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第2章 齟齬
意見や事柄が、くいちがって、合わないこと。
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信号機の赤とは対照的に群青色した晴天を掲げる空は汚れなく透き通っていて真っ直ぐな瞳を想像させた。私はその空から目を逸らさないようにじっと見つめた。まみはいつも通り学校へ行き、みきは今日珍しく学校を休んだ。というより休ませた。本当は学校を休ませてはいけない。そんな事は誰よりも分かっている。私から事情を聞いたまみは「まみも行きたいけど、まみ、みさきちゃんと遊ぶ方が楽しいからいかない」と言ってたんだ。だから今日1日くらい良しとしよう。娘のためだ。今日は神室ファンのみきにとっても私にとっても亡き妻にとっても最初で最後の記念すべき日なのだ。朱美もきっと許してくれるに違いない。朱美が交通事故で亡くなってから早2年が経つというのか。まだ昨日の出来事のように感じてしまう。いつだって家族思いで真っ直ぐな彼女はいつもキッチンに向き合い愚痴も溢さず毎日毎日、美味しい食事を提供してくれる。そんな彼女はよく「これは主婦の仕事ですから。当たり前ですよ」と笑顔で私や娘に言い聞かしていた。だからこそ今になって思う。私は甘え過ぎていたのだ。消してそれはいつまでも続く当たり前なことではなかった。永遠とは脆く、意図も簡単に砕け散ったのであった。
道路に設置してある電光掲示板には「大雪警報!吹雪や雪崩に注意!」という文字が点滅していた。雪も酷く客足が遠退いたのを感じた私は自分の店をキリのいい時間で閉め、車に乗ったのであった。携帯の時計を確認すると時刻は16:35を示していた。と、その時、エンジンをつける前の車内温度があまりに低いせいか携帯の電源が切れてしまった。車内温度はマイナス3度と表示されている。これじゃだめだ。再起動も出来ない。早く帰ろう。車のフロントガラスには物凄い勢いで雪が風に舞い叩きつけてくる。全くこれだから北海道の冬は嫌だ。あの時私はそう思いながら帰路を走行していた。家の駐車場に到着した頃やっと携帯が復活した。車の暖房が効いたらしい。すると何件か知らないところから連絡が入っている。きっとお客さんからキャンセルの電話だろうと咄嗟に判断した私は後回しにして先に自宅へ向かう。「ただいま~。いや~なまら雪凄いね寒ぃ寒ぃ」上着に付着した雪を玄関で払い居間へ向かう。「お父さんお帰り。」何処か覇気のない娘二人の声が聞こえてくる。ひかるの声が聞こえない。そうか彼女はまだ出掛けているのか。こんなにも大雪だっていうのに。念の為心配だから後で連絡してみよう。居間に入って辺りを見渡すとみきとまみがお互い寄り添うようにして体育座りをしており私を見つめてきた。みきはお姉ちゃんなだけあっていつも妹のまみの面倒を見てくれる。だがしかし、何か異様な雰囲気を直ぐに感じた私はキッチンの方を確認する。あれ?朱美が居ない。「お母さんは帰ってないのかい?家の電話は鳴ってた?」と出来るだけ落ち着いて娘二人に問う。二人は顔を合わせて「うんん」と俯き気味に言う。「でもね!電話は鳴ってたよ!」とみきが思い出したかのように告げる。そうか電話は鳴っていたのか。まだ幼いと決めつけてる娘二人には親のいない時間には電話を出ないように伝えている。朱美はパートの仕事を週2、3回勤めており、仕事のある日は子供達が学校に行くのを見送り、それから会社に行き16時で仕事を終え17時頃には家にいるように配慮してくれている。会社側もそれで承諾してくれている。きっと朱美の人柄の良さが評価されているのだろうと私は解釈していた。だから残業する時は私に連絡入れてくれる。だけど私の携帯には先程、彼女からの連絡は入っていなかった。「みき教えてくれてありがとう。みきとまみは奥の部屋で遊んでおいで」胸の奥でざわっと嫌な予感が込み上げてきた私は出来るだけそれらを感じ取られないように二人に声をかけた。二人が奥の部屋に行ったのを確認して、家の電話の着信履歴を見る。16:44、16:45、16:50、3回にも渡り、同じ電話番号から立て続けに連絡が入っている。この番号私の携帯にも来ていた電話番号と同じだ。誰からの連絡か見当が付かない。兎に角急いで折り返しの連絡をする。「こちら西通り救急センターです」無機質な声の女性と電話が繋がる。「あの、先程そちらからお電話頂いていました志比川と申します。」