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終止符ー ピリオド ー
23-8
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「…入れ」
一瞬踏み止まった所を背中を強引に押されて連れ込まれた部屋は。
正面の壁面が天井から床まで総ガラスで造られた、とても見晴らしの良い、奥行きのある広々とした部屋だった。その総ガラスの窓の前には重厚そうな大机があり、その奥の椅子には何者かが斜めにこちらに背を向けて座っていた。部屋の中はわざと照明を落としているのか薄暗く、窓から見える夜景の明かりが目に入ってくる程で、椅子に座っている人物のシルエットだけが影のように浮かびあがっている。
だが、その人物は神岡に間違いなかった。
廊下側の扉前に見張り二名を残し、夏樹をはじめとした四名が部屋へと入室する。
扉が閉じると神岡はゆったりとした動作で立ち上がり、こちらを振り返った。
「こんな所までのご同行、ご協力感謝するよ。冬樹くん…」
澄ました顔で微笑みを浮かべている。
(…その割には、随分と酷い扱いだけどな)
後ろ手に縛られた腕の痛みに顔をしかめながらも、夏樹は前を見据えた。
自由の利かない腕を気にする素振りを見せる目の前の少年に、気付いた神岡は白々しく声を掛ける。
「縛られた腕が痛むのかな?…すまないね。君のような子に、こんな手荒な真似は本当は避けたい所なんだが、君はなかなか腕利きのようだからね。一応、念の為だよ。交渉次第では、すぐに開放してあげられるかも知れないからね。今しばらく辛抱してくれたまえ」
「…交渉…?」
「そう。交渉だ」
神岡は小さく頷くと、ゆっくりと机を回り込んで前に出て来た。
そして、若干距離を取りながらも、押さえつけられている夏樹の前まで来ると、その瞳を覗き込むようにして言った。
「もう、分かっていると思うが…。君が持って行ったお父さんのデータをこちらに渡して貰いたいんだ」
そう言い切った神岡の眼は、先程までの穏やかなものとは違っていた。
威圧感のある、暗く淀んだ瞳の色。
(この顔が、神岡の本性…)
夏樹は、負けじと視線を逸らさずに見詰めた。
「君が、あいつの『鍵』の役目を担っていたことは知っているんだ。前に野崎の家から持って行ったデータも君が何処かに隠しているんだろう?そして、君は今日残りのデータ…全てを手にした訳だ」
「…今日…?…全てって…」
(…何のことだ?)
神岡の言っていることが解らなくて、夏樹は瞳を見開いたまま、頭の中で考えを巡らせていた。
だが、そんな夏樹の心情を知る由もなく、神岡は苦々しい表情を見せると言った。
「シラを切っても無駄だ。君が別荘のパソコンからデータを全て抜き取っていったんだろう?君以外にそれを出来る人間が、どこにいるというのだね?」
そう静かながらも語調を強めると、大きな手で夏樹の細い首筋を締め上げた。
一瞬踏み止まった所を背中を強引に押されて連れ込まれた部屋は。
正面の壁面が天井から床まで総ガラスで造られた、とても見晴らしの良い、奥行きのある広々とした部屋だった。その総ガラスの窓の前には重厚そうな大机があり、その奥の椅子には何者かが斜めにこちらに背を向けて座っていた。部屋の中はわざと照明を落としているのか薄暗く、窓から見える夜景の明かりが目に入ってくる程で、椅子に座っている人物のシルエットだけが影のように浮かびあがっている。
だが、その人物は神岡に間違いなかった。
廊下側の扉前に見張り二名を残し、夏樹をはじめとした四名が部屋へと入室する。
扉が閉じると神岡はゆったりとした動作で立ち上がり、こちらを振り返った。
「こんな所までのご同行、ご協力感謝するよ。冬樹くん…」
澄ました顔で微笑みを浮かべている。
(…その割には、随分と酷い扱いだけどな)
後ろ手に縛られた腕の痛みに顔をしかめながらも、夏樹は前を見据えた。
自由の利かない腕を気にする素振りを見せる目の前の少年に、気付いた神岡は白々しく声を掛ける。
「縛られた腕が痛むのかな?…すまないね。君のような子に、こんな手荒な真似は本当は避けたい所なんだが、君はなかなか腕利きのようだからね。一応、念の為だよ。交渉次第では、すぐに開放してあげられるかも知れないからね。今しばらく辛抱してくれたまえ」
「…交渉…?」
「そう。交渉だ」
神岡は小さく頷くと、ゆっくりと机を回り込んで前に出て来た。
そして、若干距離を取りながらも、押さえつけられている夏樹の前まで来ると、その瞳を覗き込むようにして言った。
「もう、分かっていると思うが…。君が持って行ったお父さんのデータをこちらに渡して貰いたいんだ」
そう言い切った神岡の眼は、先程までの穏やかなものとは違っていた。
威圧感のある、暗く淀んだ瞳の色。
(この顔が、神岡の本性…)
夏樹は、負けじと視線を逸らさずに見詰めた。
「君が、あいつの『鍵』の役目を担っていたことは知っているんだ。前に野崎の家から持って行ったデータも君が何処かに隠しているんだろう?そして、君は今日残りのデータ…全てを手にした訳だ」
「…今日…?…全てって…」
(…何のことだ?)
神岡の言っていることが解らなくて、夏樹は瞳を見開いたまま、頭の中で考えを巡らせていた。
だが、そんな夏樹の心情を知る由もなく、神岡は苦々しい表情を見せると言った。
「シラを切っても無駄だ。君が別荘のパソコンからデータを全て抜き取っていったんだろう?君以外にそれを出来る人間が、どこにいるというのだね?」
そう静かながらも語調を強めると、大きな手で夏樹の細い首筋を締め上げた。
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