上 下
13 / 95
街の掃除屋

2-2

しおりを挟む
「グループ同士の縄張り争いみたいなのも起きてるのかな?集団での喧嘩も見掛けたことあるよ。あれだけの人数、いったい何処から集まってくるんだろうって感じでさ。そんな所にうっかり出くわしたら本当に大変なことになるよ」

「そんなになんだ…」

話を聞いている内に、次第に圭の身が心配になってくる。

「圭ちゃん、週に三回塾行ってるんだっけ?…本当に気を付けてよ」

「うん、ありがと。気を付けるよ」

そう頷いて返してくる目の前の笑顔に紅葉も大きく頷いた。

だが、その時。不意に何かを思い出し掛けて紅葉は思わず足を止めた。


何者かに周囲を囲まれる危機的状況。

向けられる明らかな『敵意』。

一触即発のピリピリとした空気感。


(え…?これって…?今朝見ていた、ゆめ…?)


あまり穏やかとは言い難い。けれど、そんな夢を見たような気がする。今の今まで忘れていたけれど。

(でも、何で今突然そんなこと…)

思い出す、そのタイミングがイマイチ良く分からない。


「紅葉も気を付けてよ。本当に」


不意に前方から圭の声が聞こえて来て、そこで紅葉は我に返った。

圭が足を止めてこちらを振り返っている。

紅葉は慌てて笑顔を浮かべると傍へと歩み寄った。

「ありがと、圭ちゃん。でも私は大丈夫だよ。夜に出掛けることなんて殆どないもの」

だから心配しないで。そう普通に返したつもりだったのに、何故だかじっ…と無言で見つめられてしまった。

「?…圭ちゃん?」

その、何故だか意味ありげな視線に思わず首を傾げる。

すると圭は真っ直ぐこちらを見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。

「紅葉、こないだも聞いたけど…。毎日ちゃんと眠れている?」

「え?なん、で…?」

確かに今日はイマイチ疲れが取れていない気がするけれど。それを見透かされてしまったのだろうか。

(…もしかして疲れが顔に出ちゃってる、とかっ?)

慌てて目の下を覆うように頬に両手を当てる。

圭は、そんな紅葉の反応を不思議そうに眺めながらも続けた。

「例の症状は出てる様子、ない?」

「例の…?」

そこでやっと圭が自分の夢遊病のことを言っているのだと気が付いた。

「えっと…。どうだろう?自分的には最近は落ち着いているものと思ってたけど…」

特に自覚症状はなかった。

でも、こればっかりは本当のところは分からない。いつだって自分は普通に眠っているつもりなのだから。


歩きながら記憶を辿っている紅葉に、圭は「そうか」とだけ呟いた。

「でも、圭ちゃんがそうやって聞いて来るってことは、何か思う所があるんでしょう?もしかして、私…外にいたりした?」

傍から聞いていたら、きっと変な質問ではあるが。

「う、ん…。実は…。前に紅葉に似た人を駅前で見掛けたんだ。塾の帰りに」

「駅前…」

「でも後ろ姿だけだったから、いまいち自信はないんだけど。でも本当に、すごく紅葉に似ていて…。慌てて後を追い掛けたんだけど、その時は見失ってしまったんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。 しかし、父である浩平にその夢を反対される。 夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。 「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」 一人のお嬢様の挑戦が始まる。

俺にはロシア人ハーフの許嫁がいるらしい。

夜兎ましろ
青春
 高校入学から約半年が経ったある日。  俺たちのクラスに転入生がやってきたのだが、その転入生は俺――雪村翔(ゆきむら しょう)が幼い頃に結婚を誓い合ったロシア人ハーフの美少女だった……!?

【完結】ツインクロス

龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。

学園制圧

月白由紀人
青春
 高校生の高月優也《たかつきゆうや》は、幼馴染で想い人の山名明莉《やまなあかり》とのごくありふれた学園生活を送っていた。だがある日、明莉を含む一党が学園を武力で占拠してしまう。そして生徒を人質にして、政府に仲間の『ナイトメア』たちを解放しろと要求したのだ。政府に対して反抗の狼煙を上げた明莉なのだが、ひょんな成り行きで優也はその明莉と行動を共にすることになる。これは、そんな明莉と優也の交流と恋を描いた、クライムサスペンスの皮をまとったジュブナイルファンタジー。1話で作風はつかめると思います。毎日更新予定!よろしければ、読んでみてください!!

ハルカカナタ

立花 律
青春
3人の男子高校生。 青春とか、恋愛とかはわからないけど。 3人の今をそのまま。 未来を見据えることよりも、今をたのしく生きたい。 もう戻れないあの頃に。 少しだけ戻れるように。 たのしくワイワイ、時折さみしくなって。 高校生活ってそういうものでしょう?

カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...