【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
275 / 302
終末へと向かう足音

22-5

しおりを挟む
今日のことは、予想外の…自分の意識がない中でのことではあったが、すっかり雅耶の家には世話になってしまったので、挨拶だけはきちんとして帰ろうと夏樹は思っていた。
だが…その際に、雅耶の母親からの勧めもあって、結局夕食まで一緒にご馳走になることになってしまったのだった。
雅耶の父親も既に仕事から帰宅していたので、すっかり家族団らんの中にお邪魔してしまった感じだ。

久し振りに対面した雅耶のおばさんは、自分を見るなり涙を零しながら喜んでくれた。
『大きくなったねぇ、冬樹くん。さっき、実は寝顔は見ちゃったんだけど…。そうやって起きていると、本当にお母さんにそっくりね』
そう言って。
雅耶のおじさんは、あまり語る方ではないが、いつでも微笑んでいる様な優しい人で、それは八年振りに会った現在でも変わりなかった。

久し振りに味わう、家族団らんの光景。
それは、何処か懐かしさと切なさを生んだ。

でも、雅耶をはじめ、自分を温かく迎えてくれる雅耶のご両親の気持ちがすごく嬉しかった。
帰り際も二人は玄関まで見送ってくれて。
『またいつでも遊びに来てね。ここが自分の家だと思って、またご飯食べに来てちょうだいね』
そんな優しい言葉を掛けてくれたのだ。



遠くの夜空を眺めている夏樹の横顔をそっと覗き見ながらも。
その表情が寂しげなものでないことに、雅耶は安堵していた。

母が夏樹に『夕飯を一緒に』と気遣ってくれたことに、雅耶は密かに感謝していた。
昔は兄弟のように育った仲だ。母が言っていたように、久賀の家を自分の家のように思ってくれたら良いと、自分も本当にそう思っている。
だが、実際夏樹は家族を失って長い。
親戚の家でどうだったかは分からないが、以前聞いた話の感じでは、向こうではあまり心を許していなかったようだし、温かい家族の団らんなどは、もしかしたら無かったのかも知れない。
そう考えると、食事などに誘うことで夏樹が家族を思い出して辛い思いをしないければ良いと、それだけが心配だった。
だが、夏樹は終始穏やかな表情を見せていた。
心の奥底までは分からないが、少なくとも不快な思いはしていなかったようで、少しホッとしていた。

「そういえば…さ…」
「うん?」
「おじさんとおばさんの前で、オレのこと…『冬樹』で通してくれてありがとう」
何故だか申し訳なさそうに、夏樹は下を向いた。
「そんなの、当たり前だろ?お前は今『冬樹』なんだから…。俺、誰にもお前の秘密ばらしたりしないぜ?その辺は信用してくれよ。…確かに、二人でいる時は『夏樹』って呼びたくなっちゃうってのが本音だけど、その辺のことは一応わきまえてるつもりだぜ?」
「うん…。それは分かってるけど…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春

mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆ 人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。 イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。 そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。 俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。 誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。 どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。 そう思ってたのに…… どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ! ※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。

たかなしポン太
青春
【第7回カクヨムコンテスト中間選考通過作品】  本編完結しました! 「どうして連絡をよこさなかった?」 「……いろいろあったのよ」 「いろいろ?」 「そう。いろいろ……」 「……そうか」 ◆◆◆ 俺様でイメケンボッチの社長御曹司、宝生秀一。 家が貧しいけれど頭脳明晰で心優しいヒロイン、月島華恋。 同じ高校のクラスメートであるにもかかわらず、話したことすらなかった二人。 ところが……図書館での偶然の出会いから、二人の運命の歯車が回り始める。 ボッチだった秀一は華恋と時間を過ごしながら、少しずつ自分の世界が広がっていく。 そして華恋も秀一の意外な一面に心を許しながら、少しずつ彼に惹かれていった。 しかし……二人の先には、思いがけない大きな障壁が待ち受けていた。 キャラメルから始まる、素直になれない二人の身分差ラブコメディーです! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...