244 / 302
ドラッグ&トラップ
19-6
しおりを挟む
だが、萩原はディスプレイに表示された『エラー』の文字に目を丸くした。
「何故だっ?上手く読み込めなかったのかっ?」
そう言うと、もう一度冬樹の右掌を認証装置に掛けた。
だが、エラーが出る事に変わりはない。
「…そうかっ、左手なんだなっ?」
再び、必死に冬樹の左掌を読み込む為に押さえ付けている萩原に。
冬樹は、そっと目を閉じた。
(いくらやったって開くワケない…。オレは冬樹じゃないんだから…)
結局、左右共に何度やってもエラーが出るばかりで、そのデータファイルが開かれることはなかった。
「何故だ…。何故開かない…?確かに野崎冬樹の掌の静脈認証で開く筈なのに、どうして…」
動揺を隠せないでいる萩原は、ディスプレイを睨みつけながら爪を噛んで何やらブツブツ呟いていたが、既に抵抗も見せず静かに俯いている冬樹を見下ろすと掴み掛った。
「お前っ何か知ってるんだろうっ?どうしてデータは開かないんだっ?他に何か秘密でもあるのかっ?」
その細い身体を強く揺さぶると、冬樹がゆっくりと視線を上げた。
「…オレは何も知らない。…言っただろ?『オレ』には…それを解除することは出来ないって…」
だが、その言葉の意味を萩原が読み取れる筈もなく。
「くそっ、役立たずめっ!」
そう言うと、冬樹を床に突き倒した。
「……くっ…!」
蹲っている力から少し離れた場所に、冬樹も倒れ込む。
床に身体を打ち付ける痛みに小さく呻くも、冬樹はいい気味だと思っていた。
(お父さんの大切なデータをお前なんかに渡してたまるか。どうやったって開ける筈がないんだ…。散々悩み苦しめばいい…)
痺れに苦しみながらも様子を伺っていた力は、何処か違和感を感じていた。
『オレには無理なんだ』
『オレにはそれを解除することは出来ない』
そう、頑なに言い続けていた冬樹。
(もしかして、冬樹は最初から分かっていたのか?自分ではファイルを開けないことを…。でも、この情報は確かな筈だ。野崎のおじさんは、長男の冬樹に鍵を託した、と…。でも、何だろう…何かが引っ掛かる…)
そう思っていた所で、イラついた萩原が冬樹を突き倒すのが見えた。
視線の先、力と少し離れた場所に冬樹が倒れ込んでくる。
だが、倒れ込んだ冬樹が不意にクスッ…と小さく笑うのが見えた。
(冬樹…?やはり、お前は何か知っているんだな…)
「何故だっ?上手く読み込めなかったのかっ?」
そう言うと、もう一度冬樹の右掌を認証装置に掛けた。
だが、エラーが出る事に変わりはない。
「…そうかっ、左手なんだなっ?」
再び、必死に冬樹の左掌を読み込む為に押さえ付けている萩原に。
冬樹は、そっと目を閉じた。
(いくらやったって開くワケない…。オレは冬樹じゃないんだから…)
結局、左右共に何度やってもエラーが出るばかりで、そのデータファイルが開かれることはなかった。
「何故だ…。何故開かない…?確かに野崎冬樹の掌の静脈認証で開く筈なのに、どうして…」
動揺を隠せないでいる萩原は、ディスプレイを睨みつけながら爪を噛んで何やらブツブツ呟いていたが、既に抵抗も見せず静かに俯いている冬樹を見下ろすと掴み掛った。
「お前っ何か知ってるんだろうっ?どうしてデータは開かないんだっ?他に何か秘密でもあるのかっ?」
その細い身体を強く揺さぶると、冬樹がゆっくりと視線を上げた。
「…オレは何も知らない。…言っただろ?『オレ』には…それを解除することは出来ないって…」
だが、その言葉の意味を萩原が読み取れる筈もなく。
「くそっ、役立たずめっ!」
そう言うと、冬樹を床に突き倒した。
「……くっ…!」
蹲っている力から少し離れた場所に、冬樹も倒れ込む。
床に身体を打ち付ける痛みに小さく呻くも、冬樹はいい気味だと思っていた。
(お父さんの大切なデータをお前なんかに渡してたまるか。どうやったって開ける筈がないんだ…。散々悩み苦しめばいい…)
痺れに苦しみながらも様子を伺っていた力は、何処か違和感を感じていた。
『オレには無理なんだ』
『オレにはそれを解除することは出来ない』
そう、頑なに言い続けていた冬樹。
(もしかして、冬樹は最初から分かっていたのか?自分ではファイルを開けないことを…。でも、この情報は確かな筈だ。野崎のおじさんは、長男の冬樹に鍵を託した、と…。でも、何だろう…何かが引っ掛かる…)
そう思っていた所で、イラついた萩原が冬樹を突き倒すのが見えた。
視線の先、力と少し離れた場所に冬樹が倒れ込んでくる。
だが、倒れ込んだ冬樹が不意にクスッ…と小さく笑うのが見えた。
(冬樹…?やはり、お前は何か知っているんだな…)
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
僕とやっちゃん
山中聡士
青春
高校2年生の浅野タケシは、クラスで浮いた存在。彼がひそかに思いを寄せるのは、クラスの誰もが憧れるキョウちゃんこと、坂本京香だ。
ある日、タケシは同じくクラスで浮いた存在の内田靖子、通称やっちゃんに「キョウちゃんのこと、好きなんでしょ?」と声をかけられる。
読書好きのタケシとやっちゃんは、たちまち意気投合。
やっちゃんとの出会いをきっかけに、タケシの日常は変わり始める。
これは、ちょっと変わった高校生たちの、ちょっと変わった青春物語。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】さよなら、私の愛した世界
東 里胡
青春
十六歳と三ヶ月、それは私・栗原夏月が生きてきた時間。
気づけば私は死んでいて、双子の姉・真柴春陽と共に自分の死の真相を探求することに。
というか私は失くしたスマホを探し出して、とっとと破棄してほしいだけ!
だって乙女のスマホには見られたくないものが入ってる。
それはまるでパンドラの箱のようなものだから――。
最期の夏休み、離ればなれだった姉妹。
娘を一人失い、情緒不安定になった母を支える元家族の織り成す新しいカタチ。
そして親友と好きだった人。
一番大好きで、だけどずっと羨ましかった姉への想い。
絡まった糸を解きながら、後悔をしないように駆け抜けていく最期の夏休み。
笑って泣ける、あたたかい物語です。
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる