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いらだち
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そして、その日の放課後。
一日の授業を終え、チャイムの音と同時に賑やかになる校舎内。部活に向かう者や帰宅する者、さまざまな生徒たちで賑わう廊下を磯山香帆に腕を絡められ、一見仲良さげに隣を歩く圭の姿がそこにはあった。
「なになに?香帆っ?もしかして、本宮くんと付き合ってるのっ?」
あまりにオープンな二人に友人たちは、ここぞとばかりに興味津々に聞いてくる。
「えへへっ。実は、そうなのっ」
もう何度目か分からない同様の質問に、香帆は得意げに笑顔を浮かべた。その間も圭の腕を離すことはせず、これ見よがしに絡めたままだ。そのまま始まる、それこそ何度目かののろけ話に火がつく前に圭が横から口を開いた。
「…磯山さん…」
圭は困ったように眉を下げる。その様子をちらりと上目遣いで見上げた香帆は小さく口の端を上げた。
「なあに?本宮くん。もう…照れ屋なんだからー。ごめんねっ。じゃあ私たち帰るから」
にこやかな笑顔で友人たちと別れの挨拶を交わして、その場を後にする香帆と圭。
そんな様子を隣の教室から出てきた紅葉は呆然と佇んで見送っていた。
「ちょっと!何なの?あれ!」
隣でタカちゃんが眉間にしわを寄せて口をとがらせている。
「何で磯山が本宮くんとあんな馴れ馴れしくしてんのっ?いつの間に、どうしてそんなことになってんのよっ?」
納得いかないというようにタカちゃんがいらだちを露わにしている。
「二人…付き合ってるらしいよ」
「えっ!?マジでっ?!」
「うん…。今、さっき磯山さんがそう話してたから…」
圭ちゃんも否定はしていなかったし、多分本当なんだろう。
「何で磯山がっ?ちょっと紅葉っ。このままで良いわけっ?」
必死な形相でこちらを振り返るタカちゃんに。
「良いも何も…。私が言えることなんて何もないし…」
ちょっと…いや、結構驚いていたけど何とか無理やり平常心を保って笑顔を浮かべてみた。でも、上手くいかなかった。きっと私、今へんな顔してる。
そんな私を見てタカちゃんが眉を下げた。
「もみじ…」
いつかはこんな日が来るんだろうなって、ずっと思っていたけれど…。いざ、こうして目にしちゃうと何ていうか…複雑なものなんだなぁと冷静に分析している自分がいた。
(私は圭ちゃんの親でも家族でも何でもないのに…。こんな気持ちになるなんて、おかしな話だよね…)
考えていたら本当に可笑しくなって、思わず笑ってしまった。
突然、小さく笑い出した私にタカちゃんは何とも言えない顔をしていたけれど、それ以上は特に何も言ってこなかった。
そうしてタカちゃんは部活へ向かう為、その場で別れた。
『もう小さな子どもじゃないんだからさ、そういうの止めたら?』
『昔からの腐れ縁に付き合わされる本宮くんの身にもなってみなよ』
以前、磯山さんに言われた言葉が今でも心の片隅に突き刺さっている。
でも、私はあまり自覚していなかったのだ。一緒にいるのが当たり前のようになりすぎていて。
圭ちゃんの優しさに甘えすぎていて、圭ちゃん自身の不満に思う気持ちに気付けなかった。
(でも、磯山さんみたいな大切な人がいるんだもん。私なんかに周囲をうろつかれたら、確かに迷惑でしかないよね)
それは当然のことだと思う。
もう、いい加減卒業しなくちゃ。
一日の授業を終え、チャイムの音と同時に賑やかになる校舎内。部活に向かう者や帰宅する者、さまざまな生徒たちで賑わう廊下を磯山香帆に腕を絡められ、一見仲良さげに隣を歩く圭の姿がそこにはあった。
「なになに?香帆っ?もしかして、本宮くんと付き合ってるのっ?」
あまりにオープンな二人に友人たちは、ここぞとばかりに興味津々に聞いてくる。
「えへへっ。実は、そうなのっ」
もう何度目か分からない同様の質問に、香帆は得意げに笑顔を浮かべた。その間も圭の腕を離すことはせず、これ見よがしに絡めたままだ。そのまま始まる、それこそ何度目かののろけ話に火がつく前に圭が横から口を開いた。
「…磯山さん…」
圭は困ったように眉を下げる。その様子をちらりと上目遣いで見上げた香帆は小さく口の端を上げた。
「なあに?本宮くん。もう…照れ屋なんだからー。ごめんねっ。じゃあ私たち帰るから」
にこやかな笑顔で友人たちと別れの挨拶を交わして、その場を後にする香帆と圭。
そんな様子を隣の教室から出てきた紅葉は呆然と佇んで見送っていた。
「ちょっと!何なの?あれ!」
隣でタカちゃんが眉間にしわを寄せて口をとがらせている。
「何で磯山が本宮くんとあんな馴れ馴れしくしてんのっ?いつの間に、どうしてそんなことになってんのよっ?」
納得いかないというようにタカちゃんがいらだちを露わにしている。
「二人…付き合ってるらしいよ」
「えっ!?マジでっ?!」
「うん…。今、さっき磯山さんがそう話してたから…」
圭ちゃんも否定はしていなかったし、多分本当なんだろう。
「何で磯山がっ?ちょっと紅葉っ。このままで良いわけっ?」
必死な形相でこちらを振り返るタカちゃんに。
「良いも何も…。私が言えることなんて何もないし…」
ちょっと…いや、結構驚いていたけど何とか無理やり平常心を保って笑顔を浮かべてみた。でも、上手くいかなかった。きっと私、今へんな顔してる。
そんな私を見てタカちゃんが眉を下げた。
「もみじ…」
いつかはこんな日が来るんだろうなって、ずっと思っていたけれど…。いざ、こうして目にしちゃうと何ていうか…複雑なものなんだなぁと冷静に分析している自分がいた。
(私は圭ちゃんの親でも家族でも何でもないのに…。こんな気持ちになるなんて、おかしな話だよね…)
考えていたら本当に可笑しくなって、思わず笑ってしまった。
突然、小さく笑い出した私にタカちゃんは何とも言えない顔をしていたけれど、それ以上は特に何も言ってこなかった。
そうしてタカちゃんは部活へ向かう為、その場で別れた。
『もう小さな子どもじゃないんだからさ、そういうの止めたら?』
『昔からの腐れ縁に付き合わされる本宮くんの身にもなってみなよ』
以前、磯山さんに言われた言葉が今でも心の片隅に突き刺さっている。
でも、私はあまり自覚していなかったのだ。一緒にいるのが当たり前のようになりすぎていて。
圭ちゃんの優しさに甘えすぎていて、圭ちゃん自身の不満に思う気持ちに気付けなかった。
(でも、磯山さんみたいな大切な人がいるんだもん。私なんかに周囲をうろつかれたら、確かに迷惑でしかないよね)
それは当然のことだと思う。
もう、いい加減卒業しなくちゃ。
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