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終末へと向かう足音
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今日のことは、予想外の…自分の意識がない中でのことではあったが、すっかり雅耶の家には世話になってしまったので、挨拶だけはきちんとして帰ろうと夏樹は思っていた。
だが…その際に、雅耶の母親からの勧めもあって、結局夕食まで一緒にご馳走になることになってしまったのだった。
雅耶の父親も既に仕事から帰宅していたので、すっかり家族団らんの中にお邪魔してしまった感じだ。
久し振りに対面した雅耶のおばさんは、自分を見るなり涙を零しながら喜んでくれた。
『大きくなったねぇ、冬樹くん。さっき、実は寝顔は見ちゃったんだけど…。そうやって起きていると、本当にお母さんにそっくりね』
そう言って。
雅耶のおじさんは、あまり語る方ではないが、いつでも微笑んでいる様な優しい人で、それは八年振りに会った現在でも変わりなかった。
久し振りに味わう、家族団らんの光景。
それは、何処か懐かしさと切なさを生んだ。
でも、雅耶をはじめ、自分を温かく迎えてくれる雅耶のご両親の気持ちがすごく嬉しかった。
帰り際も二人は玄関まで見送ってくれて。
『またいつでも遊びに来てね。ここが自分の家だと思って、またご飯食べに来てちょうだいね』
そんな優しい言葉を掛けてくれたのだ。
遠くの夜空を眺めている夏樹の横顔をそっと覗き見ながらも。
その表情が寂しげなものでないことに、雅耶は安堵していた。
母が夏樹に『夕飯を一緒に』と気遣ってくれたことに、雅耶は密かに感謝していた。
昔は兄弟のように育った仲だ。母が言っていたように、久賀の家を自分の家のように思ってくれたら良いと、自分も本当にそう思っている。
だが、実際夏樹は家族を失って長い。
親戚の家でどうだったかは分からないが、以前聞いた話の感じでは、向こうではあまり心を許していなかったようだし、温かい家族の団らんなどは、もしかしたら無かったのかも知れない。
そう考えると、食事などに誘うことで夏樹が家族を思い出して辛い思いをしないければ良いと、それだけが心配だった。
だが、夏樹は終始穏やかな表情を見せていた。
心の奥底までは分からないが、少なくとも不快な思いはしていなかったようで、少しホッとしていた。
「そういえば…さ…」
「うん?」
「おじさんとおばさんの前で、オレのこと…『冬樹』で通してくれてありがとう」
何故だか申し訳なさそうに、夏樹は下を向いた。
「そんなの、当たり前だろ?お前は今『冬樹』なんだから…。俺、誰にもお前の秘密ばらしたりしないぜ?その辺は信用してくれよ。…確かに、二人でいる時は『夏樹』って呼びたくなっちゃうってのが本音だけど、その辺のことは一応わきまえてるつもりだぜ?」
「うん…。それは分かってるけど…」
だが…その際に、雅耶の母親からの勧めもあって、結局夕食まで一緒にご馳走になることになってしまったのだった。
雅耶の父親も既に仕事から帰宅していたので、すっかり家族団らんの中にお邪魔してしまった感じだ。
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『大きくなったねぇ、冬樹くん。さっき、実は寝顔は見ちゃったんだけど…。そうやって起きていると、本当にお母さんにそっくりね』
そう言って。
雅耶のおじさんは、あまり語る方ではないが、いつでも微笑んでいる様な優しい人で、それは八年振りに会った現在でも変わりなかった。
久し振りに味わう、家族団らんの光景。
それは、何処か懐かしさと切なさを生んだ。
でも、雅耶をはじめ、自分を温かく迎えてくれる雅耶のご両親の気持ちがすごく嬉しかった。
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『またいつでも遊びに来てね。ここが自分の家だと思って、またご飯食べに来てちょうだいね』
そんな優しい言葉を掛けてくれたのだ。
遠くの夜空を眺めている夏樹の横顔をそっと覗き見ながらも。
その表情が寂しげなものでないことに、雅耶は安堵していた。
母が夏樹に『夕飯を一緒に』と気遣ってくれたことに、雅耶は密かに感謝していた。
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「そういえば…さ…」
「うん?」
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「うん…。それは分かってるけど…」
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