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冬樹と夏樹
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気が付くと布団の中だった。
カーテンの僅かな隙間から光が差し込み、白い壁に光の線を描いている。
(もう、朝か…)
うつ伏せに寝返りを打ち、枕元の目覚まし時計を両手に取る。時計の針は、5時5分を指している。
(5時過ぎ…まだ早いじゃんか…)
ちょっと乱暴気味に目覚まし時計を元の位置に戻すと、もう一度仰向けに寝返りを打った。まだ、頭は半分眠っているカンジだ。
もう一度、寝直そうと思えば簡単に眠りにつくことが出来そうだったが、先程見た夢が妙に頭に残っていて、意識を徐々に現実へと引き戻してゆく。
普段は夢を見ても、目が覚めると忘れてしまっていることが殆どなのに、こういうケースは珍しい。
(こんな日に限って、昔の夢を見るなんて…な)
軽く溜息をつきながら、そんなことを思う。
(今日でこの家ともお別れ…か…)
彼、野崎冬樹は現在15歳。先日、中学校を卒業したばかり。現在、春休み中。この四月からは、私立高等学校への入学が決まっている。
そして、高校入学と同時に彼は、独り暮らしを始めることを決意していた。
高校合格が決まったと同時に、冬樹はこの家を出て行く旨を八年間お世話になった伯父と伯母に伝えた。
伯父は父の兄に当たる人物だ。口数が多い方ではないが、甥である自分を躊躇いもなく家に迎え入れ、いつでも静かに見守っていてくれた温かい心の持ち主だった。伯母も優しい人で、そんな伯父の意志に従ってか、他所の子供である自分にも実子と分け隔てなく普通に接してくれていた。冬樹にとっては、感謝しても感謝しきれない…頭の上がらない人達だ。
「どうしても出て行くというのか…冬樹」
伯父は静かに、もう一度こちらの意志を確認するように言った。それまで俯いていた冬樹は、ゆっくりと顔を上げる。すると、向かい側のソファーに座って、真剣な眼差しで自分を見つめている伯父の目とぶつかった。その後ろには、そんな二人の様子を心配そうに見守っている伯母の姿がある。
そんな二人の様子を交互に見つめ返しながら、冬樹は静かに口を開いた。
「はい。中学を卒業したら…前、居た所へ帰ります」
本当は、少し胸が痛かった。それでも、それを表情には出さず、冬樹は深々と頭を下げると、
「おじさん、おばさん…今までお世話になりました」
そんなありきたりの言葉を口にした。それを言うのが…やっとだった。
その後は、伯父と伯母の顔をまともに見ることが出来ず。軽く一礼して無言で立ち去る冬樹の後ろ姿に、ただ伯父は。
「いつでも戻ってこい」
そう、呟いただけだった。
そして、今日がその…家を出ていく日なのだ。
カーテンの僅かな隙間から光が差し込み、白い壁に光の線を描いている。
(もう、朝か…)
うつ伏せに寝返りを打ち、枕元の目覚まし時計を両手に取る。時計の針は、5時5分を指している。
(5時過ぎ…まだ早いじゃんか…)
ちょっと乱暴気味に目覚まし時計を元の位置に戻すと、もう一度仰向けに寝返りを打った。まだ、頭は半分眠っているカンジだ。
もう一度、寝直そうと思えば簡単に眠りにつくことが出来そうだったが、先程見た夢が妙に頭に残っていて、意識を徐々に現実へと引き戻してゆく。
普段は夢を見ても、目が覚めると忘れてしまっていることが殆どなのに、こういうケースは珍しい。
(こんな日に限って、昔の夢を見るなんて…な)
軽く溜息をつきながら、そんなことを思う。
(今日でこの家ともお別れ…か…)
彼、野崎冬樹は現在15歳。先日、中学校を卒業したばかり。現在、春休み中。この四月からは、私立高等学校への入学が決まっている。
そして、高校入学と同時に彼は、独り暮らしを始めることを決意していた。
高校合格が決まったと同時に、冬樹はこの家を出て行く旨を八年間お世話になった伯父と伯母に伝えた。
伯父は父の兄に当たる人物だ。口数が多い方ではないが、甥である自分を躊躇いもなく家に迎え入れ、いつでも静かに見守っていてくれた温かい心の持ち主だった。伯母も優しい人で、そんな伯父の意志に従ってか、他所の子供である自分にも実子と分け隔てなく普通に接してくれていた。冬樹にとっては、感謝しても感謝しきれない…頭の上がらない人達だ。
「どうしても出て行くというのか…冬樹」
伯父は静かに、もう一度こちらの意志を確認するように言った。それまで俯いていた冬樹は、ゆっくりと顔を上げる。すると、向かい側のソファーに座って、真剣な眼差しで自分を見つめている伯父の目とぶつかった。その後ろには、そんな二人の様子を心配そうに見守っている伯母の姿がある。
そんな二人の様子を交互に見つめ返しながら、冬樹は静かに口を開いた。
「はい。中学を卒業したら…前、居た所へ帰ります」
本当は、少し胸が痛かった。それでも、それを表情には出さず、冬樹は深々と頭を下げると、
「おじさん、おばさん…今までお世話になりました」
そんなありきたりの言葉を口にした。それを言うのが…やっとだった。
その後は、伯父と伯母の顔をまともに見ることが出来ず。軽く一礼して無言で立ち去る冬樹の後ろ姿に、ただ伯父は。
「いつでも戻ってこい」
そう、呟いただけだった。
そして、今日がその…家を出ていく日なのだ。
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