【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
236 / 302
罪と願いと…

18-11

しおりを挟む
「親父さんのこと、何か分かったか?…調べてみたんだろう?」
車を走らせて少ししたところで力が聞いてきた。
「ああ…でも、特には…。ただ、お前が言っていたように心臓の病気に関する薬の研究に力を入れてたことだけは分かったよ」
前にあの部屋に入った時は気が付かなかったのだが、よくよく気にして見てみれば、書斎の本棚にあった医学書は、心臓に関する専門書が数多く見られたのだ。
そのことを説明すると、力は「そうか…」とだけ呟き、何かを考えるように視線を外へと向けた。
冬樹もそのまま、反対側の流れていく景色に目を向けていて、バックミラー越しに向けられた運転手の意味ありげな視線に気付くことはなかった。

冬樹達を乗せた車は、例の別荘へと向かっていた。
夏休み中に雅耶と電車を乗り継いで来た時と比べて断然に早く、小一時間程で麓の町を通過する。
山道に入ると、冬樹は何となく落ち着かない気持ちになった。
あの崖に近付いていることの緊張感は勿論なのだが、何よりも雅耶と二人で歩いた時のことが思い出されて、何だか切なくなったのだ。
そんなに昔のことでもないのに、随分前のことのような気がする。

(…雅耶。そろそろ試合が始まる頃かな…)

カーブが多い山道の生い茂る緑をぼんやりと眺めながら、昨日雅耶と話していた時のことを思い返していた。


昨夜も冬樹がバイトを終えると、雅耶は店の前で待っていた。
すっかり送って貰うのが日課のようになりつつあり、それはそれで『男』を装っている身としては複雑な気持ちもしたが、雅耶が心配してくれているのが伝わって来て、心の中では素直に嬉しかった。

(…でも、オレが今日、力と一緒に別荘へ来ていると知ったら雅耶…怒るかな…)

雅耶は屋上で聞いた力の話についても、少し心配しているようだった。
『力が言っていたことが嘘だとは思っていない。でも、全てを信用して動くのは危険かも知れない…。あいつの親父さんが絡んでいるのなら尚更だ。気を付けろよ?冬樹…』
昨夜、雅耶が言っていた言葉を思い出す。

(ごめん、雅耶。でも…どうしても父さんの開発した薬について詳しく知りたいんだ…)

朝、力が電話してきた時、実は少し迷った。
『もしも別荘の書類を調べたいのなら、連れてってやるぞ』
…その誘いの言葉に。

(でも、動き出さないと前へ進めないんだ…)

既に巻き込まれている以上、危険は承知の上だ。

冬樹は、さり気なく握った拳に力を込めるのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺と代われ!!Re青春

相間 暖人
青春
2025年、日本では国家主導で秘密裏に実験が行われる事になった。 昨今の少子化は国として存亡の危機にあると判断した政府は特別なバディ制度を実施する事により高校生の恋愛を活発にしようと計ったのだ。 今回はその一組の話をしよう。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

処理中です...