【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
54 / 302
足りないもの

4-5

しおりを挟む
「いえ…オレ…、もう大丈夫です。一人で帰れます」
「でもまた同じようになったら困るだろう?せめて家の人に…」
「連絡だけでも」そう言い掛けた時、直純の言葉を遮って冬樹が口を挟んだ。
「オレ、一人なんで…」
気まずそうに下を向く。
「ひとり…?」
「独り暮らし…なんです」

直純は驚きを隠せなかった。
高校生の身で独り暮らし…というのは、流石にまれだろう。だが…冬樹の身の上を考えると、それをとやかく他人が口出し出来ることではない…と、直純は思った。
それでも、冬樹は非難されるとでも思っているのか、気まずそうに俯いている。

(お前がそんな顔すること、無いのにな…)

直純は、ふ…と表情を緩めて微笑むと、
「苦労…してんだな…」
そう小さく言って、俯いている冬樹の頭にポンと大きな手を乗せた。そんなこちらの行動に驚いているのか、冬樹は大きな瞳を揺らしながらこちらを不安げに見上げてくる。

その、小さな子どものような冬樹の反応に。
妙に庇護欲ひごよくをそそられるな…と、直純は内心で苦笑していた。



「なぁ…冬樹。お前、ちゃんと食べてるか?」

そう聞かれ、一応食べてはいるが『ちゃんと』かと言われると何とも言えず、冬樹が無言で考えていると、
「おいおい…。しっかり栄養取らないと、また今日みたいなことになっちゃうぞ?」
そう言いながらも、直純は「熱いから気を付けて」…と、ホットミルクを冬樹の前のテーブルに置いた。
「…昼は学食があるので、割としっかり…」
と、冬樹が控えめに言うと、
「まだまだ成長期なんだから、三食しっかり食べないと駄目なのっ」
と、本気ではないが怒った素振りでダメ出しされてしまった。
そして直純は冬樹の前の席にさり気なく座ると、何かを考え込んでしまった。

(別に、栄養失調とかでフラついた訳じゃないと思うんだけど…)

冬樹は、改めて店内を見回した。
店内はあまり広くはないが、木目調の落ち着いたお洒落な内装で良いカンジの雰囲気だなと思った。
(前に貰った名刺には、直純先生がマスターと書いてあったけど…流石に一人でやってる訳じゃないんだな…)
先程からカウンター内には一人店員が入っていた。
(直純先生が外出している時もお店を任されているみたいだったし、社員か何かなのかな?)
何にしても…他の客もいる中、すっかり迷惑を掛けてしまったな…と、申し訳ない気持ちになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

One-sided

月ヶ瀬 杏
青春
高校一年生の 唯葉は、ひとつ上の先輩・梁井碧斗と付き合っている。 一ヶ月前、どんなに可愛い女の子に告白されても断ってしまうという噂の梁井に玉砕覚悟で告白し、何故か彼女にしてもらうことができたのだ。 告白にオッケーの返事をもらえたことで浮かれる唯葉だが、しばらくして、梁井が唯葉の告白を受け入れた本当の理由に気付いてしまう。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

処理中です...