【完結】ツインクロス

龍野ゆうき

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冬樹と夏樹

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お世話になった伯父と伯母にも最後に挨拶をすると、冬樹はその家を後にした。
もう、伯父は特に何も言わなかった。伯母は、最後まで心配げに、
「ちゃんと食事をとって、身体に気を付けるのよ。何かあったら必ず連絡しなさいね」
そう言ってくれた。
「離れていても…あなたが成人するまでは、私達があなたの親なのよ。それを忘れないでね」
そう、付け加えて。
伯父も、その言葉に静かに頷いていた。
そうして、玄関まで二人に見送られて家を出たのだ。

家の外に出ると、冬樹は今一度その伯父の家を振り返り、改めて見上げた。

八年間、お世話になった家…。
本当は、こんな風に温かく見送ってもらえる資格なんか自分にはないのに。
迷惑ばかり掛けてきた自分…。
ただただ、それが心苦しくて仕方が無かった。
その苦しみから逃れたくて。
もう、これ以上伯父夫婦に迷惑を掛けたくなくて…。
それで、家を出ることを決意したようなものだ。

(ごめんなさい…)

オレには、伯父さん達に言えなかったことがある。
ずっとずっと、隠していたことが…あるんだ。
でも、それは…。
これからも、自分の中にしまって生きていく覚悟を決めたから…。

冬樹は、家に向かって一礼すると、ゆっくりとその場を後にした。


もう、ここには二度と戻って来ない。
オレは、これからは独りで生きていくと決めたんだ。





時を同じくして、また別の町に存在する静かな住宅街のある一軒家。

庭から差し込む穏やかな明かりの中、リビングのソファーに座って新聞を広げている少年がいた。彼の姉に言わせると、そんな姿が中学生のくせにオヤジくさいとのことだったが、本人はあまり気にしている様子はない。新聞を読むことがほぼ日課になっている少年は、慣れた手付きで新聞をめくると、気になった記事を黙々と目で追っていた。
そんな中突然、家の電話が鳴り始める。
廊下に置かれたその電話の音が耳に届いていないのか、着信音には気にも留めず、少年は新聞を読み続けていた。否、本当は聞こえていたのだが、誰かが出るだろうと思って無視していたのだ。
だが、すかさず母親の怒鳴りに近い声が何処からか飛んでくる。
「ちょっとー雅耶!いるんでしょうっ?電話出てよ!」
「……」
名指しで呼ばれてしまい、仕方なく目にしていた新聞をテーブルに置いた。
「まさやーっ!?今手が離せないのよーっ」
「あー…はいはい…はいッと…」
足早に席を立つと、受話器を取る。
「はい、久賀です」
すると、良く知った友人の声が聞こえてくる。
『あー長瀬ですけど…雅耶くんいますかー?』
「いませんけどー」
『あっテメーッまさや!!』
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