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街の掃除屋
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(そもそも何で駅前にだなんて…)
そこまで足を運ぶ理由が、どう考えても見つからなかった。
自分は普段から、あまり駅前まで足を運ぶことがない。
よく母親に頼まれて買い物へ出掛けることがあるのだが、駅前の商店街まで足を伸ばさずとも近くにスーパーがあるので、そこで事足りてしまう。
ましてや電車に乗って何処かへ行くということは本当に稀で。
それなりにメインの大通りは知っているが、少し横道に入れば知らない所ばかりなのだ。
そんな慣れてもいない場所を眠りながら歩いているなんて、ちょっと客観的に考えてみても普通じゃ有り得ない。
(我ながら厄介な症状だよね…)
思わず途方に暮れるように空を仰ぎ見た。
綺麗な抜けるような青空に遠く僅かに白い雲が浮かんでいるだけで快晴と言っても良い程の天気だった。
斜め上から降り注ぐ眩しい朝日が何処か疲れた身体にエネルギーを与えてくれているような感じがして、紅葉は不意に足を止めると、それらを吸収するようにひとつ大きく深呼吸をする。
その時、横を抜いて歩いて行った同じ制服を着た二人組の会話が耳に入って来た。
「…ホントにたった一人でだぜッ。マジで凄かったんだって!」
一人の男子生徒が何か興奮気味に話している。
「へぇーっ。やっぱそいつが今までの奴らもやっつけてたんかな?巷では『掃除屋』とかって呼ばれてるらしいじゃん?」
「ああ。絶対昨日の奴に間違いねぇよッ。あんなスゲー光景は見たことねーもん」
(…掃除屋?)
その聞き慣れない言葉に内心で首を傾げた。
そのまま立ち止まっていた足を再び動かすことで自然とその二人組の後をついて行く形になる。その為、会話の続きが自然と耳に入ってきた。
「さながら痛快な映画のアクションシーンみたいだったぜッ。でもな、驚くトコはそこじゃねぇんだよッ」
「どーいう意味だ?」
「それがな、その掃除屋って実は…。女かも知れねぇんだ」
(……えっ?)
紅葉は思わず瞳を見開いた。
「はぁっ?冗談だろッ?!」
「いや!それがマジなんだってのッ!」
まるで凄い秘密を知ってしまったのだとでも言うように、その男子生徒は興奮冷めやらぬ様子で言った。
「顔までは見てねぇんだけどさ、髪がスゲー長かったんだよッ」
(…長い、髪…?)
無意識に空いた右手で胸の前に垂らした三つ編みを紅葉はそっと握りしめる。
「いや、髪の長さだけじゃわかんねーだろ。長髪の男かもしんねぇじゃん?今は男だって珍しくねぇぞ?」
「まぁそうなんだけどさー」
「だって、あのファントムを潰した奴だろっ?それが女のワケねェじゃんっ。それも一人で?流石に有り得ねーって。実際女だとしたら、どこの厳ついゴリラだよッって感じ!」
そう言ってゲラゲラと声を上げて笑った。
一方の『掃除屋』を目撃したという男子生徒の方は「別にそんなゴリラでもなかったし…」とかブツブツ不満そうに何事かを呟いていたが、その話はそこで終わってしまったらしかった。
そこまで足を運ぶ理由が、どう考えても見つからなかった。
自分は普段から、あまり駅前まで足を運ぶことがない。
よく母親に頼まれて買い物へ出掛けることがあるのだが、駅前の商店街まで足を伸ばさずとも近くにスーパーがあるので、そこで事足りてしまう。
ましてや電車に乗って何処かへ行くということは本当に稀で。
それなりにメインの大通りは知っているが、少し横道に入れば知らない所ばかりなのだ。
そんな慣れてもいない場所を眠りながら歩いているなんて、ちょっと客観的に考えてみても普通じゃ有り得ない。
(我ながら厄介な症状だよね…)
思わず途方に暮れるように空を仰ぎ見た。
綺麗な抜けるような青空に遠く僅かに白い雲が浮かんでいるだけで快晴と言っても良い程の天気だった。
斜め上から降り注ぐ眩しい朝日が何処か疲れた身体にエネルギーを与えてくれているような感じがして、紅葉は不意に足を止めると、それらを吸収するようにひとつ大きく深呼吸をする。
その時、横を抜いて歩いて行った同じ制服を着た二人組の会話が耳に入って来た。
「…ホントにたった一人でだぜッ。マジで凄かったんだって!」
一人の男子生徒が何か興奮気味に話している。
「へぇーっ。やっぱそいつが今までの奴らもやっつけてたんかな?巷では『掃除屋』とかって呼ばれてるらしいじゃん?」
「ああ。絶対昨日の奴に間違いねぇよッ。あんなスゲー光景は見たことねーもん」
(…掃除屋?)
その聞き慣れない言葉に内心で首を傾げた。
そのまま立ち止まっていた足を再び動かすことで自然とその二人組の後をついて行く形になる。その為、会話の続きが自然と耳に入ってきた。
「さながら痛快な映画のアクションシーンみたいだったぜッ。でもな、驚くトコはそこじゃねぇんだよッ」
「どーいう意味だ?」
「それがな、その掃除屋って実は…。女かも知れねぇんだ」
(……えっ?)
紅葉は思わず瞳を見開いた。
「はぁっ?冗談だろッ?!」
「いや!それがマジなんだってのッ!」
まるで凄い秘密を知ってしまったのだとでも言うように、その男子生徒は興奮冷めやらぬ様子で言った。
「顔までは見てねぇんだけどさ、髪がスゲー長かったんだよッ」
(…長い、髪…?)
無意識に空いた右手で胸の前に垂らした三つ編みを紅葉はそっと握りしめる。
「いや、髪の長さだけじゃわかんねーだろ。長髪の男かもしんねぇじゃん?今は男だって珍しくねぇぞ?」
「まぁそうなんだけどさー」
「だって、あのファントムを潰した奴だろっ?それが女のワケねェじゃんっ。それも一人で?流石に有り得ねーって。実際女だとしたら、どこの厳ついゴリラだよッって感じ!」
そう言ってゲラゲラと声を上げて笑った。
一方の『掃除屋』を目撃したという男子生徒の方は「別にそんなゴリラでもなかったし…」とかブツブツ不満そうに何事かを呟いていたが、その話はそこで終わってしまったらしかった。
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