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忍び寄る影
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冬樹は、試合が終わって帰ろうとする人の流れに沿って歩いていた。
「冬樹っ!」
少し離れた所から声を掛けると、こちらを振り返って驚いた様子で立ち止まった。出口へと続く流れから、他の人の邪魔にならないように少し外れると、こちらを向いて待っていてくれる。
「冬樹っ…来てたんだ?びっくりしたよ。今直純先生から聞いてさっ」
「雅耶…」
やっと傍まで辿り着くと、冬樹は「お疲れ」と微笑んで言葉を続けた。
「優勝なんてすごいじゃないか。おめでとう」
「ありがとっ。自分でもまだ、実感湧かないんだけどさっ」
思わず照れながら言うと、何故か冬樹は大きな瞳でじっと、こちらを見上げていた。
「なっ…なに?冬樹っ。…俺の顔になんかついてるっ?」
変に動揺してしまった俺に対し、冬樹は少し視線を外すと、
「いや…別に、何でもない…」
そう言って小さく俯いた。
(冬樹…?なんだろう…いつもと様子が違う…?)
不思議に思いつつも、敢えてそこには触れずに雅耶は明るく続けた。
「なぁ、もう帰っちゃうのか?もう少し待っててくれれば一緒に帰れるのに…」
残っているのは閉会式だけだし、その後解散になる筈だ。
「でも、お前…祝勝会とかあるんじゃないのか?優勝したんだし…」
「えっ…どうなんだろ?そんなのやるのかな…?」
そんな話とか何も聞かない内に、冬樹を探しに来てしまったので思わず困っていると。
見物人が減ってだいぶ見晴らしが良くなってきた道場内で、向こうから直純先生が歩いて来るのが見えた。
「雅耶、打ち上げ祝勝会は夕方5時半から『ROCO』でやるぞー」
「あっはい。5時半…」
まだ3時前だし、少し時間がありそうだ。
「じゃあ一度解散…ですよね?」
「ああ、そうなるな。…冬樹、良かったらお前も来るか?昔一緒に稽古やってた知ってる奴等が何人かいるぞ?」
そう言って、直純先生は冬樹にも声を掛けるが、
「いえ、今日はこの後…少し寄りたい所があって…」
冬樹は、直純先生に笑顔を向けると「すみません」と頭を下げた。
「そうか?じゃあ、またな。今日は来てくれてありがとうなっ」
そう言って、先生は冬樹に優しい笑顔を向けると「そろそろ閉会式が始まるぞ」と言いながら戻って行った。
(直純先生って、冬樹には特別優しいよな…)
元来、優しい人ではあるけれど。
冬樹の苦労を知っているからなのかも知れないけれど…。
何だか、また…胸がモヤモヤしてきた。
「冬樹っ!」
少し離れた所から声を掛けると、こちらを振り返って驚いた様子で立ち止まった。出口へと続く流れから、他の人の邪魔にならないように少し外れると、こちらを向いて待っていてくれる。
「冬樹っ…来てたんだ?びっくりしたよ。今直純先生から聞いてさっ」
「雅耶…」
やっと傍まで辿り着くと、冬樹は「お疲れ」と微笑んで言葉を続けた。
「優勝なんてすごいじゃないか。おめでとう」
「ありがとっ。自分でもまだ、実感湧かないんだけどさっ」
思わず照れながら言うと、何故か冬樹は大きな瞳でじっと、こちらを見上げていた。
「なっ…なに?冬樹っ。…俺の顔になんかついてるっ?」
変に動揺してしまった俺に対し、冬樹は少し視線を外すと、
「いや…別に、何でもない…」
そう言って小さく俯いた。
(冬樹…?なんだろう…いつもと様子が違う…?)
不思議に思いつつも、敢えてそこには触れずに雅耶は明るく続けた。
「なぁ、もう帰っちゃうのか?もう少し待っててくれれば一緒に帰れるのに…」
残っているのは閉会式だけだし、その後解散になる筈だ。
「でも、お前…祝勝会とかあるんじゃないのか?優勝したんだし…」
「えっ…どうなんだろ?そんなのやるのかな…?」
そんな話とか何も聞かない内に、冬樹を探しに来てしまったので思わず困っていると。
見物人が減ってだいぶ見晴らしが良くなってきた道場内で、向こうから直純先生が歩いて来るのが見えた。
「雅耶、打ち上げ祝勝会は夕方5時半から『ROCO』でやるぞー」
「あっはい。5時半…」
まだ3時前だし、少し時間がありそうだ。
「じゃあ一度解散…ですよね?」
「ああ、そうなるな。…冬樹、良かったらお前も来るか?昔一緒に稽古やってた知ってる奴等が何人かいるぞ?」
そう言って、直純先生は冬樹にも声を掛けるが、
「いえ、今日はこの後…少し寄りたい所があって…」
冬樹は、直純先生に笑顔を向けると「すみません」と頭を下げた。
「そうか?じゃあ、またな。今日は来てくれてありがとうなっ」
そう言って、先生は冬樹に優しい笑顔を向けると「そろそろ閉会式が始まるぞ」と言いながら戻って行った。
(直純先生って、冬樹には特別優しいよな…)
元来、優しい人ではあるけれど。
冬樹の苦労を知っているからなのかも知れないけれど…。
何だか、また…胸がモヤモヤしてきた。
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