すると珍しい苗字ですぐに状況を把握した無機質な声の女性が突然感情を露わにして「志比川朱美様の旦那様ですね!先程奥様が交通事故に遭い、緊急搬送されました!出来るだけ早くこちらへ来て下さい!!」私は突然の通告に混乱しながらも返答する時間も惜しむようにして急いで電話を切って病院へ向かった。それが妻朱美の最後だった。病院へ着いた頃、既に妻は死亡しており、医師から死亡推定時刻と死因を告げられた。「死亡推定時刻17:10。死因は交通事故による出血死です。恐らくですが、奥様この吹雪の中車を走行していた為、視界不良に遭い、スリップし公道にある電柱に衝突してしまいました。その際、体全身を強く打ち病院に到着後、治療を施す頃にはもう....」
「ねぇってお父さん聞いてる?ちゃんとサイン会のチケット持って来た?」信号が青に切り替わると同時に娘の声で我に帰る。「う、うん!鞄に入ってる筈だよ。お父さん車運転中だからみきちょっと代わりに確認して見て」「全く仕方がないな~。家出る前に確認しないと。」溜息混じりに言い放った助手席にいるみきの姿が、どこか朱美に似た大人の雰囲気を醸し出しおり、成長を実感させられる。そうこうしてるうちにショッピングモールへと到着した。予め混雑を想定して1時間も早く来たにも関わらず車が長蛇の列を作っていた。「これは凄いねー。まさかお父さんこんなにも混むと思ってなかったよ」「当たり前でしょ?神室さん今日で最後なんだから!会いたいのはみんな一緒!お母さんも連れて来たかったなぁ。」列の長さから車を止めるまでまだ少し時間がかかる。そう判断した私はさりげなく朱美の一番好きな曲をかける。「お母さん神室さんのこの曲ほんっと好きだよね。何回もリピートしてて、他の曲聴こうって私が言ってもそれだけは譲れないって言われたこともあるもん」「でもお母さんからこうして良いものを教えてもらえて良かった。神室さんを応援しているとお母さんも喜んでいる気がするんだよねー」小学生4年生ながら今は亡き母親に対する何処か虚しい感情を感謝の気持ちに変換して、子供なりに精一杯の解釈で想った言葉だと私は感じた。私は親子揃って車内で神室さんの曲聴き、妻の思い出話をした。その温かいなにかに包まれた時間はあっという間に現実世界の時間を進行させとても心地良く胸に響いた。そしてこれから始まるサイン会に対するボルテージを一気に上昇させた。神室さんのサイン会楽しみだな。そう思っていた頃、私の車が停めれる順番が回って来た。ショッピングモールへ入ると神室さんのサイン会までは少し時間があったため、娘の見たいという要望を元に、キラキラとした洋服店や凄くいい香りの漂うファーストフード店を回った。そうこうしているうちに、待ちに待ったサイン会の時間が来た。会場に着くと厳重な警備の元所々に警備員が配属されていた。あちこちに点在しているスピーカーからは神室さんの名曲が盛大に流れていた。会場は長蛇の列や人で混雑していたので、迷子になり居なくならないよう私は娘の手をぎゅっと握りしめて何があっても一緒に居る。そんな心構えで娘と一緒に順番が来るのを待っていた。「もうあと数メートル先のテントの所に神室さんがいて、直接サインが貰えると思うとドキドキするね」みきは少々おだった様子でソワソワしていた。するとその時、轟音と爆音が同居した様子で会場隅にあったスピーカーから煙が出て瞬く間に出火し爆発した。爆音が響いた会場内からは響めきと悲鳴が飛び交い人々は一斉に走りまわる。不安と死の予感により生じた人々の混乱が私と娘の手を引き離してしまった。「みき!!何処だ!?どこにいる!!大丈夫か!?」自分の娘の居場所が人混みによって確認が出来ない。「キャー。お父さん怖いよー。助けて!」人と人との隙間から、まだ着火したばかりの小さな火の渦中に一人女の子がいるのが見えた。あれは紛れもなく自分の娘だ。火には目もくれずその場に駆けつけ私は震えるみきを自身の胸元に引き寄せてその場にしゃがみ込み一旦落ち着かせる。「お父さん怖かったよ。」「良かった良かった。もう大丈夫だよ。どうしてもっと早く逃げなかったんだい」みきの足元にはママの分ですとみきの字で付箋が貼られたCDが落ちていた。そういうことか。すると点在するスピーカーが次々同様に爆発して辺り一面はさらに大パニックと化した。そして自分たちの周りにあったスピーカーも相次いで爆発したため、さらに爆風に巻き込まれる。サイン会用のテントや大型ポスターや大型モニターは重なるように倒れこみ、取り残された私と娘の周りは瞬く間に火の海と化した。「みき私から離れるんじゃない!じっとしていたら大丈夫だから私の側に居なさい!」会場内が悲鳴と助けを求める声で各々が踠いている。逃げ遅れた私達を誰かがきっと助けてくれるはず。
