【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
289 / 302
終止符ー ピリオド ー

23-8

しおりを挟む
「…入れ」

一瞬踏み止まった所を背中を強引に押されて連れ込まれた部屋は。
正面の壁面が天井から床まで総ガラスで造られた、とても見晴らしの良い、奥行きのある広々とした部屋だった。その総ガラスの窓の前には重厚そうな大机があり、その奥の椅子には何者かが斜めにこちらに背を向けて座っていた。部屋の中はわざと照明を落としているのか薄暗く、窓から見える夜景の明かりが目に入ってくる程で、椅子に座っている人物のシルエットだけが影のように浮かびあがっている。
だが、その人物は神岡に間違いなかった。
廊下側の扉前に見張り二名を残し、夏樹をはじめとした四名が部屋へと入室する。
扉が閉じると神岡はゆったりとした動作で立ち上がり、こちらを振り返った。
「こんな所までのご同行、ご協力感謝するよ。冬樹くん…」
澄ました顔で微笑みを浮かべている。

(…その割には、随分と酷い扱いだけどな)

後ろ手に縛られた腕の痛みに顔をしかめながらも、夏樹は前を見据えた。
自由の利かない腕を気にする素振りを見せる目の前の少年に、気付いた神岡は白々しく声を掛ける。

「縛られた腕が痛むのかな?…すまないね。君のような子に、こんな手荒な真似は本当は避けたい所なんだが、君はなかなか腕利きのようだからね。一応、念の為だよ。交渉次第では、すぐに開放してあげられるかも知れないからね。今しばらく辛抱してくれたまえ」
「…交渉…?」
「そう。交渉だ」

神岡は小さく頷くと、ゆっくりと机を回り込んで前に出て来た。
そして、若干距離を取りながらも、押さえつけられている夏樹の前まで来ると、その瞳を覗き込むようにして言った。
「もう、分かっていると思うが…。君が持って行ったお父さんのデータをこちらに渡して貰いたいんだ」
そう言い切った神岡の眼は、先程までの穏やかなものとは違っていた。

威圧感のある、暗く淀んだ瞳の色。


(この顔が、神岡の本性…)

夏樹は、負けじと視線を逸らさずに見詰めた。

「君が、あいつの『鍵』の役目を担っていたことは知っているんだ。前に野崎の家から持って行ったデータも君が何処かに隠しているんだろう?そして、君は今日残りのデータ…全てを手にした訳だ」

「…今日…?…全てって…」
(…何のことだ?)

神岡の言っていることが解らなくて、夏樹は瞳を見開いたまま、頭の中で考えを巡らせていた。
だが、そんな夏樹の心情を知る由もなく、神岡は苦々しい表情を見せると言った。

「シラを切っても無駄だ。君が別荘のパソコンからデータを全て抜き取っていったんだろう?君以外にそれを出来る人間が、どこにいるというのだね?」

そう静かながらも語調を強めると、大きな手で夏樹の細い首筋を締め上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

「史上まれにみる美少女の日常」

綾羽 ミカ
青春
鹿取莉菜子17歳 まさに絵にかいたような美少女、街を歩けば一日に20人以上ナンパやスカウトに声を掛けられる少女。家は団地暮らしで母子家庭の生活保護一歩手前という貧乏。性格は非常に悪く、ひがみっぽく、ねたみやすく過激だが、そんなことは一切表に出しません。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

隣の優等生は、デブ活に命を捧げたいっ

椎名 富比路
青春
女子高生の尾村いすゞは、実家が大衆食堂をやっている。 クラスの隣の席の優等生細江《ほそえ》 桃亜《ももあ》が、「デブ活がしたい」と言ってきた。 桃亜は学生の身でありながら、アプリ制作会社で就職前提のバイトをしている。 だが、連日の学業と激務によって、常に腹を減らしていた。 料理の腕を磨くため、いすゞは桃亜に協力をする。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...