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追う者・追われる者

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(紅葉は何処に…?)

圭は辺りを見回しながら自転車を走らせる。辺りは暗すぎて自転車のライトだけでは少し心許ない程であった。だが、見える限りに人らしき姿はない。

すると突然、近くで人の声が聞こえて来た。一人だけの声ではない。内容が聞き取れなくとも分かる位、何処か穏やかでないその声は一本隣の道から聞こえて来るようだ。

圭は慌てて引き返すと、少し手前にあった声のする方向へと続く道を曲がった。

その場所はすぐに特定できた。数人の男たちが集まって何やら揉めているのが見える。圭は通りの手前で止まると、見つからないように角に身を潜めてそっとそちらを覗き見た。

…が、その集団の中心に立っている人物を認め、改めて愕然とする。

(あれは…っ…)

まさかと思った。紅葉を追って来たのだから近くに彼女がいることは勿論分かっていたのだが、嫌な予感を感じつつもまさか実際に彼女がトラブルに巻き込まれているなんて思ってもみなかったのだ。


どうしよう。

早く助けなければ。

でも、どうやって…?


そう、ぐるぐると考えるだけで動けずにいる圭の目の前で、それは始まった。

紅葉の目の前にうずくまる人物。そして、僅かな間を挟んで一斉に男たちが紅葉に殴り掛かる。だが…。


(……えっ?)


軽やかな動きで男たちの攻撃をかわし、的確な打撃で一人、また一人と男たちをなぎ倒していく。


いったい何が起こっているのか。

自分は何を見ているのか?

紅葉は…?


ただただ目を見張り。

圭は、我を忘れて暫くその光景を呆然と眺めていた。


(紅葉が…。まさか、こんな…)


自分は夢でも見ているのだろうか?

そんな思考がただの現実逃避でしかないと頭では解っていながらも、やはりにわかには信じがたい光景に己の目を疑うしかない。

だって、あの紅葉が…。

あの、普段は大人しくて平和主義で、人一倍心優しい紅葉が。

如何にも喧嘩慣れしたような集団の男たちを容赦なく次々と伸していくのだ。

(…信じられるか?)

あの華奢な身体のどこにそんなパワーがあるというのか。

何より、いつのまにそんな格闘術を身につけたのか。

(…っていうか、あれで本当に眠ってるっていうのかっ?)

それが何より驚きでしかない。

流石に『夢遊病』で片付けるのは無理があるのではないだろうか?

そこまで考えて。

やっと、現実に戻って来た思考を何とか働かせる。


(そうだ。今はとにかく紅葉を無事家まで連れ帰る。他のことは、それからだっ)


少し頭が冷静になってきて周囲にも目を配れるようになると、自分以外にもその乱闘を物陰から傍観している人物がいることに気が付いた。

この辺りは細い道がまるで網目のように交差しているのだが、圭が身を潜めている角よりも紅葉がいる場所により近い交差点。その対面側の建物の陰に二人の人物がいるのが見える。だが…。

(あれは…)

その人物の顔には見覚えがあった。

以前、紅葉が挨拶を交わしていた同じ高校の、確か桐生という名の先輩だ。

部活動や委員会などに属していない紅葉に上級生との接点など殆どない筈なのに、休み時間や放課後などにも親しそうに話しているのを何度か見掛けたことがある。
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