【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

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冬樹と夏樹

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(うそ!!うそだっ!!)

信じたくない。

(おとうさん!おかあさんっ!)

はあはあ…と、息を切らしながらも必死に家までの道のりを駆けていく。
それに…

それに、その夏樹は!!

信じたくないのに。
信じてなんかいないのに、知らず涙が零れそうになって、冬樹は全速力で走りながら手の甲で涙をぬぐった。

冬樹の頭の中を、過去の出来事がフラッシュバックする。



「え?カラテ?」
家で、冬樹と夏樹二人で遊んでいた時のこと。
『空手を習ってみない?』…という、母からの突然の聞き慣れない言葉に、冬樹は不思議そうに聞き返した。
「そう、空手。お隣の雅耶くんも習いに行くそうよ」
「まさやも?」
仲良しのまさやの名前が出て、冬樹は興味が湧いたようだった。
「じゃあ行きたいなっ」
それを傍で聞いていた夏樹も興味が湧いたのは同じだった。
「えーっ!なつきも行きたいよう、おかあさんっ」
「えーっ?なっちゃんはダメよ、女の子なんだから…。今よりお転婆になったら困るもの」
笑ってかわされてしまう。
「えーっ!行きたいよーっ」
「だーめっ」
「えーっ!」

結局、母は首を縦には振ってくれなかった。

部屋の片隅で泣きべそをかいている夏樹の様子を見兼ねて、冬樹はこっそりと声を掛けた。
「そんなにカラテやりたい?なっちゃん…」
優しく微笑みを浮かべて聞いてくる冬樹に。夏樹は涙を浮かべながら素直に、
「うん…」
と、頷くと。冬樹も「わかった」…と、言うように小さく頷いた。
そして、人差し指を唇に当てて「しーっ」と言いながら、一度後ろを振り返り母親が近くに居ないことを確認すると、小さな声で言葉を続けた。
「じゃあさ、いつもみたいに入れかわって、代わりばんこにいこうかっ」
楽しいイタズラを思いついた時のように冬樹は笑顔を見せると、小さくウインクをひとつする。
「でも…ふゆちゃん…」
「そのかわり…その日やったことは、おたがいに教え合うんだよっ。いっしょに見に行っても良いし。ねっ?」
夏樹の頭を優しく撫でながら、慰めるように言った。
「うん…。ありがとう、ふゆちゃん…」

ふゆちゃんは、いつだってやさしくて
なつきに、たくさんの元気をくれる。

だいすきな…
たいせつな――…

夏樹の頭の中には、そんな冬樹の笑顔ばかりが浮かんでは消えていく。


(ふゆちゃん!!)


必死に走っているのに。
家までのいつもの距離が、随分と長く感じた。

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