文字戦争

逢良イト

文字の大きさ
上 下
3 / 18
第一話 Muddle

3/5

しおりを挟む
授業の直後が昼休みだったのが幸いだった。僕はチャイムと同時に教室を飛び出し、校舎の裏、人気がない場所まで走った。

「はぁ、はぁ……」
僕は胸に手を当て、呼吸を整える。「そうだ、簡単だ……試してみりゃいいんだよ」
心の中では「信じたくない気持ち」と「信じなければいけない気持ち」が同居して、今すぐにでも試さないと弾けてしまいそうなほど、興奮していた。

僕は右手の手の甲を見る。そこには依然、手相のようにはっきりと『M』の文字が刻まれている。
「よし……」
僕は右手を上げ、手の甲に意識を集中させた。

なんの英単語を使うかは、もう決めていた。それは『Megaphone』……つまり、メガホンだった。

僕は再度、右手を見た。そしてメガホンを頭の中に思い浮かべた。
白い全体像、円錐のような胴体、引き金のついた取っ手……。
ハッキリと思い浮かべると、僕は呟くように
「Megaphone……」
と言った。

瞬間。
僕の右手の甲が、いや、正確にはそこに刻まれた『M』の文字が、淡く光り始めた。薄い緑色の優しい光を放ち、点滅するように、その「文字」は僕の言葉に反応した。

そして一秒か二秒か、ほんの短い間だけ輝いていたその『文字』は元の肌色に戻り、そして、空っぽだったはずの僕の右手には、いつの間にかメガホンが握られていた。



その日の夜。
アパートに帰ってから、僕は夢うつつのまま食事をした後、なんとなくシャワーを浴びて、なんとなくベッドに潜り込んだ。頭の中は『文字』の事でいっぱいだった。
昼休みの時に具現化させたメガホンはバッグに入れて持ち帰り、寝室の押し入れの奥に押し込んでおいた。
今日のところはもう何も考えず、ただただ眠りにつきたかった。メガホンも手の甲の文字も、例の『声』も、今日のすべての記憶も、何もかも忘れて眠りたかった。

ただ、こんな心境で安らかな眠りにつけるはずもなく、僕は何度も何度も寝返りを繰り返し、夜中の三時を過ぎたころにようやく、ふっ、と意識が切れるように眠った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話

赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。 「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」 そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...