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終末へと向かう足音
22-6
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「…けど…?」
いまいち納得出来ていない様子の夏樹に、雅耶は首を傾げた。
「雅耶を疑ってなんかいないよ。ただ…」
夏樹は、控えめに視線をこちらに向けると、
「両親にまで嘘つき通すのって、心苦しいだろうなって思って…。雅耶まで共犯にしちゃってる感じがして…申し訳ないなって思っただけ…」
そう言って、少し切なげに笑った。
(そんなこと、気にしてたのか…?)
思ってもみなかったその言葉に。
雅耶は小さな溜息を吐くと、出来るだけ夏樹が気にしないで済むように明るい笑顔を浮かべた。
「そんなに重く考えることないんだよ。気にし過ぎ。俺…親に隠し事なんて一杯あるぞ?」
そうおどけて見せた。
「………」
「それにさ…。お前となら共犯でも何でも、どんと来いだよっ。嬉しいことも、辛いことも、秘密でも何でもさ…一緒に共有出来る方が俺は嬉しい」
そう言って笑う雅耶が眩しくて、嬉しくて。
夏樹は雅耶を見上げると「さんきゅ…」と微笑んだ。
暫く二人無言で並んで歩いていたが、あと少しで夏樹のアパートへと辿り着くという所で、不意に雅耶が口を開いた。
「なぁ…。お前はずっと、このまま…冬樹でいるつもりなのか?」
何となく聞き辛そうに視線を外しながらも、投げ掛けられた問いに。
夏樹は一瞬驚いたように目を見開くと、思わず足を止めた。
「そう…だね…」
立ち止まってしまった夏樹に気付いた雅耶は、自らも足を止めると振り返った。
そこには、儚げな表情を浮かべた夏樹が佇んでいた。
「ふゆちゃんが帰ってくるまでは…。オレは『冬樹』であり続けるよ」
そう淋しげに微笑む瞳から、思わず目が離せない。
冬樹が帰ってくるまで?
(それはいったい、いつまでだ…?)
頭の中で自問自答を繰り返すが、答えは結局あっさりと出て来る。
『そんな日は、来ないのではないか?』
この、経過してしまった八年という長い年月を考えれば、これ以上待っていても事故に遭った『冬樹』が見つかる可能性は限りなくゼロに近い…と、きっと誰もが答える筈だろう。
それは、夏樹が一番よく分かっている筈だ。
だが、それでも…。
その瞳を見れば、夏樹が本気で言っているのが分かる。
きっと、それくらいの覚悟は今更なのだろう。
けれど、そんな夏樹の決意を聞いても、自分的には納得がいかずに疑問を口にした。
「本当に、それで…いいのか?」
いまいち納得出来ていない様子の夏樹に、雅耶は首を傾げた。
「雅耶を疑ってなんかいないよ。ただ…」
夏樹は、控えめに視線をこちらに向けると、
「両親にまで嘘つき通すのって、心苦しいだろうなって思って…。雅耶まで共犯にしちゃってる感じがして…申し訳ないなって思っただけ…」
そう言って、少し切なげに笑った。
(そんなこと、気にしてたのか…?)
思ってもみなかったその言葉に。
雅耶は小さな溜息を吐くと、出来るだけ夏樹が気にしないで済むように明るい笑顔を浮かべた。
「そんなに重く考えることないんだよ。気にし過ぎ。俺…親に隠し事なんて一杯あるぞ?」
そうおどけて見せた。
「………」
「それにさ…。お前となら共犯でも何でも、どんと来いだよっ。嬉しいことも、辛いことも、秘密でも何でもさ…一緒に共有出来る方が俺は嬉しい」
そう言って笑う雅耶が眩しくて、嬉しくて。
夏樹は雅耶を見上げると「さんきゅ…」と微笑んだ。
暫く二人無言で並んで歩いていたが、あと少しで夏樹のアパートへと辿り着くという所で、不意に雅耶が口を開いた。
「なぁ…。お前はずっと、このまま…冬樹でいるつもりなのか?」
何となく聞き辛そうに視線を外しながらも、投げ掛けられた問いに。
夏樹は一瞬驚いたように目を見開くと、思わず足を止めた。
「そう…だね…」
立ち止まってしまった夏樹に気付いた雅耶は、自らも足を止めると振り返った。
そこには、儚げな表情を浮かべた夏樹が佇んでいた。
「ふゆちゃんが帰ってくるまでは…。オレは『冬樹』であり続けるよ」
そう淋しげに微笑む瞳から、思わず目が離せない。
冬樹が帰ってくるまで?
(それはいったい、いつまでだ…?)
頭の中で自問自答を繰り返すが、答えは結局あっさりと出て来る。
『そんな日は、来ないのではないか?』
この、経過してしまった八年という長い年月を考えれば、これ以上待っていても事故に遭った『冬樹』が見つかる可能性は限りなくゼロに近い…と、きっと誰もが答える筈だろう。
それは、夏樹が一番よく分かっている筈だ。
だが、それでも…。
その瞳を見れば、夏樹が本気で言っているのが分かる。
きっと、それくらいの覚悟は今更なのだろう。
けれど、そんな夏樹の決意を聞いても、自分的には納得がいかずに疑問を口にした。
「本当に、それで…いいのか?」
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