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足りないもの
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電車の中から何となく感じてはいたのだが、沢山の乗客がいる中そう思うこともあるだろう…と、特に気にしないでいた。ある意味今日はずっとそんな調子で、自分も疲れているのだと思っていたから。
だが、この駅を降りてからも…というと、話は違う。
冬樹はゆっくりと後ろを振り返った。夕方の、帰宅途中の学生などで混み始める時刻。だが、見てみる限りでは知っている顔は勿論のこと、同じ制服を着ている者も近くにはいない。
(気のせい…か…?)
やっぱり疲れているんだろうか。
そう思いつつ、冬樹は頭をぷるぷると振ると、再び歩き出した。
さっきのは、気のせいだったのかも知れない。
もう視線も何も感じない。…というよりも、既によく判らなくなっていた。
かなり精神的に参っていたのか駅前通りの人混みに酔ってしまい、何だかクラクラする。思わず立ち止まり、傍にあった街灯の柱に手を付いた。眩暈をやり過ごそうと目を瞑っていたその時。
「おい、大丈夫か…?」
突然、横から声を掛けられた。
ゆっくりと目を開けて振り返ると、そこには。
「…直純…せんせ…い…?」
『Cafe & Bar ROCO』の店内。
たまたま出先から店に戻る途中で、具合の悪そうな冬樹を見つけた直純は、とりあえず店まで介抱して連れて来た。お店の奥のテーブル席に壁に寄り掛かれるように座らせると、その線の細い少年を心配げに見下ろす。
「…大丈夫か?冬樹…」
「すいません…もう、平気です…」
そう言ってフラフラ…と、すぐに立ち上がろうとするので、わざと真横に着いて笑顔でそれを制する。
「こら、無理するなよ。もう少し休んでろって。…お前、顔色悪いぞ」
本当はこういう時は衣服をゆるめて安静にするのが一番なのだが、直純はそれを進めることを少し躊躇した。
それは、目の前の『冬樹』が警戒すると思ったから。具合の悪そうなこの状態で、余計な精神的負担を与えたくはない。
直純は、冬樹が落ち着くのを待って声を掛けた。
「お前…家はここから近いのか?連絡して誰かに迎えに来て貰うか?」
そう言うと、冬樹はだいぶ意識がしっかりしてきたのか直純の目を見てはっきりと答えた。
だが、この駅を降りてからも…というと、話は違う。
冬樹はゆっくりと後ろを振り返った。夕方の、帰宅途中の学生などで混み始める時刻。だが、見てみる限りでは知っている顔は勿論のこと、同じ制服を着ている者も近くにはいない。
(気のせい…か…?)
やっぱり疲れているんだろうか。
そう思いつつ、冬樹は頭をぷるぷると振ると、再び歩き出した。
さっきのは、気のせいだったのかも知れない。
もう視線も何も感じない。…というよりも、既によく判らなくなっていた。
かなり精神的に参っていたのか駅前通りの人混みに酔ってしまい、何だかクラクラする。思わず立ち止まり、傍にあった街灯の柱に手を付いた。眩暈をやり過ごそうと目を瞑っていたその時。
「おい、大丈夫か…?」
突然、横から声を掛けられた。
ゆっくりと目を開けて振り返ると、そこには。
「…直純…せんせ…い…?」
『Cafe & Bar ROCO』の店内。
たまたま出先から店に戻る途中で、具合の悪そうな冬樹を見つけた直純は、とりあえず店まで介抱して連れて来た。お店の奥のテーブル席に壁に寄り掛かれるように座らせると、その線の細い少年を心配げに見下ろす。
「…大丈夫か?冬樹…」
「すいません…もう、平気です…」
そう言ってフラフラ…と、すぐに立ち上がろうとするので、わざと真横に着いて笑顔でそれを制する。
「こら、無理するなよ。もう少し休んでろって。…お前、顔色悪いぞ」
本当はこういう時は衣服をゆるめて安静にするのが一番なのだが、直純はそれを進めることを少し躊躇した。
それは、目の前の『冬樹』が警戒すると思ったから。具合の悪そうなこの状態で、余計な精神的負担を与えたくはない。
直純は、冬樹が落ち着くのを待って声を掛けた。
「お前…家はここから近いのか?連絡して誰かに迎えに来て貰うか?」
そう言うと、冬樹はだいぶ意識がしっかりしてきたのか直純の目を見てはっきりと答えた。
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