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第一話 Muddle
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授業の直後が昼休みだったのが幸いだった。僕はチャイムと同時に教室を飛び出し、校舎の裏、人気がない場所まで走った。
「はぁ、はぁ……」
僕は胸に手を当て、呼吸を整える。「そうだ、簡単だ……試してみりゃいいんだよ」
心の中では「信じたくない気持ち」と「信じなければいけない気持ち」が同居して、今すぐにでも試さないと弾けてしまいそうなほど、興奮していた。
僕は右手の手の甲を見る。そこには依然、手相のようにはっきりと『M』の文字が刻まれている。
「よし……」
僕は右手を上げ、手の甲に意識を集中させた。
なんの英単語を使うかは、もう決めていた。それは『Megaphone』……つまり、メガホンだった。
僕は再度、右手を見た。そしてメガホンを頭の中に思い浮かべた。
白い全体像、円錐のような胴体、引き金のついた取っ手……。
ハッキリと思い浮かべると、僕は呟くように
「Megaphone……」
と言った。
瞬間。
僕の右手の甲が、いや、正確にはそこに刻まれた『M』の文字が、淡く光り始めた。薄い緑色の優しい光を放ち、点滅するように、その「文字」は僕の言葉に反応した。
そして一秒か二秒か、ほんの短い間だけ輝いていたその『文字』は元の肌色に戻り、そして、空っぽだったはずの僕の右手には、いつの間にかメガホンが握られていた。
*
その日の夜。
アパートに帰ってから、僕は夢うつつのまま食事をした後、なんとなくシャワーを浴びて、なんとなくベッドに潜り込んだ。頭の中は『文字』の事でいっぱいだった。
昼休みの時に具現化させたメガホンはバッグに入れて持ち帰り、寝室の押し入れの奥に押し込んでおいた。
今日のところはもう何も考えず、ただただ眠りにつきたかった。メガホンも手の甲の文字も、例の『声』も、今日のすべての記憶も、何もかも忘れて眠りたかった。
ただ、こんな心境で安らかな眠りにつけるはずもなく、僕は何度も何度も寝返りを繰り返し、夜中の三時を過ぎたころにようやく、ふっ、と意識が切れるように眠った。
「はぁ、はぁ……」
僕は胸に手を当て、呼吸を整える。「そうだ、簡単だ……試してみりゃいいんだよ」
心の中では「信じたくない気持ち」と「信じなければいけない気持ち」が同居して、今すぐにでも試さないと弾けてしまいそうなほど、興奮していた。
僕は右手の手の甲を見る。そこには依然、手相のようにはっきりと『M』の文字が刻まれている。
「よし……」
僕は右手を上げ、手の甲に意識を集中させた。
なんの英単語を使うかは、もう決めていた。それは『Megaphone』……つまり、メガホンだった。
僕は再度、右手を見た。そしてメガホンを頭の中に思い浮かべた。
白い全体像、円錐のような胴体、引き金のついた取っ手……。
ハッキリと思い浮かべると、僕は呟くように
「Megaphone……」
と言った。
瞬間。
僕の右手の甲が、いや、正確にはそこに刻まれた『M』の文字が、淡く光り始めた。薄い緑色の優しい光を放ち、点滅するように、その「文字」は僕の言葉に反応した。
そして一秒か二秒か、ほんの短い間だけ輝いていたその『文字』は元の肌色に戻り、そして、空っぽだったはずの僕の右手には、いつの間にかメガホンが握られていた。
*
その日の夜。
アパートに帰ってから、僕は夢うつつのまま食事をした後、なんとなくシャワーを浴びて、なんとなくベッドに潜り込んだ。頭の中は『文字』の事でいっぱいだった。
昼休みの時に具現化させたメガホンはバッグに入れて持ち帰り、寝室の押し入れの奥に押し込んでおいた。
今日のところはもう何も考えず、ただただ眠りにつきたかった。メガホンも手の甲の文字も、例の『声』も、今日のすべての記憶も、何もかも忘れて眠りたかった。
ただ、こんな心境で安らかな眠りにつけるはずもなく、僕は何度も何度も寝返りを繰り返し、夜中の三時を過ぎたころにようやく、ふっ、と意識が切れるように眠った。
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