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譲れない想い
20-5
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一方の雅耶は…。
両手が塞がっている為、何とかインターフォンのボタンだけを押すと、母親が玄関ドアを開けてくれるのを待った。
『あら、雅耶?あんた鍵忘れてったの?』
「いや、今両手が塞がってるんだ。悪いんだけど、ドア…開けて貰えないかな?」
インターフォン越しに短く会話を交わすと、渋々ながらも母親がドアを開けて迎え入れてくれる。
だが、次の瞬間。
「どっ…どうしたのっ?その子…」
両手が塞がっている理由を目の当たりにして、母親は呆然と立ち尽くしていた。
「ただいま…。ちょっ…と、その…こいつ具合が悪くて、今は眠ってるんだ。とりあえず、俺の部屋に連れてって休ませるから…」
詳しく説明するのも面倒で、雅耶は言葉を濁した。
そうして、とりあえず自分の部屋のベッドへと冬樹を寝かせると、母親が控えめに部屋に入って来た。
「ねぇ、雅耶。あんたのベッドなんかで良いの?別にお布団敷いてあげた方が良かったんじゃないの?」
人の布団をまるで汚いもののように言う母親に、雅耶は苦笑すると「少しだからいいよ」と、その提案を押し退けた。
母親は未だ何か言いたそうだったが、とりあえず納得すると、静かに眠るその少年をそっと見詰めた。
「…随分と綺麗な子ね。あんたの高校の友達?」
「…え」
それが冬樹であることには、気付いていないらしい。
「この子のご家族には連絡したの?具合悪いんなら、連絡だけでも入れといた方がいいんじゃないの?」
声を落として、心配げにこちらを振り返る母親に。
「母さん、それ…冬樹だよ」
雅耶は制服から普段着に着替えながら、平然と言った。
(本当は、夏樹だけど…)
そこは混乱するだろうから黙っておく。
すると、母親は驚きの眼差しで再び冬樹の眠る姿を凝視していた。
だが、そのうち急に泣き出してしまい、今度は雅耶がぎょっとする。
「…母さん…」
「…すっかり見違えるほど大きくなって…。聡子ちゃんも、さぞかし天国で喜んでいるでしょうね…」
母親は人差し指で涙を拭った。
『聡子』とは、冬樹達の母親の名前だった。
母とは本当に仲が良い友人で、母親同士が頻繁にお互いの家を出入りしていたからこそ、冬樹と夏樹と雅耶はいつだって一緒にいたのだ。
母親は暫くして涙を収め、1人しんみりしてしまったのを小さく謝ると。
「何かあったら呼んでね。目が覚めて具合が良さそうだったら、下にも連れておいでね」
そう言って、静かに雅耶の部屋を後にした。
両手が塞がっている為、何とかインターフォンのボタンだけを押すと、母親が玄関ドアを開けてくれるのを待った。
『あら、雅耶?あんた鍵忘れてったの?』
「いや、今両手が塞がってるんだ。悪いんだけど、ドア…開けて貰えないかな?」
インターフォン越しに短く会話を交わすと、渋々ながらも母親がドアを開けて迎え入れてくれる。
だが、次の瞬間。
「どっ…どうしたのっ?その子…」
両手が塞がっている理由を目の当たりにして、母親は呆然と立ち尽くしていた。
「ただいま…。ちょっ…と、その…こいつ具合が悪くて、今は眠ってるんだ。とりあえず、俺の部屋に連れてって休ませるから…」
詳しく説明するのも面倒で、雅耶は言葉を濁した。
そうして、とりあえず自分の部屋のベッドへと冬樹を寝かせると、母親が控えめに部屋に入って来た。
「ねぇ、雅耶。あんたのベッドなんかで良いの?別にお布団敷いてあげた方が良かったんじゃないの?」
人の布団をまるで汚いもののように言う母親に、雅耶は苦笑すると「少しだからいいよ」と、その提案を押し退けた。
母親は未だ何か言いたそうだったが、とりあえず納得すると、静かに眠るその少年をそっと見詰めた。
「…随分と綺麗な子ね。あんたの高校の友達?」
「…え」
それが冬樹であることには、気付いていないらしい。
「この子のご家族には連絡したの?具合悪いんなら、連絡だけでも入れといた方がいいんじゃないの?」
声を落として、心配げにこちらを振り返る母親に。
「母さん、それ…冬樹だよ」
雅耶は制服から普段着に着替えながら、平然と言った。
(本当は、夏樹だけど…)
そこは混乱するだろうから黙っておく。
すると、母親は驚きの眼差しで再び冬樹の眠る姿を凝視していた。
だが、そのうち急に泣き出してしまい、今度は雅耶がぎょっとする。
「…母さん…」
「…すっかり見違えるほど大きくなって…。聡子ちゃんも、さぞかし天国で喜んでいるでしょうね…」
母親は人差し指で涙を拭った。
『聡子』とは、冬樹達の母親の名前だった。
母とは本当に仲が良い友人で、母親同士が頻繁にお互いの家を出入りしていたからこそ、冬樹と夏樹と雅耶はいつだって一緒にいたのだ。
母親は暫くして涙を収め、1人しんみりしてしまったのを小さく謝ると。
「何かあったら呼んでね。目が覚めて具合が良さそうだったら、下にも連れておいでね」
そう言って、静かに雅耶の部屋を後にした。
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