【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
189 / 302
キミに会いたくて

15-6

しおりを挟む
何故か力に捕まって未だに話し込んでいる雅耶を横目に、冬樹は小さく溜息を吐くと、ガードレールに寄り掛かりながら聞こえてくる二人の会話を何気なく聞き流していた。
『話し込んでる』というよりは、一方的に話しているのは力の方で、雅耶は聞かされているという感じだ。
(雅耶はお人好しなんだよ。そんな奴の相手しなくたっていいのに…)
雅耶に対して妙に偉そうな態度の力にムカムカしながらも、あまり関わりたくないので静かに傍観を決め込んでいる冬樹だった。

「俺はさ、毎年この日は欠かさずこうして此処に来てるんだぜ。アイツが少しでも安らかに眠れるように…ってな」
「…あいつ?」
雅耶が聞き返すと、力は威張って言った。
「夏樹のことに決まってんだろ?俺は…俺はなぁっ、絶対にアイツを嫁に貰うって決めてたんだっ!!それなのに…っ」
そこまで聞いて、冬樹は思わず吹き出した。

(何言っちゃってんだっ!?あいつッ!!)

そのまま、独りむせて咳込んでいる冬樹の方に雅耶がゆっくり近付いて来る。
「…大丈夫か?」
「ゴホ…。ん…へーき…」
向こうで、力が感極まったのか海に向かって何か叫んでいる。
「…何ていうか、変わってる奴…だな?」
雅耶は苦笑を浮かべて、それを眺めている。
冬樹はやっと呼吸を落ち着けると、そっと雅耶に耳打ちした。



「なぁ…雅耶、もう行こうぜ?オレ、あいつ苦手でさ…」
「…え?」

冬樹の顔を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
その顔を見た雅耶はクスッ…と、思わず笑みをこぼすと。
「OK。じゃあそろそろ、おいとましよう」
小声で返すと、冬樹は素直に頷いた。

(そういえば、昔聞いたことあったな。おじさんの知り合いの子で夏樹に猛アタックしてる子がいるって…)
確か冬樹から聞いたのだと思う。
その頃、俺も夏樹が好きで冬樹には色々と相談していたから、その話を聞いた時は、ライバルの出現にドキッとしたものだ。
だが、冬樹は笑って言った。

『なっちゃん、すっごい引いててさ。あんなに何かから逃げ回ってるなっちゃんなんて、なかなか見れないと思うよ。…もしかして、何かされたりしたのかな?』
なんて首を傾げていたっけ。

(…っていうか、『何かされた』って何だっ!?)

今更ながらにそんなことを思って、目の前の『冬樹』をまじまじと見ていたら不思議そうな顔をされた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】

S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。 物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。

夏の決意

S.H.L
青春
主人公の遥(はるか)は高校3年生の女子バスケットボール部のキャプテン。部員たちとともに全国大会出場を目指して練習に励んでいたが、ある日、突然のアクシデントによりチームは崩壊の危機に瀕する。そんな中、遥は自らの決意を示すため、坊主頭になることを決意する。この決意はチームを再び一つにまとめるきっかけとなり、仲間たちとの絆を深め、成長していく青春ストーリー。

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

刈り上げの春

S.H.L
青春
カットモデルに誘われた高校入学直前の15歳の雪絵の物語

礼儀と決意:坊主少女の学び【シリーズ】

S.H.L
青春
男まさりでマナーを知らない女子高生の優花が成長する物語

坊主女子:女子野球短編集【短編集】

S.H.L
青春
野球をやっている女の子が坊主になるストーリーを集めた短編集ですり

坊主女子:学園青春短編集【短編集】

S.H.L
青春
坊主女子の学園もの青春ストーリーを集めた短編集です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...