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夏色メランコリー
13-6
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その、伸びて来た男の手を冬樹が払おうとするのと、後ろから声が掛かるのは、ほぼ同時だった。
「お待たせっ冬樹」
「…雅耶」
男が掴んでくるのを止めたので、冬樹も払い除けようとした手を収めて雅耶を振り返った。
「あれ?その人達は?…知り合い?」
冬樹の前に取り囲むように立っている三人に、雅耶が視線を移す。
気まずそうに、肘で小突き合っている男達を横目で見た冬樹は、
「ん?…いや、何でもないよ。人違い…?」
そう言うと、立ち上がって雅耶のいる方へと歩み寄った。
後から来た長瀬が、冬樹と雅耶の後ろですごすごと男達が去って行くのを見ながら言った。
「なぁに?冬樹チャン、早速ナンパされちゃったのー?」
ニヤニヤとからかってくる。
「えっ!?ナンパ?」
雅耶は思いも寄らなかったのか、驚いて冬樹を見た。
「私服の冬樹チャン、可愛いもんねー♪女の子に見えちゃってもおかしくないって。ねぇねぇ、後で写真撮らせてよ♪本当は水着の方が良かったんだけどー」
そんなことを口にした長瀬に、雅耶が睨みつける。
「長瀬…お前、まさか…」
(それをまた売りつけるつもりじゃないだろうな…?)
目で訴えるが、長瀬は笑みを浮かべるだけだった。
だが、冬樹は「長瀬ー」と言って傍まで微笑みを浮かべながら近付いて行くと、腹に一発パンチをお見舞いするのだった。
全員で波打ち際で、暫くビーチボールなどで遊んだ後、長瀬達は少し泳いで来ると言って海に入って行った。
冬樹は借りて来たビーチパラソルの下、一人座って海を眺めていた。
目の前に広がる青い空には、夏特有の大きな入道雲が浮かんでいるが、太陽が隠れる位置には雲がなく、容赦なく強い日差しが真上から照りつけていた。
パラソルの影からはみ出た足先が、陽に当たってジリジリする。
「約束の『ブツ』買って来たぞー」
後方からの声に振り返ると、雅耶が両手にかき氷のカップを持って立っていた。
「…サンキュー」
冬樹は、その内の一つを笑顔で受け取ると、隣に雅耶が座るのを確認してから「いただきます」…と言って、氷をスプーンで突っついた。
隣で時折、冷たさからくる痛みに「うぉーっ」とか「くぅーっ」とか言いながら頭を押さえつつも、美味しそうに氷を食べている冬樹を雅耶は眩しそうに見詰めた。
くるくると変わる表情に、何故だか無性に嬉しくなる。
(最初は、超不機嫌でどうなるかと思ったけど…。結構、楽しんでくれてるみたいだし、強引にでも誘って良かったな…)
雅耶は微笑むと、自分もかき氷を口に運んだ。
「お待たせっ冬樹」
「…雅耶」
男が掴んでくるのを止めたので、冬樹も払い除けようとした手を収めて雅耶を振り返った。
「あれ?その人達は?…知り合い?」
冬樹の前に取り囲むように立っている三人に、雅耶が視線を移す。
気まずそうに、肘で小突き合っている男達を横目で見た冬樹は、
「ん?…いや、何でもないよ。人違い…?」
そう言うと、立ち上がって雅耶のいる方へと歩み寄った。
後から来た長瀬が、冬樹と雅耶の後ろですごすごと男達が去って行くのを見ながら言った。
「なぁに?冬樹チャン、早速ナンパされちゃったのー?」
ニヤニヤとからかってくる。
「えっ!?ナンパ?」
雅耶は思いも寄らなかったのか、驚いて冬樹を見た。
「私服の冬樹チャン、可愛いもんねー♪女の子に見えちゃってもおかしくないって。ねぇねぇ、後で写真撮らせてよ♪本当は水着の方が良かったんだけどー」
そんなことを口にした長瀬に、雅耶が睨みつける。
「長瀬…お前、まさか…」
(それをまた売りつけるつもりじゃないだろうな…?)
目で訴えるが、長瀬は笑みを浮かべるだけだった。
だが、冬樹は「長瀬ー」と言って傍まで微笑みを浮かべながら近付いて行くと、腹に一発パンチをお見舞いするのだった。
全員で波打ち際で、暫くビーチボールなどで遊んだ後、長瀬達は少し泳いで来ると言って海に入って行った。
冬樹は借りて来たビーチパラソルの下、一人座って海を眺めていた。
目の前に広がる青い空には、夏特有の大きな入道雲が浮かんでいるが、太陽が隠れる位置には雲がなく、容赦なく強い日差しが真上から照りつけていた。
パラソルの影からはみ出た足先が、陽に当たってジリジリする。
「約束の『ブツ』買って来たぞー」
後方からの声に振り返ると、雅耶が両手にかき氷のカップを持って立っていた。
「…サンキュー」
冬樹は、その内の一つを笑顔で受け取ると、隣に雅耶が座るのを確認してから「いただきます」…と言って、氷をスプーンで突っついた。
隣で時折、冷たさからくる痛みに「うぉーっ」とか「くぅーっ」とか言いながら頭を押さえつつも、美味しそうに氷を食べている冬樹を雅耶は眩しそうに見詰めた。
くるくると変わる表情に、何故だか無性に嬉しくなる。
(最初は、超不機嫌でどうなるかと思ったけど…。結構、楽しんでくれてるみたいだし、強引にでも誘って良かったな…)
雅耶は微笑むと、自分もかき氷を口に運んだ。
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