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キミの幻影
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何処からか蝉の鳴き声が聞こえる中、生温かい風が流れてくるリビングのソファに、冬樹は一人座っていた。
もう時刻は既に1時を回っていて、一番暑い時間帯に突入している。
庭先には真夏のギラギラとした日差しが照りつけていて、リビング中へもその光と熱が反射して眩しい位だったが、窓の一切無い書斎が暑過ぎた為か、風が流れている分冬樹は涼しさを感じていた。
すっかり泣き腫らした目をしながら、冬樹は、ぼーっ…とソファに深く腰掛ける。
(雅耶の胸を借りて泣くなんて…)
後々考えてみたら、随分と恥ずかしい真似をしてしまったという自覚はある。だが、自分的にも色々思うところはあるのだが、何だか本当に頭の中が未だにごちゃごちゃしていて…。ろくに気持ちの整理も出来ていなくて、泣いた分の怠さだけが今の冬樹に残っていた。
書斎を出た後、雅耶は「ちょっと待ってて」…と、言うと外へ出て行ってしまった。
(男のくせにあんなに泣いて…。流石に嫌になったかな…)
情けなさに溜息が出た。
だが…少し経つと、雅耶が玄関から入って来る音がした。
冬樹は、雅耶の反応を見るのが怖くて、そちらに視線を向けることなく、敢えてそのままぼーっと前を向いて座っていた。
すると…。
「ほいっ」
そう言って突然上から、目の前に冷えたペットボトルが差し出された。
思わず、それを凝視していると。
冬樹の座っているソファの後ろに手を付いて寄り掛かりながら雅耶は横から顔を出すと、「のど渇いたろ?」と笑った。
「あ…。ありがと…」
その雅耶との距離の近さに。
先程のことが頭を過ぎってしまい、冬樹は若干顔を赤らめると視線を落としてペットボトルを受け取った。
「あと、これ」
「?」
次に差し出されたのは、凍っている小さな保冷剤だった。
「目元…腫れてるから。冷やしといた方が良い」
「あ…うん…。色々ホントごめん…」
俯きながら、申し訳なさそうに受け取る冬樹に。
雅耶は、突然「却下!」と声を上げた。
「…えっ……?」
その声に驚きながらも、やっとこちらを振り返り視線を合わせて来た冬樹に、雅耶は満足気に微笑むと。
「こーいう時は、『ごめん』じゃなくて『ありがとう』でいいの!俺は、謝られるようなことは何もしてないし、されてないっ」
そう言って「だから『ごめん』は却下!」…と笑った。
もう時刻は既に1時を回っていて、一番暑い時間帯に突入している。
庭先には真夏のギラギラとした日差しが照りつけていて、リビング中へもその光と熱が反射して眩しい位だったが、窓の一切無い書斎が暑過ぎた為か、風が流れている分冬樹は涼しさを感じていた。
すっかり泣き腫らした目をしながら、冬樹は、ぼーっ…とソファに深く腰掛ける。
(雅耶の胸を借りて泣くなんて…)
後々考えてみたら、随分と恥ずかしい真似をしてしまったという自覚はある。だが、自分的にも色々思うところはあるのだが、何だか本当に頭の中が未だにごちゃごちゃしていて…。ろくに気持ちの整理も出来ていなくて、泣いた分の怠さだけが今の冬樹に残っていた。
書斎を出た後、雅耶は「ちょっと待ってて」…と、言うと外へ出て行ってしまった。
(男のくせにあんなに泣いて…。流石に嫌になったかな…)
情けなさに溜息が出た。
だが…少し経つと、雅耶が玄関から入って来る音がした。
冬樹は、雅耶の反応を見るのが怖くて、そちらに視線を向けることなく、敢えてそのままぼーっと前を向いて座っていた。
すると…。
「ほいっ」
そう言って突然上から、目の前に冷えたペットボトルが差し出された。
思わず、それを凝視していると。
冬樹の座っているソファの後ろに手を付いて寄り掛かりながら雅耶は横から顔を出すと、「のど渇いたろ?」と笑った。
「あ…。ありがと…」
その雅耶との距離の近さに。
先程のことが頭を過ぎってしまい、冬樹は若干顔を赤らめると視線を落としてペットボトルを受け取った。
「あと、これ」
「?」
次に差し出されたのは、凍っている小さな保冷剤だった。
「目元…腫れてるから。冷やしといた方が良い」
「あ…うん…。色々ホントごめん…」
俯きながら、申し訳なさそうに受け取る冬樹に。
雅耶は、突然「却下!」と声を上げた。
「…えっ……?」
その声に驚きながらも、やっとこちらを振り返り視線を合わせて来た冬樹に、雅耶は満足気に微笑むと。
「こーいう時は、『ごめん』じゃなくて『ありがとう』でいいの!俺は、謝られるようなことは何もしてないし、されてないっ」
そう言って「だから『ごめん』は却下!」…と笑った。
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