【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
166 / 302
夏色メランコリー

13-8

しおりを挟む
「この海は、ずっと繋がってる。どこまでも、どこまでも…。だから、この海には…。この先には、父さん達が眠っているんだ…」
目を細めて遠くを見詰める冬樹の、その言葉に。
「……っ…」
雅耶は衝撃が走った。
「オレは、ずっと…。向き合うのが怖かったんだ、あの事故のこと…。その事実に正面から向き合うことが出来なくて…。ずっと…認められなくて…。…逃げていたんだ」
「…冬樹…」



何度も、何度も、夢に見る。

オレは、みんなを探して広い広い海に、ひとり浮かんでいて。
『ふゆちゃーんッ』『おとうさんっ』『おかあさーんっ』
呼んでも呼んでも、ザアザアと水の音しかしなくて。
悲しくて、泣き叫んでも、誰もいない。

だけど、ふと…。
足を引かれるのに気付いて、下を覗き込むと。

『たすけて』『助けて…』『なつきー…』

お父さん、お母さん、そしてふゆちゃんが自分の足に掴まっていて…。

『苦しいよ…』『助けてよ』『なっちゃんーっ』

あの頃のままの、小さなふゆちゃんの手が伸びてくる。

『何で、ぼくが?』『何でなっちゃんだけ?』
『みんな、お前のせいだ』『お前の…』

そうして、引き摺り込まれる海の中は真っ暗で。苦しくて…。
咄嗟に、その手から逃れて浮上しようと藻掻くのだ。


そして、目が覚める。
でも、目が覚めた後、後悔だけが襲うのだ。
…自分の狡さに。

本当は、一緒に沈むのなら本望だと思っているのに。
思っているつもりでいるのに…。
どこかで、自分はやっぱり助かりたいと思っているのだろうか?…と。

それに、本物のふゆちゃんなら…。
あんなことになった今でも、自分を責めないでいてくれそうで。

ふゆちゃんのことを見くびっている…という罪悪感と。
実は、それさえも自分の都合のいい解釈なのかも知れないという、己への嫌悪感で一杯になった。



無言で海を眺めている冬樹の横顔が、苦痛に歪む。
冬樹が、まさかそんな理由で海に来たくなかったなんて思わなかった雅耶は、後悔の念に駆られた。
(俺は、馬鹿だ。…無神経だった…)
冬樹のことを理解したいと思っているのに、全然その想いをんであげられていない。

冬樹…。
お前は、その小さな背に…。
いったい、どれだけのものを背負って生きて来たんだろうな…。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

四条雪乃は結ばれたい。〜深窓令嬢な学園で一番の美少女生徒会長様は、不良な彼に恋してる。〜

八木崎(やぎさき)
青春
「どうしようもないくらいに、私は貴方に惹かれているんですよ?」 「こんなにも私は貴方の事を愛しているのですから。貴方もきっと、私の事を愛してくれるのでしょう?」 「だからこそ、私は貴方と結ばれるべきなんです」 「貴方にとっても、そして私にとっても、お互いが傍にいてこそ、意味のある人生になりますもの」 「……なら、私がこうして行動するのは、当然の事なんですよね」 「だって、貴方を愛しているのですから」  四条雪乃は大企業のご令嬢であり、学園の生徒会長を務める才色兼備の美少女である。  華麗なる美貌と、卓越した才能を持ち、学園中の生徒達から尊敬され、また憧れの人物でもある。  一方、彼女と同じクラスの山田次郎は、彼女とは正反対の存在であり、不良生徒として周囲から浮いた存在である。  彼は学園の象徴とも言える四条雪乃の事を苦手としており、自分が不良だという自己認識と彼女の高嶺の花な存在感によって、彼女とは距離を置くようにしていた。  しかし、ある事件を切っ掛けに彼と彼女は関わりを深める様になっていく。  だが、彼女が見せる積極性、価値観の違いに次郎は呆れ、困り、怒り、そして苦悩する事になる。 「ねぇ、次郎さん。私は貴方の事、大好きですわ」 「そうか。四条、俺はお前の事が嫌いだよ」  一方的な感情を向けてくる雪乃に対して、次郎は拒絶をしたくても彼女は絶対に諦め様とはしない。  彼女の深過ぎる愛情に困惑しながら、彼は今日も身の振り方に苦悩するのであった。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

切り裂かれた髪、結ばれた絆

S.H.L
青春
高校の女子野球部のチームメートに嫉妬から髪を短く切られてしまう話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

処理中です...