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違和感の先にあるもの
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「あっ…あのっ!」
咄嗟に、唯花が引き留めるように声を掛けると、その少年は足を止めて振り返った。
「ありがとうっ」
慌ててお礼の言葉だけ述べると。
その少年は一瞬驚いたような表情を見せたが、ふっ…と柔らかな微笑みを浮かべると、照れたように小さく頷いた。
そうして、ゆっくりとその場を後にしたのだが、唯花は勿論、その場に居合わせた者達は、その冬樹の笑顔に目を奪われ…。まるで一瞬、そこだけ時が止まってしまったかのように皆が動きを止めていた。
だが、次の瞬間。
その静寂を破るように、バタバタと駆けてくる足音が近付いてきた。
校門から勢いよく出て来た人物、それは…。
「久賀くんっ!」
「唯花ちゃんっ?大丈夫なのかっ?何か絡まれてるって話を聞いて…っ」
(それで、急いで駆けつけてきてくれたの?)
目の前で僅かに息を切らしている雅耶を見上げると、
「…久賀くん…」
唯花は嬉しそうに頬を染めた。
「あのね…久賀くんのお友達が助けてくれたのっ」
「…友達?」
訝し気に首を傾げている雅耶の後ろから、一人の生徒が控えめに声を掛けてきた。
「…野崎だよ。野崎がその子に手を上げようとした上級生を止めて、仲裁に入ったんだ」
「えっ…冬樹が…?」
雅耶は驚いて周囲を見渡した。だが、もうその姿は何処にも見当たらない。
「…その子なら、もう帰ったよ…?」
控えめに唯花が伝えると、雅耶は明らかに落胆の色を見せた。
「…そっか…。帰っちゃったか…」
(久賀くん…?)
彼の名が出た途端、自分の方に視線も合わせてくれなくなった雅耶に、唯花は何処か面白くない気持ちになった。
帰り道、一緒に歩いていても、ずっと上の空な雅耶の様子に唯花は下唇を噛む。
柔らかく微笑む、先程の綺麗な少年の姿が脳裏に浮かぶ。
(唯花より、あの子のことが気になるの?…久賀くん…)
だが、そんな言葉を口にすること自体、女のプライドが許さないのだった。
「さっきの…野崎くんって…久賀くんと仲良いの?」
隣を歩く唯花がおずおずと聞いてきた。
「…え?ああ…うん。あいつとは幼馴染でさ、俺にとっては兄弟みたいなものなんだ」
「えーーーっ?!そうなのーっ?!」
何故だか心底驚いている。
唯花は思わず立ち止まり、両手を口に当てながら「やだーそうだったんだー」とか、ぶつぶつと小さく呟いている。
咄嗟に、唯花が引き留めるように声を掛けると、その少年は足を止めて振り返った。
「ありがとうっ」
慌ててお礼の言葉だけ述べると。
その少年は一瞬驚いたような表情を見せたが、ふっ…と柔らかな微笑みを浮かべると、照れたように小さく頷いた。
そうして、ゆっくりとその場を後にしたのだが、唯花は勿論、その場に居合わせた者達は、その冬樹の笑顔に目を奪われ…。まるで一瞬、そこだけ時が止まってしまったかのように皆が動きを止めていた。
だが、次の瞬間。
その静寂を破るように、バタバタと駆けてくる足音が近付いてきた。
校門から勢いよく出て来た人物、それは…。
「久賀くんっ!」
「唯花ちゃんっ?大丈夫なのかっ?何か絡まれてるって話を聞いて…っ」
(それで、急いで駆けつけてきてくれたの?)
目の前で僅かに息を切らしている雅耶を見上げると、
「…久賀くん…」
唯花は嬉しそうに頬を染めた。
「あのね…久賀くんのお友達が助けてくれたのっ」
「…友達?」
訝し気に首を傾げている雅耶の後ろから、一人の生徒が控えめに声を掛けてきた。
「…野崎だよ。野崎がその子に手を上げようとした上級生を止めて、仲裁に入ったんだ」
「えっ…冬樹が…?」
雅耶は驚いて周囲を見渡した。だが、もうその姿は何処にも見当たらない。
「…その子なら、もう帰ったよ…?」
控えめに唯花が伝えると、雅耶は明らかに落胆の色を見せた。
「…そっか…。帰っちゃったか…」
(久賀くん…?)
彼の名が出た途端、自分の方に視線も合わせてくれなくなった雅耶に、唯花は何処か面白くない気持ちになった。
帰り道、一緒に歩いていても、ずっと上の空な雅耶の様子に唯花は下唇を噛む。
柔らかく微笑む、先程の綺麗な少年の姿が脳裏に浮かぶ。
(唯花より、あの子のことが気になるの?…久賀くん…)
だが、そんな言葉を口にすること自体、女のプライドが許さないのだった。
「さっきの…野崎くんって…久賀くんと仲良いの?」
隣を歩く唯花がおずおずと聞いてきた。
「…え?ああ…うん。あいつとは幼馴染でさ、俺にとっては兄弟みたいなものなんだ」
「えーーーっ?!そうなのーっ?!」
何故だか心底驚いている。
唯花は思わず立ち止まり、両手を口に当てながら「やだーそうだったんだー」とか、ぶつぶつと小さく呟いている。
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