【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
168 / 302
夏色メランコリー

13-10

しおりを挟む
「………」

冬樹は雅耶の言葉に驚き、瞳を見開いて呆然と佇んでいた。
お互いに視線を絡ませながら立ち尽くしている二人の間を、一陣の風が通り抜けて行く。
(夏樹がダブって見えるって…。どういう、意味…?もしかして…バレた、のか…?)
冬樹は、雅耶の真意を計り兼ねていた。
ただ…やたらと自身の心音が、ドクドク大きく脈打っていくのを感じていた。



「お前と一緒にいて…最近、すごく夏樹のことを思い出すことが多いんだ…。実際、お前達は本当によく似てるんだなぁって、今更ながらに思い知らされてる感じがするよ。…お前はお前…なのに、可笑しなこと言ってごめんな?」
何も言えずに固まっている冬樹を見て、雅耶は表情を緩めると取り繕うように言った。
「夏樹に会いたいって…。そう思ってる願望からだったりするのかもな…?」
そう言うと、冬樹が一瞬泣きそうな顔になった。

最近、冬樹が夏樹に見えてしまう…。それは本音だった。
どうして、そんな風に感じるのか自分でも分からない。
確かに夏樹が生きていてくれたら…、此処にいてくれたら…と思っているのは確かだ。
だが、それは俺なんかより冬樹自身が一番感じていることに違いなくて。
(それなのに、俺はまた…無神経なことを口走って…。そんなことを言ったって、冬樹を傷付けるだけなのにな…)
後悔の念に駆られている雅耶に、冬樹が小さく呟いた。

「オレ達双子って…そんなに似てた?」

「…え?」
「昔から…そんなに似てたかな?オレ達、よく…入れ替わったりして…雅耶のことも、からかったりしてただろ?」
何故だか悲しげにそう呟く冬樹から目を離せず、狼狽えながらも雅耶は言った。
「あ…ああ。そうだな…。俺は何だかんだといっつも騙されてた方だから、あんまり見分けは付いてなかったとは思うんだけど…」
「………」
「…でも、お互いを演じられちゃうと、ちょっと判らなかったけど、素での二人なら俺は見分けられたぜ?…完璧…とは言えないけどなっ」
そう言って笑う雅耶に、冬樹は目を見開いた。



「…見分け…られた?」
「?…ああ。特に夏樹は、分かりやすかったしな」

そんな、ある意味失礼なことを言う雅耶の言葉が、何故だか無性に嬉しくて。
思わず、冬樹は泣きそうになった。

冬樹を演じている自分の中の『夏樹』に気付いてくれていることが嬉しいなんて…。
本当は、喜んでいたらいけないことなのに。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...