【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
291 / 302
終止符ー ピリオド ー

23-10

しおりを挟む
神岡から語られた過去は、夏樹にとっては信じ難いものであった。

(お父さんが、そんな私利私欲に走るとは思えない…)

以前、書斎の隠し部屋で見つけた父の走り書きを思い出す。
『父の罪』…そこには、そう書いてあった。
その薬の開発のことが『罪』だと言うのなら…。

(絶対に、何か理由がある筈だ…)

父の、良しとしない理由が。


「…その薬って、いったい何の薬…なんだ…?」
控えめに投げかけられた問い掛けに、神岡は黒い微笑みを浮かべた。
「それは企業秘密だ…と、言いたい所だが。そうだな…君がデータをこちらに渡してくれるというのなら教えてあげてもいい」
「………」
「あのデータを君が持っていても、何にもならないだろう?君にとっても誰にとっても得はない。だが…私に渡してくれれば、そのデータを元に、もっと沢山の薬を製造することが出来るのだ。皆がその薬を待っているのだよ」
神岡は、両手を広げて興奮気味に言った。
「…それは、貴重な薬…ってこと?」
「そうだ。私にしか作れない薬だ。そして、皆が求めて止まない画期的な代物シロモノだ」
半ば陶酔するように語っている神岡を、夏樹は冷静に見詰めた。

(…そうか。今迄はお父さんの作った残りか何かで薬を作っていたけど、それが足りなくなってきて焦ってるって感じなんだな…)

そして、分かったことがある。
その薬の為には手段を選ばない程の『何か』が、その薬にはあるということ。

(…金儲けは勿論だろうけど…それ以外にも…。何か…)

「もしも…オレが『渡さない』…と、言ったら…?」
反応を窺うように、夏樹が尋ねると。
神岡は再び目の色を変えた。
「君にそんな選択肢はないんだよ。今の自分の立場をもっとよく考えた方が良い。こちらが下手したてに出ていると思って思い上がっていると痛い目を見るぞ。…それとも、君も…。父親のように意地でも私に刃向うとでもいうのかね?」
「父さん、が…?」
「…そうだ。あいつは昔から強情な所があった。でも、あそこまでだとは思わなかった。私が、あの日…どんなに頭を下げて頼んでも、あいつは折れなかった。データを提供してはくれなかったのだ」
過去を思い出しているのか、神岡が遠い目をしながら言った。

「あの日…?もしかして…。だから、父さんを…?」

「あいつは、サンプルを持って警察に届け出ると言ってきた。だが…そんなことをされる訳にはいかなかったんだ。既にあの薬には多くの顧客が付いていたのだからな」
そう平然と言う神岡を、夏樹は信じられないという表情で見詰めた。
「…その目。そうしてると、君はあの日の野崎の眼にそっくりだ」
そう言って、過去の父と夏樹を重ね合わせるように目を細めて見遣ると、口元に笑みを浮かべた。

「…そうさ。私があいつを事故に見せかけて殺したのだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】眠り姫は夜を彷徨う

龍野ゆうき
青春
夜を支配する多数のグループが存在する治安の悪い街に、ふらりと現れる『掃除屋』の異名を持つ人物。悪行を阻止するその人物の正体は、実は『夢遊病』を患う少女だった?! 今夜も少女は己の知らぬところで夜な夜な街へと繰り出す。悪を殲滅する為に…

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

金色の庭を越えて。

碧野葉菜
青春
大物政治家の娘、才色兼備な岸本あゆら。その輝かしい青春時代は、有名外科医の息子、帝清志郎のショッキングな場面に遭遇したことで砕け散る。 人生の岐路に立たされたあゆらに味方をしたのは、極道の息子、野間口志鬼だった。 親友の無念を晴らすため捜査に乗り出す二人だが、清志郎の背景には恐るべき闇の壁があった——。 軽薄そうに見え一途で逞しい志鬼と、気が強いが品性溢れる優しいあゆら。二人は身分の差を越え強く惹かれ合うが… 親が与える子への影響、思春期の歪み。 汚れた大人に挑む、少年少女の青春サスペンスラブストーリー。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

タカラジェンヌへの軌跡

赤井ちひろ
青春
私立桜城下高校に通う高校一年生、南條さくら 夢はでっかく宝塚! 中学時代は演劇コンクールで助演女優賞もとるほどの力を持っている。 でも彼女には決定的な欠陥が 受験期間高校三年までの残ります三年。必死にレッスンに励むさくらに運命の女神は微笑むのか。 限られた時間の中で夢を追う少女たちを書いた青春小説。 脇を囲む教師たちと高校生の物語。

処理中です...