【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
249 / 302
譲れない想い

20-1

しおりを挟む
雅耶は駅から家までの道のりを足早に歩いていた。

本日行われた空手大会では、個人戦と団体戦が行われ、成蘭高校は団体戦で三連覇という快挙を成し遂げた。
団体戦に雅耶達一年生は参加していないが、三年生はこの大会が終わると同時に引退となる為、下級生達の応援にも熱が入り、雅耶が冬樹からのメールに気付いたのは、決勝戦が終わった後の皆が興奮に沸いている中でだった。

『父さんの研究データを見せて貰う為、別荘に来てる。』

思ってもみなかったその内容に、雅耶は大きく目を見張った。
(馬鹿かっ!あれ程忠告しておいたのに、無防備すぎるだろっ!)
思わず携帯を持つ手に力が入る。
心配を通り越して憤りさえ感じてしまう雅耶だったが、その後の文面に目を通すや否や、今度は簡単に毒気を抜かれてしまった。

『心配してくれてたのに、事後報告になっちゃってゴメン。』
『試合頑張ってね。応援してる。』

雅耶は一人、携帯を手に脱力すると小さく溜息を吐いた。
(まったく…。敵わないな…)
そんな何気ない言葉が、こんなにも嬉しくて仕方がないなんて、自分は何て単純に出来ているのだろう…と思う。
思わず口元が緩みそうにさえなって、雅耶は自らの拳でそれをさりげなく隠した。
(…こういうのを敢えて狙ってやってるんだとしたら、タチ悪いよな…)

あいつに限って、それはないだろうけれど。
俺がいつもどんな気持ちで傍に居るのか…きっと、考えてもみないのだろうから。

雅耶は歩きながら、ポケットから携帯を取り出して新しいメールが来ていないかチェックした。
だが、冬樹からその後の連絡は入っていない。
(無事であるなら、別にいいんだ…)

今冬樹は、父親のことが何よりも知りたくて堪らないのだろう。
気持ちは分かる。
亡き父を信じたい気持ち。
そして、その全てを解りたいと思う気持ち…。
(あいつのことだ。きっと、それなりに危険を覚悟で行ったに違いない…)

でも…。
こちらの気持ちも分かって欲しい、と思ってしまうのは傲慢だろうか。
今迄にも、何度か危険な目に遭っているのだから、もう少し自重して欲しいと思うのに。
力をはなから疑っている訳ではないが、もしも何かあってからでは遅いのだ。
あんな遠くの別荘では、自分は助けに駆けつけることすら出来ないのだから。

(でもな…。それこそが『夏樹』だとか思えちゃうところが問題だよな…)

雅耶は空を見上げると、心の中で苦笑した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春

mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆ 人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。 イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。 そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。 俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。 誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。 どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。 そう思ってたのに…… どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ! ※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。

たかなしポン太
青春
【第7回カクヨムコンテスト中間選考通過作品】  本編完結しました! 「どうして連絡をよこさなかった?」 「……いろいろあったのよ」 「いろいろ?」 「そう。いろいろ……」 「……そうか」 ◆◆◆ 俺様でイメケンボッチの社長御曹司、宝生秀一。 家が貧しいけれど頭脳明晰で心優しいヒロイン、月島華恋。 同じ高校のクラスメートであるにもかかわらず、話したことすらなかった二人。 ところが……図書館での偶然の出会いから、二人の運命の歯車が回り始める。 ボッチだった秀一は華恋と時間を過ごしながら、少しずつ自分の世界が広がっていく。 そして華恋も秀一の意外な一面に心を許しながら、少しずつ彼に惹かれていった。 しかし……二人の先には、思いがけない大きな障壁が待ち受けていた。 キャラメルから始まる、素直になれない二人の身分差ラブコメディーです! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...