264 / 302
八年越しの…
21-5
しおりを挟む
「本社ってことは、社長である力の親父さんの所へ連れて行こうとしてたってことか。でも、何か…急ぐ理由でもあるのかな。何だか焦っているような感じがしないか?手段を選んでいられなくなって強行手段に出た…みたいな…」
「うん。そうかも知れない。あいつらは、どうしても父さんのそのデータを開きたくて躍起になってるのかも。今日、オレが薬で動けないでいる間にも、嬉々として萩原がオレの手を認証に掛けてたよ」
「それって、前に言ってた静脈認証ってやつだろう?でもさ、それって…もしかして、お前じゃ…」
以前聞いた時は、夏樹が冬樹に成りすましているなどとは思いもよらなかった。だが、事実を知った今なら、その解除は容易ではないことが分かる。
「うん…。本当は、ふゆちゃんの手じゃないと開けないんだ」
夏樹は少し困ったような笑顔を見せた。
「でも、向こうはそれを知らないから。今日、無理やり解除させようとオレの手で試していたけど…。開かなくても他にも何か秘密があるとしか思ってないみたいだった」
その右手を握りしめる。
「どんなにオレを狙って試したって、父さんのデータはあいつらの手に渡ることはないけど…。こっちも手に入れられないのは同じだからな…」
途方に暮れたように夏樹は天井を見上げると、小さく溜息を吐いた。
その言葉に、雅耶は大きく反応した。
「馬鹿!同じじゃないだろっ。データを取られることはなくても、お前はそれだけ危険な目に遭うんじゃないかっ。そこんとこ間違えるなよっ」
「…雅耶…?」
急に真剣な顔で怒り出した雅耶に、夏樹は困惑した様子を見せている。
「俺が言いたいこと、ちゃんと分かってるかっ?…確かに、今日みたいなことがあっても、そのおじさんの大事なデータはあいつらの手に渡ることはない。でも、実際お前があいつらの元に連れて行かれてたら、もっと危険な目に遭っていたかも知れないんだぞ」
「…うん…」
頷きながらも、未だ困惑気味な夏樹に。
(やっぱり、お前は解ってないよ…)
雅耶は立ち上がると、気持ちを落ち着けるように窓際へ足を運ぶと、カーテンを開けた。
外はすっかり日が暮れて、夜の闇が広がっている。
(…雅耶…?)
「もしも、今日みたいに身体の利かないままに何処かへ連れ去られたとして、お前が冬樹ではなく夏樹だと気付かれたらどうなると思う?相手は逆上して何をするか分からない…。それに…」
「…それに…?」
こちらに背を向けたまま、言いよどんでいる雅耶に。
夏樹は、ただ不安な気持ちを募らせていた。
「うん。そうかも知れない。あいつらは、どうしても父さんのそのデータを開きたくて躍起になってるのかも。今日、オレが薬で動けないでいる間にも、嬉々として萩原がオレの手を認証に掛けてたよ」
「それって、前に言ってた静脈認証ってやつだろう?でもさ、それって…もしかして、お前じゃ…」
以前聞いた時は、夏樹が冬樹に成りすましているなどとは思いもよらなかった。だが、事実を知った今なら、その解除は容易ではないことが分かる。
「うん…。本当は、ふゆちゃんの手じゃないと開けないんだ」
夏樹は少し困ったような笑顔を見せた。
「でも、向こうはそれを知らないから。今日、無理やり解除させようとオレの手で試していたけど…。開かなくても他にも何か秘密があるとしか思ってないみたいだった」
その右手を握りしめる。
「どんなにオレを狙って試したって、父さんのデータはあいつらの手に渡ることはないけど…。こっちも手に入れられないのは同じだからな…」
途方に暮れたように夏樹は天井を見上げると、小さく溜息を吐いた。
その言葉に、雅耶は大きく反応した。
「馬鹿!同じじゃないだろっ。データを取られることはなくても、お前はそれだけ危険な目に遭うんじゃないかっ。そこんとこ間違えるなよっ」
「…雅耶…?」
急に真剣な顔で怒り出した雅耶に、夏樹は困惑した様子を見せている。
「俺が言いたいこと、ちゃんと分かってるかっ?…確かに、今日みたいなことがあっても、そのおじさんの大事なデータはあいつらの手に渡ることはない。でも、実際お前があいつらの元に連れて行かれてたら、もっと危険な目に遭っていたかも知れないんだぞ」
「…うん…」
頷きながらも、未だ困惑気味な夏樹に。
(やっぱり、お前は解ってないよ…)
雅耶は立ち上がると、気持ちを落ち着けるように窓際へ足を運ぶと、カーテンを開けた。
外はすっかり日が暮れて、夜の闇が広がっている。
(…雅耶…?)
「もしも、今日みたいに身体の利かないままに何処かへ連れ去られたとして、お前が冬樹ではなく夏樹だと気付かれたらどうなると思う?相手は逆上して何をするか分からない…。それに…」
「…それに…?」
こちらに背を向けたまま、言いよどんでいる雅耶に。
夏樹は、ただ不安な気持ちを募らせていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

M性に目覚めた若かりしころの思い出
kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
【完結】君への祈りが届くとき
remo
青春
私は秘密を抱えている。
深夜1時43分。震えるスマートフォンの相手は、ふいに姿を消した学校の有名人。
彼の声は私の心臓を鷲掴みにする。
ただ愛しい。あなたがそこにいてくれるだけで。
あなたの思う電話の相手が、私ではないとしても。
彼を想うと、胸の奥がヒリヒリする。
【完結】ホウケンオプティミズム
高城蓉理
青春
【第13回ドリーム小説大賞奨励賞ありがとうございました】
天沢桃佳は不純な動機で知的財産権管理技能士を目指す法学部の2年生。桃佳は日々一人で黙々と勉強をしていたのだが、ある日学内で【ホウケン、部員募集】のビラを手にする。
【ホウケン】を法曹研究会と拡大解釈した桃佳は、ホウケン顧問の大森先生に入部を直談判。しかし大森先生が桃佳を連れて行った部室は、まさかのホウケン違いの【放送研究会】だった!!
全国大会で上位入賞を果たしたら、大森先生と知財法のマンツーマン授業というエサに釣られ、桃佳はことの成り行きで放研へ入部することに。
果たして桃佳は12月の本選に進むことは叶うのか?桃佳の努力の日々が始まる!
【主な登場人物】
天沢 桃佳(19)
知的財産権の大森先生に淡い恋心を寄せている、S大学法学部の2年生。
不純な理由ではあるが、本気で将来は知的財産管理技能士を目指している。
法曹研究会と間違えて、放送研究会の門を叩いてしまった。全国放送コンテストに朗読部門でエントリーすることになる。
大森先生
S大法学部専任講師で放研OBで顧問
専門は知的財産法全般、著作権法、意匠法
桃佳を唆した張本人。
高輪先輩(20)
S大学理工学部の3年生
映像制作の腕はプロ並み。
蒲田 有紗(18)
S大理工学部の1年生
将来の夢はアナウンサーでダンス部と掛け持ちしている。
田町先輩(20)
S大学法学部の3年生
桃佳にノートを借りるフル単と縁のない男。実は高校時代にアナウンスコンテストを総ナメにしていた。
※イラスト いーりす様@studio_iris
※改題し小説家になろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる