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「………」
冬樹は、不意に何かを感じて後ろを振り返った。
「…冬樹?…どうかしたか?」
誰もいない遠くを眺めている冬樹に、気付いた直純が声を掛ける。
「…いえ…」
(今、何か…声が聞こえたような気がしたんだけど…)
既に日が傾き、建ち並ぶ倉庫や建物をオレンジ色の西日が照らし、長い影を作っている。だが、そこには蒸し暑い風が吹き抜けるだけで、それらしい人影は何処にもなかった。
冬樹は直純と雅耶の方へと向き直ると「…何でもないです」そう言って、そっと目を伏せた。
その後、被害者としての事情聴取を終え、冬樹が警察署を出る頃には既に外は夜の闇が広がっていた。その間も、直純と雅耶は冬樹をずっと待っていてくれて、帰りは一緒に車に乗せて貰えることになった。
「冬樹…?…眠っちゃったのか」
車に揺られている内に後部座席で眠ってしまった冬樹を、運転席と助手席から二人は振り返ると、声を落として会話を続けた。
「流石に疲れたみたいだな…。精神的な疲れは勿論だけど、連れ去られる時に薬を使われたりしたみたいだし…。きっと、身体の負担も大きいんだろう」
「そう、だったんですか…」
雅耶は、もう一度眠っている冬樹を振り返った。
手当をして貰ったものの、その細い両手首に巻かれた白い包帯が妙に痛々しく見えた。
「そう言えば…先輩に聞いた話なんだが、冬樹の携帯は犯人の車の中にあったらしいぞ」
「えっ?そうだったんですかっ?」
直純の言う『先輩』というのは、今回協力してもらった警察署の刑事課に所属する人物で、直純の大学の先輩に当たる人物らしい。冬樹の行方を捜すにあたり、病院関係に確認を取る際にも、知り合いが多々いると聞いていた雅耶は、改めて直純の交友関係の広さには驚かされていた。
直純はハンドルを握りながら、声を落として言葉を続けた。
「最初、冬樹も携帯で連絡を取ることを考えて鞄を探したらしいんだが、何処にも見当たらなかったそうだ。冬樹自身、あの場所が何処かさえ最後まで分かっていなかったみたいだし、まぁ…手も縛られていたしな…。あのメールを送るのは、いずれにしても無理なんだ」
「でも…じゃあ、いったい誰が俺に冬樹の居場所を知らせて来たんだろう…?」
雅耶は、手にしている自分の携帯を見詰めながら呟いた。
レストランを出た後、冬樹のアパートに向かった雅耶は、冬樹が家にも居ない事を確認すると、『Cafe & Bar ROCO』にいる直純と合流をした。だが、直純の方も冬樹の居場所を掴めずに、刑事であるその『先輩』に相談を持ちかけた後、結局手詰まりとなってしまっていた。
他に何の情報も得られず、ヤキモキしながらも、ただ冬樹の無事を願って待ち続け、約二時間が経過した頃のことだった。
雅耶の元に突然冬樹から一通のメールが届いたのだ。
それは、簡潔に『立花製薬』という会社名と住所のみが記載されているだけだったのだが、冬樹のSOSと受け取った雅耶達は、とりあえず、それをすぐに警察へと連絡した後、直純の車でその場所へ向かってみることにしたのだった。
冬樹は、不意に何かを感じて後ろを振り返った。
「…冬樹?…どうかしたか?」
誰もいない遠くを眺めている冬樹に、気付いた直純が声を掛ける。
「…いえ…」
(今、何か…声が聞こえたような気がしたんだけど…)
既に日が傾き、建ち並ぶ倉庫や建物をオレンジ色の西日が照らし、長い影を作っている。だが、そこには蒸し暑い風が吹き抜けるだけで、それらしい人影は何処にもなかった。
冬樹は直純と雅耶の方へと向き直ると「…何でもないです」そう言って、そっと目を伏せた。
その後、被害者としての事情聴取を終え、冬樹が警察署を出る頃には既に外は夜の闇が広がっていた。その間も、直純と雅耶は冬樹をずっと待っていてくれて、帰りは一緒に車に乗せて貰えることになった。
「冬樹…?…眠っちゃったのか」
車に揺られている内に後部座席で眠ってしまった冬樹を、運転席と助手席から二人は振り返ると、声を落として会話を続けた。
「流石に疲れたみたいだな…。精神的な疲れは勿論だけど、連れ去られる時に薬を使われたりしたみたいだし…。きっと、身体の負担も大きいんだろう」
「そう、だったんですか…」
雅耶は、もう一度眠っている冬樹を振り返った。
手当をして貰ったものの、その細い両手首に巻かれた白い包帯が妙に痛々しく見えた。
「そう言えば…先輩に聞いた話なんだが、冬樹の携帯は犯人の車の中にあったらしいぞ」
「えっ?そうだったんですかっ?」
直純の言う『先輩』というのは、今回協力してもらった警察署の刑事課に所属する人物で、直純の大学の先輩に当たる人物らしい。冬樹の行方を捜すにあたり、病院関係に確認を取る際にも、知り合いが多々いると聞いていた雅耶は、改めて直純の交友関係の広さには驚かされていた。
直純はハンドルを握りながら、声を落として言葉を続けた。
「最初、冬樹も携帯で連絡を取ることを考えて鞄を探したらしいんだが、何処にも見当たらなかったそうだ。冬樹自身、あの場所が何処かさえ最後まで分かっていなかったみたいだし、まぁ…手も縛られていたしな…。あのメールを送るのは、いずれにしても無理なんだ」
「でも…じゃあ、いったい誰が俺に冬樹の居場所を知らせて来たんだろう…?」
雅耶は、手にしている自分の携帯を見詰めながら呟いた。
レストランを出た後、冬樹のアパートに向かった雅耶は、冬樹が家にも居ない事を確認すると、『Cafe & Bar ROCO』にいる直純と合流をした。だが、直純の方も冬樹の居場所を掴めずに、刑事であるその『先輩』に相談を持ちかけた後、結局手詰まりとなってしまっていた。
他に何の情報も得られず、ヤキモキしながらも、ただ冬樹の無事を願って待ち続け、約二時間が経過した頃のことだった。
雅耶の元に突然冬樹から一通のメールが届いたのだ。
それは、簡潔に『立花製薬』という会社名と住所のみが記載されているだけだったのだが、冬樹のSOSと受け取った雅耶達は、とりあえず、それをすぐに警察へと連絡した後、直純の車でその場所へ向かってみることにしたのだった。
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