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風のウワサ

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「私自身を固定って…。例えば、どんな風に?」

「んー…?そうだな。ベッドに縛り付けておくとか?」

思わず浮かんだことをそのまま口にすると、紅葉がとても嫌そうな顔をした。

「やだ。圭ちゃん、コワイ…」

「ぷっ…」

その顔に思わず吹き出した。

「嫌だな、冗談に決まってるじゃない」

「もうっ。圭ちゃんっ」

少し拗ねたように口を尖らす、そんな仕草さえも可愛い。

「ごめん、ごめん。でもさ、毎日のように外を歩き回ってる訳でもないみたいだし対策しようがないんじゃないかな。それこそ縛り付けたり出口を塞いだりなんかしたら何かあった時に怖いよ」

火事や地震など思わぬ災害に見舞われた時、逃げることが出来なくなる。

「そうか…。そうだよね…」

紅葉はシュン…としたように下を向いてしまった。

「………」


確かに紅葉の気持ちを考えると。きっと、気が気じゃないんだろうな…とは思う。

自分の意思とは別のところで行動してしまう『自分』。

(外へ出て何をする訳でもないのだろうに…。敢えて出て行く、そこに何か意味はあるんだろうか?)

紅葉の心の問題や心境の変化でもあるのか。

(でも、追い掛けると逃げるっていうのは、ある意味スゴイよな…。そんな夢遊病患者、聞いたことない)

実際、意識が眠っているとはいえ、身体は起きている時のように周囲を見て行動しているのだから反応することは可能なのかもしれないが。

(それを撒いちゃうっていうんだから、驚きだよな…)

運動神経は元々悪くない紅葉だが、普段はおっとりしているので素早い動きで上手く逃げおおせるというのは、本人のイメージとは少し違う気もする。

それでも自分が夢遊病で出歩いているという事実を人に知られたくないという紅葉の本心には、ある意味沿っていると言っても良いのかも知れないけれど。

「ま、噂なんか気にする必要ないよ。パトロールしている人たちだって毎回当番制で違うんだし。それが紅葉だって分かる人はそうそういないんじゃないかな?」

それよりも、正体がバレるバレない以前に、何故ここに来て外を出歩いてしまう程症状が酷くなったのか。紅葉自身の心のケアの方が大切な気がした。

けれど紅葉は、噂のことがどうしても気になって浮上出来ないでいる様子だった。

(要は見た目で紅葉だとすぐに気付かれなければ良いんだよな…)

紅葉を見つめながら考える。

目の前の紅葉は高い位置で髪を纏めている、いわゆるポニーテールという髪型をしていて、こちらを見ながら首を傾げるその仕草に合わせて後ろ髪がゆらゆらと揺れていた。

紅葉は当時、この髪型でいることが多かった。

頭の端で可愛いな…なんて、ぼんやり見ていたが、不意にあることに気付いた。

(そう言えば…眠る時は流石に髪を結わいてなかったよな)

人は髪型で随分と雰囲気が変わる。

紅葉も例外ではなく、長くなってきた髪をいつも纏めている姿に見慣れた頃。夜、彼女の家に届け物をした際に髪を下ろしているのを見た時、普段との違いにドキッとしたものだ。
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