが、先日寝て起きた時に気付いたら出来ていたものだった。単なる打ち身だとは思うけれど、実はこういった症状は左手だけではない。腕や足、至る所に痣や小さな傷などが最近増えた。
どうやら、自分はただ歩き回っているだけではないようなのだ。
(イヤな予感は、してたんだよね…)
ふとした瞬間に思い浮かぶ、記憶のようなもの。
薄暗い夜道に屯する若者たち。向けられるのはニヤニヤとした不快な笑みと絡みつくような嫌な視線。そして気付けば周囲を取り囲まれてしまっている状況。
弱者を虐げることに何も罪悪感や嫌悪感を感じ得ない人でなし。
そんな時、自分の中の何かが訴え掛けてくるのだ。
全部、いなくなってしまえばいい。
全て『殲滅しろ』と…。
私にとって、それらはある意味トラウマだ。
そう、過去の父の事故と直結している自分の中に眠る心の闇。
もしかしたら、そのことが夜の徘徊に作用しているのかも知れないと、どこかで他人事のように思っていたりする。
自分のことなのに無責任な話だ。
(でも、ホントにただの夢かも知れないし…)
それらを現実と認める手段さえないのが現状なのだ。
(でも、街中で暴れていたら流石にいつかは足が付くよね。歩き回っているだけだとしても、住宅街を歩くよりは誰かの目に付きやすいだろうし…)
でも、眠りたくない。
寝たい。
でも、寝れない。
気が付けば遠くの空は白み始めていて、やっと朝が訪れたことを知った。
夜は長い。眠ってしまえばあっという間なのに、起きていると何故こんなにも長いのだろう。
紅葉は何をするでもなく、机に突っ伏したまま窓の外へと視線を向けた。
明るくなっては来たものの、日が昇り始めるのはまだもう少し先だ。そして普段起きだす時刻までは、まだまだ二時間半程余裕がある。
(…ねむい…)
頭の中には、もうそれだけしかなかった。
朦朧とする中、それでもうっすらと瞳を開いたまま外を眺めている。
…眠るのが怖かった。
夜な夜な出歩く症状など、ある意味今更ではある。嫌だなぁと思いつつも自分自身には記憶がない為、どの程度の頻度でそれが出ているのかさえ把握出来ていない状況で。その分、あまり深く考えないようにしていた感はある。
だって、目が覚めれば眠った時と同様に自室のベッドにいるのだ。これが、朝目覚めて知らない場所に寝ていた…とかであるなら、危機感は半端ないものだったろうとは思う。でも、そんなことは今まで一度たりともなかった。
だから変に安心していたのかも知れない。外へ出るとは言っても、ご近所をフラフラと散歩して戻ってくる程度なのだと。(いや、それでも十分ヤバイけど。)
でも、今回出歩く範囲が広いことを知った。前に圭ちゃんが駅前で見掛けたと話していた時に、もっと警戒していれば良かったのかも知れない。
(そうすれば、圭ちゃんにあんな風に迷惑掛けずに済んだのに…)
今更そんなことを悔やんでも、後の祭りだけれど。
そして、最近もう一つ知ったことがある。それは…。
突っ伏していた顔を僅かに動かすと、机の上に組んでいた左腕を軽く目線の前へと持ち上げた。そこには白い包帯がぐるぐると巻かれている。
腫れた手の甲。これは痛みが酷いので湿布を貼った上から剥がれないように自分で包帯を巻いたものなのだが、先日寝て起きた時に気付いたら出来ていたものだった。単なる打ち身だとは思うけれど、実はこういった症状は左手だけではない。腕や足、至る所に痣や小さな傷などが最近増えた。
どうやら、自分はただ歩き回っているだけではないようなのだ。
(イヤな予感は、してたんだよね…)
ふとした瞬間に思い浮かぶ、記憶のようなもの。
薄暗い夜道に屯する若者たち。向けられるのはニヤニヤとした不快な笑みと絡みつくような嫌な視線。そして気付けば周囲を取り囲まれてしまっている状況。
弱者を虐げることに何も罪悪感や嫌悪感を感じ得ない人でなし。
そんな時、自分の中の何かが訴え掛けてくるのだ。
全部、いなくなってしまえばいい。
全て『殲滅しろ』と…。
私にとって、それらはある意味トラウマだ。
そう、過去の父の事故と直結している自分の中に眠る心の闇。
もしかしたら、そのことが夜の徘徊に作用しているのかも知れないと、どこかで他人事のように思っていたりする。
自分のことなのに無責任な話だ。
(でも、ホントにただの夢かも知れないし…)
それらを現実と認める手段さえないのが現状なのだ。
(でも、街中で暴れていたら流石にいつかは足が付くよね。歩き回っているだけだとしても、住宅街を歩くよりは誰かの目に付きやすいだろうし…)
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
【完結】ツインクロス
龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。
切り抜き師の俺、同じクラスに推しのVtuberがいる
星宮 嶺
青春
冴木陽斗はVtuberの星野ソラを推している。
陽斗は星野ソラを広めるために切り抜き師になり応援をしていくがその本人は同じクラスにいた。
まさか同じクラスにいるとは思いもせず星野ソラへの思いを語る陽斗。
陽斗が話をしているのを聞いてしまい、クラスメイトが切り抜きをしてくれていると知り、嬉しさと恥ずかしさの狭間でバレないように活動する大森美優紀(星野ソラ)の物語
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる