24 / 302
波瀾の再会
2-6
しおりを挟む
突然、感情を隠すかのように表情を消した冬樹の様子の変化に、直純はすぐに気が付いた。だが、
「まぁ…そんなことはどうでもいいが…」
そう言って、変わらず笑顔を向けながら話題の切り替えを試みようとした、その時だった。
「あっいたいた!!中山さーんっ!!」
その大きな声に、言葉は遮られてしまった。
二人が声のする方を振り返ると、公園に面した通りから直純に向かって手を振る一人の中年男性がいた。その男は、大げさな程に心底くたびれた顔をして、こちらに近付いて来た。
「もぉーっ!どこ行っちゃったかと思いましたよーっ。いきなりいなくなっちゃうんだからーッ」
「あぁ…ごめんごめんッ。忘れてた…」
直純は、頭を掻きながら苦笑いを浮かべている。どうやら、直純の知り合いだったようだ。
二人が話を始めたので、冬樹は邪魔にならないようにこの場をそっと離れようとした。が…、
「冬樹」
それに気付いた直純が、冬樹の背に声を掛けてきた。
「もっとゆっくり話をしたかったんだが、約束があるんだ」
「………」
冬樹は、何も言わずに直純を振り返る。目が合うと、
「また…今度な」
そう言って、優しい笑顔を向けてくる直純に。冬樹が小さく頭を下げると、それを見て直純は笑みを深くした。
「あと、これ…。お前のだろ?」
さっき拾ってきた…そう言って渡されたのは、先程まで持っていた求人雑誌だった。
(あ…すっかり忘れてた…)
あの路地で落としていたものを、逃げる際に咄嗟に拾ってきたのだろうか?
(さすが直純先生…。すばやい…)
心底、感心してしまう冬樹だった。
「あと、これも…」
そう言って、素早くペンを取り出すとサラサラと何かを書き出した。
「はい」
そう言って雑誌の上に乗せられたのは、小さな名刺だった。
「今度この近くで店をやることになったんだ。これは、俺の名刺…」
直純は軽くウインクすると、
「今度遊びにおいで」
そう言って、「またな」…と笑った。
直純と別れた後、冬樹はそのまま家へ帰ることにした。
再び、賑わっている繁華街を通り抜けていく。
(何だか、疲れたな…)
カツアゲの現場に首を突っ込んだのは自分だから、これは自業自得。仕方はないが…。
(まさか、直純先生に会うなんて…)
本当に驚きだった。
(この町に戻ってきた以上は、今日みたいなこともあるんだな…)
今更ながらに、改めてそれを実感する。嬉しいような、気まずいような…複雑な気持ちだった。
(でも、昔のようには戻れないから…)
冬樹は人混みの中、一人ひっそりと溜息をついた。
「まぁ…そんなことはどうでもいいが…」
そう言って、変わらず笑顔を向けながら話題の切り替えを試みようとした、その時だった。
「あっいたいた!!中山さーんっ!!」
その大きな声に、言葉は遮られてしまった。
二人が声のする方を振り返ると、公園に面した通りから直純に向かって手を振る一人の中年男性がいた。その男は、大げさな程に心底くたびれた顔をして、こちらに近付いて来た。
「もぉーっ!どこ行っちゃったかと思いましたよーっ。いきなりいなくなっちゃうんだからーッ」
「あぁ…ごめんごめんッ。忘れてた…」
直純は、頭を掻きながら苦笑いを浮かべている。どうやら、直純の知り合いだったようだ。
二人が話を始めたので、冬樹は邪魔にならないようにこの場をそっと離れようとした。が…、
「冬樹」
それに気付いた直純が、冬樹の背に声を掛けてきた。
「もっとゆっくり話をしたかったんだが、約束があるんだ」
「………」
冬樹は、何も言わずに直純を振り返る。目が合うと、
「また…今度な」
そう言って、優しい笑顔を向けてくる直純に。冬樹が小さく頭を下げると、それを見て直純は笑みを深くした。
「あと、これ…。お前のだろ?」
さっき拾ってきた…そう言って渡されたのは、先程まで持っていた求人雑誌だった。
(あ…すっかり忘れてた…)
あの路地で落としていたものを、逃げる際に咄嗟に拾ってきたのだろうか?
(さすが直純先生…。すばやい…)
心底、感心してしまう冬樹だった。
「あと、これも…」
そう言って、素早くペンを取り出すとサラサラと何かを書き出した。
「はい」
そう言って雑誌の上に乗せられたのは、小さな名刺だった。
「今度この近くで店をやることになったんだ。これは、俺の名刺…」
直純は軽くウインクすると、
「今度遊びにおいで」
そう言って、「またな」…と笑った。
直純と別れた後、冬樹はそのまま家へ帰ることにした。
再び、賑わっている繁華街を通り抜けていく。
(何だか、疲れたな…)
カツアゲの現場に首を突っ込んだのは自分だから、これは自業自得。仕方はないが…。
(まさか、直純先生に会うなんて…)
本当に驚きだった。
(この町に戻ってきた以上は、今日みたいなこともあるんだな…)
今更ながらに、改めてそれを実感する。嬉しいような、気まずいような…複雑な気持ちだった。
(でも、昔のようには戻れないから…)
冬樹は人混みの中、一人ひっそりと溜息をついた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ライトブルー
ジンギスカン
青春
同級生のウザ絡みに頭を抱える椚田司は念願のハッピースクールライフを手に入れるため、遂に陰湿な復讐を決行する。その陰湿さが故、自分が犯人だと気づかれる訳にはいかない。次々と襲い来る「お前が犯人だ」の声を椚田は切り抜けることができるのか。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる