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違和感の先にあるもの
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直純は、道場から店へと向かって一人歩いていた。
週三回、夕方一時間半だけ空手教室の先生として子ども達をみている為、店との往復時間も含め、この約二時間は仁志と冬樹の二人だけでお店を切り盛りしてもらっている。二人に任せていれば特別問題はないのだが、混んでくる時間帯ではあるので、出来るだけ早めに戻らなければと足を速める。
日も暮れ始め、ネオンが煌めく夜の街へと変わりつつある駅前裏通りを足早に抜けて行くと、『Cafe & Bar ROCO』の看板が人混みの向こうに見えてきた。
店の前まで着くと、ふと…直純は足を止めて周囲を見渡す。この時間は、学生や仕事帰りのサラリーマンも多く見られる時間帯なのだが…。
何気なく視線を流した先に、気になる人影を見付けた。
その人物は、さり気なく建物の陰に隠れるようにスッ…と、身を引いてしまったので、それ以上様子を伺うことは出来なかったのだが…。
「………」
直純はそれには気付かない振りをしながら、視線を店内へと戻すと、その目前のドアを開けた。
「いらっしゃいませー。…あっ、先生…」
お客だと思い、振り返った冬樹が自分の姿を確認すると「お疲れ様です」と笑顔を向けてくる。
(最近…冬樹は凄く良い笑顔を見せるようになったな…)
その柔らかな笑顔につられて、こちらも微笑みを浮かべると、
「お疲れ、冬樹。今日もありがとうなっ」
そう声を掛けて店内に入って行った。
「なんか、気になるんだよね…」
冬樹が仕事を上がって既に帰った後、客も落ち着いている店内を見渡しながら直純が呟いた。
粗方片付けも終わり、手が空いていた仁志は、後方の台に寄り掛かりながら腕を組むと、その呟きに目を細めた。
「主語がない。主語が…」
「ああ。…何かさ、最近…店の近辺に怪しい奴がいるんだよ」
思いのほか真面目な顔で話す直純に、仁志は眉間にしわを寄せて聞き返した。
「怪しいヤツ…?どんな?」
「顔とか姿はろくに見てない。何気なく観察しようにも毎回上手くかわされちゃってさ。でも、明らかにこの周辺に不釣り合いな雰囲気を纏っている奴でさ…」
「………」
直純でさえも捉えられない人物…というのは、確かに怪しい。相当な手練れかも知れないと思いながら仁志は聞いていた。
週三回、夕方一時間半だけ空手教室の先生として子ども達をみている為、店との往復時間も含め、この約二時間は仁志と冬樹の二人だけでお店を切り盛りしてもらっている。二人に任せていれば特別問題はないのだが、混んでくる時間帯ではあるので、出来るだけ早めに戻らなければと足を速める。
日も暮れ始め、ネオンが煌めく夜の街へと変わりつつある駅前裏通りを足早に抜けて行くと、『Cafe & Bar ROCO』の看板が人混みの向こうに見えてきた。
店の前まで着くと、ふと…直純は足を止めて周囲を見渡す。この時間は、学生や仕事帰りのサラリーマンも多く見られる時間帯なのだが…。
何気なく視線を流した先に、気になる人影を見付けた。
その人物は、さり気なく建物の陰に隠れるようにスッ…と、身を引いてしまったので、それ以上様子を伺うことは出来なかったのだが…。
「………」
直純はそれには気付かない振りをしながら、視線を店内へと戻すと、その目前のドアを開けた。
「いらっしゃいませー。…あっ、先生…」
お客だと思い、振り返った冬樹が自分の姿を確認すると「お疲れ様です」と笑顔を向けてくる。
(最近…冬樹は凄く良い笑顔を見せるようになったな…)
その柔らかな笑顔につられて、こちらも微笑みを浮かべると、
「お疲れ、冬樹。今日もありがとうなっ」
そう声を掛けて店内に入って行った。
「なんか、気になるんだよね…」
冬樹が仕事を上がって既に帰った後、客も落ち着いている店内を見渡しながら直純が呟いた。
粗方片付けも終わり、手が空いていた仁志は、後方の台に寄り掛かりながら腕を組むと、その呟きに目を細めた。
「主語がない。主語が…」
「ああ。…何かさ、最近…店の近辺に怪しい奴がいるんだよ」
思いのほか真面目な顔で話す直純に、仁志は眉間にしわを寄せて聞き返した。
「怪しいヤツ…?どんな?」
「顔とか姿はろくに見てない。何気なく観察しようにも毎回上手くかわされちゃってさ。でも、明らかにこの周辺に不釣り合いな雰囲気を纏っている奴でさ…」
「………」
直純でさえも捉えられない人物…というのは、確かに怪しい。相当な手練れかも知れないと思いながら仁志は聞いていた。
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