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街の掃除屋
2-9
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その時、養護教諭を呼び出す内容の校内放送が廊下から聞こえてきた。保健室内では休んでいる生徒がいるからかスピーカーの音量は切られているようだ。
「あら、何かしら?」
自分の名前が呼ばれたことに気付き、教師は慌てて机の上に広げていた書類等を綺麗にまとめると保健室を後にする。
その際に「ちゃんと授業始まる前には教室に戻るのよ」と桐生に釘を刺していくことも忘れなかった。
「へーい」
桐生は、とりあえず手を上げてそれに応えたものの、午後の授業なんてものは正直かったるい以外の何ものでもない。出来ればこのまま、まったりとベッドに横になってお昼寝タイムへと洒落込みたいところだった。
だが、やはり先程まで襲って来ていた酷い眠気はもう殆どなくなっている。
とりあえずベッドに腰掛けた状態から、そのまま身体を後ろに倒して大の字に寝転んだ。その際に、ベッドのスプリングがギシリ…と、思いのほか大きな音を立てた。
「…ん…」
途端に隣から小さな声が聞こえてきて桐生はぎょっとする。
(やべ…。今ので起こしちゃったか?)
薄いカーテンで隔たれた向こうから人の動く気配がする。例の彼女が起き出したのか、ベッドの軋む音が僅かに響いた。
そしてカーテンの隙間から僅かに顔が覗いた。
「あれ…?せんせい…?」
「先生ならいないぞ」
横から口を出すと、彼女はこちらの存在に気付いていなかったのか若干驚いた様子を見せた。
「呼び出されて、どっか行った」
「あ、そうだったんですか…」
寝顔が印象的だった彼女は、起きている顔も綺麗で可愛かった。
「なに?アンタもう戻るのか?」
一度出した顔を引っ込め、布団を整えているらしい彼女に話し掛けると、律儀にも再びカーテンから顔を出してこちらに視線を合わせて来た。
「はい。いつまでも寝てる訳にはかないので…。ちなみに、今って昼休み…ですよね?」
遠くから聞こえて来る放送の音楽に耳を傾けている。
「そ。昼休み。だけどさ、先生戻ってくるまで待ってればいいじゃん。アンタ、頭痛かったんだろ?もう少し休んでたら?」
すると、彼女は不思議そうな表情を浮かべて再びこちらに、じっ…と視線を合わせて来た。何で知っているんだ?という顔だ。
まあ、当然の反応だろう。
(初対面の奴にこんなこと言われてもフツーに違和感しか感じねぇもんな)
自分も普段なら、こんな風に初対面の人物に気軽に話し掛けるようなことは滅多にしない。逆の立場なら尚更、煩わしいと思うだけだ。
だが、何故だか彼女には自然と話し掛けてしまっていた。
何となく興味があったのは確かだ。
先程の綺麗な寝顔が、あまりにも印象的で未だに脳裏に焼き付いて離れないからなのかも知れない。
「さっき、先生に聞いたんだよ。アンタが保健室に来た理由。オレ、ある意味この時間のココの常連だからさ」
そう言って笑うと、彼女はどこかホッとしたように表情を和らげた。
「そうだったんですね。お気遣いありがとうございます」
返ってくるのはしっかり敬語だったが、お堅い感じはなく、口調はわりと気さくな感じだ。その辺も好感が持てる。
何より初対面ながらにも真っ直ぐこちらに向けられる、その彼女の視線に満足感を覚えた。
「あら、何かしら?」
自分の名前が呼ばれたことに気付き、教師は慌てて机の上に広げていた書類等を綺麗にまとめると保健室を後にする。
その際に「ちゃんと授業始まる前には教室に戻るのよ」と桐生に釘を刺していくことも忘れなかった。
「へーい」
桐生は、とりあえず手を上げてそれに応えたものの、午後の授業なんてものは正直かったるい以外の何ものでもない。出来ればこのまま、まったりとベッドに横になってお昼寝タイムへと洒落込みたいところだった。
だが、やはり先程まで襲って来ていた酷い眠気はもう殆どなくなっている。
とりあえずベッドに腰掛けた状態から、そのまま身体を後ろに倒して大の字に寝転んだ。その際に、ベッドのスプリングがギシリ…と、思いのほか大きな音を立てた。
「…ん…」
途端に隣から小さな声が聞こえてきて桐生はぎょっとする。
(やべ…。今ので起こしちゃったか?)
薄いカーテンで隔たれた向こうから人の動く気配がする。例の彼女が起き出したのか、ベッドの軋む音が僅かに響いた。
そしてカーテンの隙間から僅かに顔が覗いた。
「あれ…?せんせい…?」
「先生ならいないぞ」
横から口を出すと、彼女はこちらの存在に気付いていなかったのか若干驚いた様子を見せた。
「呼び出されて、どっか行った」
「あ、そうだったんですか…」
寝顔が印象的だった彼女は、起きている顔も綺麗で可愛かった。
「なに?アンタもう戻るのか?」
一度出した顔を引っ込め、布団を整えているらしい彼女に話し掛けると、律儀にも再びカーテンから顔を出してこちらに視線を合わせて来た。
「はい。いつまでも寝てる訳にはかないので…。ちなみに、今って昼休み…ですよね?」
遠くから聞こえて来る放送の音楽に耳を傾けている。
「そ。昼休み。だけどさ、先生戻ってくるまで待ってればいいじゃん。アンタ、頭痛かったんだろ?もう少し休んでたら?」
すると、彼女は不思議そうな表情を浮かべて再びこちらに、じっ…と視線を合わせて来た。何で知っているんだ?という顔だ。
まあ、当然の反応だろう。
(初対面の奴にこんなこと言われてもフツーに違和感しか感じねぇもんな)
自分も普段なら、こんな風に初対面の人物に気軽に話し掛けるようなことは滅多にしない。逆の立場なら尚更、煩わしいと思うだけだ。
だが、何故だか彼女には自然と話し掛けてしまっていた。
何となく興味があったのは確かだ。
先程の綺麗な寝顔が、あまりにも印象的で未だに脳裏に焼き付いて離れないからなのかも知れない。
「さっき、先生に聞いたんだよ。アンタが保健室に来た理由。オレ、ある意味この時間のココの常連だからさ」
そう言って笑うと、彼女はどこかホッとしたように表情を和らげた。
「そうだったんですね。お気遣いありがとうございます」
返ってくるのはしっかり敬語だったが、お堅い感じはなく、口調はわりと気さくな感じだ。その辺も好感が持てる。
何より初対面ながらにも真っ直ぐこちらに向けられる、その彼女の視線に満足感を覚えた。
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