【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
12 / 302
冬樹と夏樹

1-12

しおりを挟む
賑わう駅前。

そんな風に人に見られていたとは露知らず、冬樹は周囲をゆっくりと見て歩きながら、自分の家へと向かっていた。
(この辺りも、だいぶ変わったな…)
記憶にある限りでは、こんなに駅ビルやショッピングモールなどの施設が充実してはいなかった筈だ。
(もう、八年…だもんな…)
八年という年月は、街の景色は勿論のこと、人の人生を変えるのも容易い程に長い時間だという事を自分は知っている。



八年前。

「せんせーありがとうございましたーっ」
子ども達の元気な声が響き渡る。

住宅街のある一軒家。
その家は、そう古いものでは無いのだが、家の主人の趣向で造られた近辺では珍しい日本家屋だった。立派な門構えのその家の入口には、木で造られた看板が掛けられており『中山空手道場』と書かれている。母屋とは別の離れに小さな道場があり、そこでは子どもから大人まで幅広い年齢層を対象とした空手教室などが開かれており、長く地元に親しまれていた。
「みんな、気を付けて帰れよー」
先生の声と共に、
「はーいっ」
「せんせーさよーならー」
稽古を終えた子ども達が元気にその門をくぐってバラバラと出てくる。道着のままで帰る者もいれば、着替えを済ませて帰る者もいる。元気に走って帰る者、疲れ果てた様子で歩く者、実に様々だ。

そんな中、私服に着替えた二人がゆっくりと後から仲良く話をしながら門を出てきた。
その一人が冬樹だった。一緒にいるのは、幼なじみの『まさや』だ。
冬樹・夏樹と雅耶は、家が隣同士で本当に小さな頃からの友人だった。何より母親達の仲が良く、何かと双方の家を行き来する事も多かったのだ。空手教室も雅耶が始めるというので、一緒に通うことになったようなものだった。

「おわったなー。きょうはけっこうつかれたよなー」
道着が入ったバッグを片手に、大きく伸びをしながら雅耶が言った。
「うん。けっこうハードだったよね」
頭一つ分背の高い雅耶を少し見上げて冬樹は笑う。和気あいあいと、その日やった空手のおさらいなどをしながら、いつも通り家までの道のりを歩いていた。
その時。

雅耶の母親が、家の方から慌てて走ってくる姿が見えた。その様子は、子供心にも普通じゃないと分かるようなものだった。
「冬樹くんっ」
何故か冬樹の名を呼んで、血相を変えて走り寄ってくる母に。
「あれーっ?おかあさん?どーしたの?」
雅耶は、特に気にしてもいないのか、明るい能天気な声を上げた。だが、雅耶の母親は、息を切らしながら驚きの言葉を続けた。
「大変なのよっ。今、連絡があって…。夏樹ちゃんとご両親の乗った…車が…」
冬樹は、我が耳を疑った。

崖から海へ転落!?

「う…そ…」

(おとうさんたちが!?)

冬樹は、走り出していた。
「あッ待って!!冬樹くんっ!!」
雅耶の母の制止の声も耳には入らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。

たかなしポン太
青春
【第7回カクヨムコンテスト中間選考通過作品】  本編完結しました! 「どうして連絡をよこさなかった?」 「……いろいろあったのよ」 「いろいろ?」 「そう。いろいろ……」 「……そうか」 ◆◆◆ 俺様でイメケンボッチの社長御曹司、宝生秀一。 家が貧しいけれど頭脳明晰で心優しいヒロイン、月島華恋。 同じ高校のクラスメートであるにもかかわらず、話したことすらなかった二人。 ところが……図書館での偶然の出会いから、二人の運命の歯車が回り始める。 ボッチだった秀一は華恋と時間を過ごしながら、少しずつ自分の世界が広がっていく。 そして華恋も秀一の意外な一面に心を許しながら、少しずつ彼に惹かれていった。 しかし……二人の先には、思いがけない大きな障壁が待ち受けていた。 キャラメルから始まる、素直になれない二人の身分差ラブコメディーです! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

処理中です...