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終末へと向かう足音
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力が例の薬による眠りから覚めた時、傍には自らの失敗に顔面蒼白になっている萩原がいた。
萩原は、ドアを出てすぐに何者かに襲われ、暫くの間気を失っていたのだと言う。目が覚めた時には、室内に力が眠っていただけで、既に冬樹をはじめ、他の者の姿はなかったそうだ。
そして調べてみた所、ずっと開くことが出来なかったデータは全てパソコン上から消去された後だったという。
愕然とした様子でパソコンの前に佇み、自らの大失態に気落ちしている萩原に、力は優しい言葉を掛けることはなかった。
その代わり、自分を出し抜いたことも責めはしなかった。
本来なら、寄せていた信頼を踏みにじり、自分を平然と裏切った萩原に罵声を浴びせること位では気が済まない程の怒りが力の内にはあった。
実際、先に気絶から目覚めた萩原は、床に眠る力は放置のままに、まずデータの確認などを優先していたのだから。
酷い扱いに、怒りを通り越して泣けてきそうだった。
だが…それさえも、もうどうでもいい。と、力は思っていた。
怒る価値さえないと…。
今迄の萩原の好意は、全て仕事上の見せ掛けのものだったと気付いたから。
結局は、その好意さえも父の命令に従ってのものだったことを知ったから…。
力の中で、萩原のことは既に切り捨てられていた。
冬樹を取り逃がし、データさえ奪われた萩原はもう、父の信用さえ取り戻せないだろう。
「親父…。俺はもう、小さなこどもじゃない。世話係みたいな者を俺につけるのは止めてくれ。俺は自分のことは自分でやれる」
久し振りの父親との対面だった。
だが、目の前の父はそんなことは気にも留めていない様子だった。
「どうした?急に…。萩原と何かあったのか?」
平然とした様子で聞いて来る。
「何かあったのかって…。親父があいつに命令したんだろ?俺を出し抜いてでも冬樹を捕まえて来いって」
「………」
突然の息子からの指摘に、父は何か言葉を探しているようだった。
だが、力は小さく笑うと。
「ま。そんなことは、もうどうでもいいんだ。あいつだって、アンタの命令に従っただけなんだろうし、な。でも、俺にさえ薬を盛るような奴なんかの世話になるのは御免だよ。とにかく、俺は自由にやらせて貰う」
「…力…」
萩原は、ドアを出てすぐに何者かに襲われ、暫くの間気を失っていたのだと言う。目が覚めた時には、室内に力が眠っていただけで、既に冬樹をはじめ、他の者の姿はなかったそうだ。
そして調べてみた所、ずっと開くことが出来なかったデータは全てパソコン上から消去された後だったという。
愕然とした様子でパソコンの前に佇み、自らの大失態に気落ちしている萩原に、力は優しい言葉を掛けることはなかった。
その代わり、自分を出し抜いたことも責めはしなかった。
本来なら、寄せていた信頼を踏みにじり、自分を平然と裏切った萩原に罵声を浴びせること位では気が済まない程の怒りが力の内にはあった。
実際、先に気絶から目覚めた萩原は、床に眠る力は放置のままに、まずデータの確認などを優先していたのだから。
酷い扱いに、怒りを通り越して泣けてきそうだった。
だが…それさえも、もうどうでもいい。と、力は思っていた。
怒る価値さえないと…。
今迄の萩原の好意は、全て仕事上の見せ掛けのものだったと気付いたから。
結局は、その好意さえも父の命令に従ってのものだったことを知ったから…。
力の中で、萩原のことは既に切り捨てられていた。
冬樹を取り逃がし、データさえ奪われた萩原はもう、父の信用さえ取り戻せないだろう。
「親父…。俺はもう、小さなこどもじゃない。世話係みたいな者を俺につけるのは止めてくれ。俺は自分のことは自分でやれる」
久し振りの父親との対面だった。
だが、目の前の父はそんなことは気にも留めていない様子だった。
「どうした?急に…。萩原と何かあったのか?」
平然とした様子で聞いて来る。
「何かあったのかって…。親父があいつに命令したんだろ?俺を出し抜いてでも冬樹を捕まえて来いって」
「………」
突然の息子からの指摘に、父は何か言葉を探しているようだった。
だが、力は小さく笑うと。
「ま。そんなことは、もうどうでもいいんだ。あいつだって、アンタの命令に従っただけなんだろうし、な。でも、俺にさえ薬を盛るような奴なんかの世話になるのは御免だよ。とにかく、俺は自由にやらせて貰う」
「…力…」
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