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避けては通れぬ道

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眠りたい。

でも、眠りたくない。


寝たい。

でも、寝れない。


気が付けば遠くの空は白み始めていて、やっと朝が訪れたことを知った。

夜は長い。眠ってしまえばあっという間なのに、起きていると何故こんなにも長いのだろう。

紅葉は何をするでもなく、机に突っ伏したまま窓の外へと視線を向けた。

明るくなっては来たものの、日が昇り始めるのはまだもう少し先だ。そして普段起きだす時刻までは、まだまだ二時間半程余裕がある。


(…ねむい…)


頭の中には、もうそれだけしかなかった。

朦朧とする中、それでもうっすらと瞳を開いたまま外を眺めている。


…眠るのが怖かった。

夜な夜な出歩く症状など、ある意味今更ではある。嫌だなぁと思いつつも自分自身には記憶がない為、どの程度の頻度でそれが出ているのかさえ把握出来ていない状況で。その分、あまり深く考えないようにしていた感はある。

だって、目が覚めれば眠った時と同様に自室のベッドにいるのだ。これが、朝目覚めて知らない場所に寝ていた…とかであるなら、危機感は半端ないものだったろうとは思う。でも、そんなことは今まで一度たりともなかった。

だから変に安心していたのかも知れない。外へ出るとは言っても、ご近所をフラフラと散歩して戻ってくる程度なのだと。(いや、それでも十分ヤバイけど。)

でも、今回出歩く範囲が広いことを知った。前に圭ちゃんが駅前で見掛けたと話していた時に、もっと警戒していれば良かったのかも知れない。

(そうすれば、圭ちゃんにあんな風に迷惑掛けずに済んだのに…)

今更そんなことを悔やんでも、後の祭りだけれど。

そして、最近もう一つ知ったことがある。それは…。


突っ伏していた顔を僅かに動かすと、机の上に組んでいた左腕を軽く目線の前へと持ち上げた。そこには白い包帯がぐるぐると巻かれている。

腫れた手の甲。これは痛みが酷いので湿布を貼った上から剥がれないように自分で包帯を巻いたものなのだが、先日寝て起きた時に気付いたら出来ていたものだった。単なる打ち身だとは思うけれど、実はこういった症状は左手だけではない。腕や足、至る所に痣や小さな傷などが最近増えた。

どうやら、自分はただ歩き回っているだけではないようなのだ。


(イヤな予感は、してたんだよね…)


ふとした瞬間に思い浮かぶ、記憶のようなもの。

薄暗い夜道にたむろする若者たち。向けられるのはニヤニヤとした不快な笑みと絡みつくような嫌な視線。そして気付けば周囲を取り囲まれてしまっている状況。

弱者を虐げることに何も罪悪感や嫌悪感を感じ得ない人でなし。

そんな時、自分の中の何かが訴え掛けてくるのだ。


全部、いなくなってしまえばいい。

全て『殲滅せんめつしろ』と…。


私にとって、それらはある意味トラウマだ。

そう、過去の父の事故と直結している自分の中に眠る心の闇。

もしかしたら、そのことが夜の徘徊に作用しているのかも知れないと、どこかで他人事のように思っていたりする。

自分のことなのに無責任な話だ。

(でも、ホントにただの夢かも知れないし…)

それらを現実と認める手段さえないのが現状なのだ。

(でも、街中で暴れていたら流石にいつかは足が付くよね。歩き回っているだけだとしても、住宅街を歩くよりは誰かの目に付きやすいだろうし…)
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