【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
209 / 302
思惑と誤算

17-2

しおりを挟む
(これだけあからさまに態度に表してるのに、コイツも懲りないな…)
冬樹は横からの視線を感じながらも、気のないふりをしながら、ずっと空を眺めていた。

力は『お前に会いに来た』と宣言した通り、何故だか自分について回っている。仲間内でワイワイやってても、気付けばいつの間にか隣にいるような感じで。
(…何を企んでるんだか知らないけど…)
ハッキリ言って、下心があるようにしか見えない。

冬樹が力を毛嫌いするのには、実は理由がある。
勿論、昔…冬樹がまだ『夏樹』であった時に、やたらとしつこく迫られていたのが苦手意識を生んだ大きな要因ではあったのだが、ただ単に漠然と嫌だったという訳ではない。
そこには忘れもしない、ある出来事があったのだ。
(今思い出しても、おぞましい。…コイツに騙されて、オレは…っ)
それを思い出すだけでも、怒りで思わず腕に力を込めずにはいられない冬樹だった。

それは、例の別荘で一緒に遊んでいた時のこと。

『なぁなつきー、おれ、お前にプレゼントがあるんだー。ちょっと目ェつぶっててくれよ』
力は両手を後ろにして何かを隠し持っているようだった。
夏樹は、疑いの眼差しで見詰めた。
『そんなこと言って…ヘンな虫とかそういうのじゃないの?』
『バカだなー、なつきにそんないやがらせ…おれがするワケないじゃんっ』
何故だか胸を張って言うから。
『ほんとに…?こわいものとかだったら知らないからねっ』
夏樹はおそるおそる目を瞑った。
『んーじゃあ、手ェだして♪』
そう言われて、小さく両手を差し出した。
すると…。

チュッ。

…と。
唇に不思議な感触があった。

まだ小さな子どもながらにも、流石にそれが何か解ってしまった夏樹は、大きく飛び退いた。
『なっ…なっ…』
(いまのって…もしかして、チュー??)
動揺して真っ赤になりながら、両手で口元を押さえている夏樹に。
力は満足気に飛び上がって喜んだ。
『へへへっ♪なつきのはじめて、もーらいっ♪』
そう言って、逃げていく力の後ろ姿を呆然と見送って…。
夏樹は暫く、その場に立ち尽くしていたのだった。

(…思い出すだけで、虫唾ムシズが走る…)

冬樹は小さくこっそり溜息を吐いた。
そう、夏樹のいわゆるファースト・キスは、その時力に奪われてしまったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結】眠り姫は夜を彷徨う

龍野ゆうき
青春
夜を支配する多数のグループが存在する治安の悪い街に、ふらりと現れる『掃除屋』の異名を持つ人物。悪行を阻止するその人物の正体は、実は『夢遊病』を患う少女だった?! 今夜も少女は己の知らぬところで夜な夜な街へと繰り出す。悪を殲滅する為に…

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

恋の消失パラドックス

葉方萌生
青春
平坦な日常に、インキャな私。 GWが明け、学校に着くとなにやらおかしな雰囲気が漂っている。 私は今日から、”ハブられ女子”なのか——。 なんともない日々が一変、「消えたい」「消したい」と願うことが増えた。 そんなある日スマホの画面にインストールされた、不思議なアプリ。 どうやらこのアプリを使えば、「消したいと願ったものを消すことができる」らしいが……。

処理中です...