90 / 302
忍び寄る影
7-7
しおりを挟む
冬樹は、試合が終わって帰ろうとする人の流れに沿って歩いていた。
「冬樹っ!」
少し離れた所から声を掛けると、こちらを振り返って驚いた様子で立ち止まった。出口へと続く流れから、他の人の邪魔にならないように少し外れると、こちらを向いて待っていてくれる。
「冬樹っ…来てたんだ?びっくりしたよ。今直純先生から聞いてさっ」
「雅耶…」
やっと傍まで辿り着くと、冬樹は「お疲れ」と微笑んで言葉を続けた。
「優勝なんてすごいじゃないか。おめでとう」
「ありがとっ。自分でもまだ、実感湧かないんだけどさっ」
思わず照れながら言うと、何故か冬樹は大きな瞳でじっと、こちらを見上げていた。
「なっ…なに?冬樹っ。…俺の顔になんかついてるっ?」
変に動揺してしまった俺に対し、冬樹は少し視線を外すと、
「いや…別に、何でもない…」
そう言って小さく俯いた。
(冬樹…?なんだろう…いつもと様子が違う…?)
不思議に思いつつも、敢えてそこには触れずに雅耶は明るく続けた。
「なぁ、もう帰っちゃうのか?もう少し待っててくれれば一緒に帰れるのに…」
残っているのは閉会式だけだし、その後解散になる筈だ。
「でも、お前…祝勝会とかあるんじゃないのか?優勝したんだし…」
「えっ…どうなんだろ?そんなのやるのかな…?」
そんな話とか何も聞かない内に、冬樹を探しに来てしまったので思わず困っていると。
見物人が減ってだいぶ見晴らしが良くなってきた道場内で、向こうから直純先生が歩いて来るのが見えた。
「雅耶、打ち上げ祝勝会は夕方5時半から『ROCO』でやるぞー」
「あっはい。5時半…」
まだ3時前だし、少し時間がありそうだ。
「じゃあ一度解散…ですよね?」
「ああ、そうなるな。…冬樹、良かったらお前も来るか?昔一緒に稽古やってた知ってる奴等が何人かいるぞ?」
そう言って、直純先生は冬樹にも声を掛けるが、
「いえ、今日はこの後…少し寄りたい所があって…」
冬樹は、直純先生に笑顔を向けると「すみません」と頭を下げた。
「そうか?じゃあ、またな。今日は来てくれてありがとうなっ」
そう言って、先生は冬樹に優しい笑顔を向けると「そろそろ閉会式が始まるぞ」と言いながら戻って行った。
(直純先生って、冬樹には特別優しいよな…)
元来、優しい人ではあるけれど。
冬樹の苦労を知っているからなのかも知れないけれど…。
何だか、また…胸がモヤモヤしてきた。
「冬樹っ!」
少し離れた所から声を掛けると、こちらを振り返って驚いた様子で立ち止まった。出口へと続く流れから、他の人の邪魔にならないように少し外れると、こちらを向いて待っていてくれる。
「冬樹っ…来てたんだ?びっくりしたよ。今直純先生から聞いてさっ」
「雅耶…」
やっと傍まで辿り着くと、冬樹は「お疲れ」と微笑んで言葉を続けた。
「優勝なんてすごいじゃないか。おめでとう」
「ありがとっ。自分でもまだ、実感湧かないんだけどさっ」
思わず照れながら言うと、何故か冬樹は大きな瞳でじっと、こちらを見上げていた。
「なっ…なに?冬樹っ。…俺の顔になんかついてるっ?」
変に動揺してしまった俺に対し、冬樹は少し視線を外すと、
「いや…別に、何でもない…」
そう言って小さく俯いた。
(冬樹…?なんだろう…いつもと様子が違う…?)
不思議に思いつつも、敢えてそこには触れずに雅耶は明るく続けた。
「なぁ、もう帰っちゃうのか?もう少し待っててくれれば一緒に帰れるのに…」
残っているのは閉会式だけだし、その後解散になる筈だ。
「でも、お前…祝勝会とかあるんじゃないのか?優勝したんだし…」
「えっ…どうなんだろ?そんなのやるのかな…?」
そんな話とか何も聞かない内に、冬樹を探しに来てしまったので思わず困っていると。
見物人が減ってだいぶ見晴らしが良くなってきた道場内で、向こうから直純先生が歩いて来るのが見えた。
「雅耶、打ち上げ祝勝会は夕方5時半から『ROCO』でやるぞー」
「あっはい。5時半…」
まだ3時前だし、少し時間がありそうだ。
「じゃあ一度解散…ですよね?」
「ああ、そうなるな。…冬樹、良かったらお前も来るか?昔一緒に稽古やってた知ってる奴等が何人かいるぞ?」
そう言って、直純先生は冬樹にも声を掛けるが、
「いえ、今日はこの後…少し寄りたい所があって…」
冬樹は、直純先生に笑顔を向けると「すみません」と頭を下げた。
「そうか?じゃあ、またな。今日は来てくれてありがとうなっ」
そう言って、先生は冬樹に優しい笑顔を向けると「そろそろ閉会式が始まるぞ」と言いながら戻って行った。
(直純先生って、冬樹には特別優しいよな…)
元来、優しい人ではあるけれど。
冬樹の苦労を知っているからなのかも知れないけれど…。
何だか、また…胸がモヤモヤしてきた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
「史上まれにみる美少女の日常」
綾羽 ミカ
青春
鹿取莉菜子17歳 まさに絵にかいたような美少女、街を歩けば一日に20人以上ナンパやスカウトに声を掛けられる少女。家は団地暮らしで母子家庭の生活保護一歩手前という貧乏。性格は非常に悪く、ひがみっぽく、ねたみやすく過激だが、そんなことは一切表に出しません。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる