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キミに会いたくて
15-2
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暫く歩いて行くうちに、山の景色ばかりだったそこに海が見えてきた。
(もうすぐだ…)
目を細めて遠くを眺める冬樹に、雅耶が控えめに声を掛けて来た。
「なぁ、冬樹…」
「ん?」
「その…お前は、ここまで来るの…初めてなんだろ?その場所って行けば分かるものなのか?」
こちらを気遣いながらも、当然の疑問を口にした。
「ああ。オレ…この道は何度も車で通っているから。あの時、テレビとかで映ってたのを見たし、行けばすぐ判ると思う」
事故が多い場所だと言っていた。
過去に車で通った時に、それらしい警告の看板を見たこともあった。
「そっか…」
「うん。でも変に土地開発とか進んでなければ…だけど」
そう言って冬樹は小さく笑った。
実際、うっかり周囲に建物などが増えていたら分からないかも知れない。
あれから八年もの年月が経過しているのだ。
人の手が掛かれば、景色などいくらでも変わってしまう。
だが、そんな心配とは裏腹に、歩いて行けども山の緑と海と空の青だけが広がっていた。それでも、この道をずっと先まで進んで行けば、両親によく連れられて行った別荘地へと続いているのだ。
その別荘地の手前にある坂道に面した急カーブが、今目指している所だった。
その場所が徐々に近づくにつれ、流石に冬樹から笑顔が消えていった。
言葉少なで緊張気味な冬樹の様子に気付きながらも、雅耶はただ静かに隣を歩いていた。
山の斜面を右手に、左手には海が広がっている。
海側は道路横のガードレールの少し先から切り立った崖になっていて、海面は数十メートルも下にあるようだった。
(凄い絶景…だよな…。ある意味…)
こうして道路脇を歩いているだけで、その高さにクラクラしそうだ。
(…その事故が起きた場所も、こんな感じの所なのかな?)
横を無言で歩いている冬樹の様子をそっと伺いながら雅耶は思った。
(だとしたら…きっと…。怖かっただろうな…)
その事故の恐怖は計り知れない。
冬樹には悪いが、助かる見込みなんて…この高さじゃほぼ絶望的な気がした。
と、その時。
不意に冬樹が足を止めた。
「…冬樹?」
少し後方で立ち止まっている冬樹を振り返ると、冬樹は大きな瞳を開いたまま小さく呟いた。
「…ここだ。父さんの車が事故を起こした場所は…」
下り坂の急カーブ。
ガードレールの外側、崖の少し手前にまだ真新しい花束が一つだけ手向けられていた。
(もうすぐだ…)
目を細めて遠くを眺める冬樹に、雅耶が控えめに声を掛けて来た。
「なぁ、冬樹…」
「ん?」
「その…お前は、ここまで来るの…初めてなんだろ?その場所って行けば分かるものなのか?」
こちらを気遣いながらも、当然の疑問を口にした。
「ああ。オレ…この道は何度も車で通っているから。あの時、テレビとかで映ってたのを見たし、行けばすぐ判ると思う」
事故が多い場所だと言っていた。
過去に車で通った時に、それらしい警告の看板を見たこともあった。
「そっか…」
「うん。でも変に土地開発とか進んでなければ…だけど」
そう言って冬樹は小さく笑った。
実際、うっかり周囲に建物などが増えていたら分からないかも知れない。
あれから八年もの年月が経過しているのだ。
人の手が掛かれば、景色などいくらでも変わってしまう。
だが、そんな心配とは裏腹に、歩いて行けども山の緑と海と空の青だけが広がっていた。それでも、この道をずっと先まで進んで行けば、両親によく連れられて行った別荘地へと続いているのだ。
その別荘地の手前にある坂道に面した急カーブが、今目指している所だった。
その場所が徐々に近づくにつれ、流石に冬樹から笑顔が消えていった。
言葉少なで緊張気味な冬樹の様子に気付きながらも、雅耶はただ静かに隣を歩いていた。
山の斜面を右手に、左手には海が広がっている。
海側は道路横のガードレールの少し先から切り立った崖になっていて、海面は数十メートルも下にあるようだった。
(凄い絶景…だよな…。ある意味…)
こうして道路脇を歩いているだけで、その高さにクラクラしそうだ。
(…その事故が起きた場所も、こんな感じの所なのかな?)
横を無言で歩いている冬樹の様子をそっと伺いながら雅耶は思った。
(だとしたら…きっと…。怖かっただろうな…)
その事故の恐怖は計り知れない。
冬樹には悪いが、助かる見込みなんて…この高さじゃほぼ絶望的な気がした。
と、その時。
不意に冬樹が足を止めた。
「…冬樹?」
少し後方で立ち止まっている冬樹を振り返ると、冬樹は大きな瞳を開いたまま小さく呟いた。
「…ここだ。父さんの車が事故を起こした場所は…」
下り坂の急カーブ。
ガードレールの外側、崖の少し手前にまだ真新しい花束が一つだけ手向けられていた。
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