そう心の中で願い章雄はみきを改めて抱き締め庇うようにして、火の荒波に飲まれていった。
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「ねぇってお父さん聞いてる?ちゃんとサイン会のチケット持って来た?」信号が青に切り替わると同時に娘の声で我に帰る。「う、うん!鞄に入ってる筈だよ。お父さん車運転中だからみきちょっと代わりに確認して見て」「全く仕方がないな~。家出る前に確認しないと。」溜息混じりに言い放った助手席にいるみきの姿が、どこか朱美に似た大人の雰囲気を醸し出しおり、成長を実感させられる。そうこうしてるうちにショッピングモールへと到着した。予め混雑を想定して1時間も早く来たにも関わらず車が長蛇の列を作っていた。「これは凄いねー。まさかお父さんこんなにも混むと思ってなかったよ」「当たり前でしょ?神室さん今日で最後なんだから!会いたいのはみんな一緒!お母さんも連れて来たかったなぁ。」列の長さから車を止めるまでまだ少し時間がかかる。そう判断した私はさりげなく朱美の一番好きな曲をかける。「お母さん神室さんのこの曲ほんっと好きだよね。何回もリピートしてて、他の曲聴こうって私が言ってもそれだけは譲れないって言われたこともあるもん」「でもお母さんからこうして良いものを教えてもらえて良かった。神室さんを応援しているとお母さんも喜んでいる気がするんだよねー」小学生4年生ながら今は亡き母親に対する何処か虚しい感情を感謝の気持ちに変換して、子供なりに精一杯の解釈で想った言葉だと私は感じた。私は親子揃って車内で神室さんの曲聴き、妻の思い出話をした。その温かいなにかに包まれた時間はあっという間に現実世界の時間を進行させとても心地良く胸に響いた。そしてこれから始まるサイン会に対するボルテージを一気に上昇させた。神室さんのサイン会楽しみだな。そう思っていた頃、私の車が停めれる順番が回って来た。ショッピングモールへ入ると神室さんのサイン会までは少し時間があったため、娘の見たいという要望を元に、キラキラとした洋服店や凄くいい香りの漂うファーストフード店を回った。そうこうしているうちに、待ちに待ったサイン会の時間が来た。会場に着くと厳重な警備の元所々に警備員が配属されていた。あちこちに点在しているスピーカーからは神室さんの名曲が盛大に流れていた。会場は長蛇の列や人で混雑していたので、迷子になり居なくならないよう私は娘の手をぎゅっと握りしめて何があっても一緒に居る。そんな心構えで娘と一緒に順番が来るのを待っていた。「もうあと数メートル先のテントの所に神室さんがいて、直接サインが貰えると思うとドキドキするね」みきは少々おだった様子でソワソワしていた。するとその時、轟音と爆音が同居した様子で会場隅にあったスピーカーから煙が出て瞬く間に出火し爆発した。爆音が響いた会場内からは響めきと悲鳴が飛び交い人々は一斉に走りまわる。不安と死の予感により生じた人々の混乱が私と娘の手を引き離してしまった。「みき!!何処だ!?どこにいる!!大丈夫か!?」自分の娘の居場所が人混みによって確認が出来ない。「キャー。お父さん怖いよー。助けて!」人と人との隙間から、まだ着火したばかりの小さな火の渦中に一人女の子がいるのが見えた。あれは紛れもなく自分の娘だ。火には目もくれずその場に駆けつけ私は震えるみきを自身の胸元に引き寄せてその場にしゃがみ込み一旦落ち着かせる。「お父さん怖かったよ。」「良かった良かった。もう大丈夫だよ。どうしてもっと早く逃げなかったんだい」みきの足元にはママの分ですとみきの字で付箋が貼られたCDが落ちていた。そういうことか。すると点在するスピーカーが次々同様に爆発して辺り一面はさらに大パニックと化した。そして自分たちの周りにあったスピーカーも相次いで爆発したため、さらに爆風に巻き込まれる。サイン会用のテントや大型ポスターや大型モニターは重なるように倒れこみ、取り残された私と娘の周りは瞬く間に火の海と化した。「みき私から離れるんじゃない!じっとしていたら大丈夫だから私の側に居なさい!」会場内が悲鳴と助けを求める声で各々が踠いている。逃げ遅れた私達を誰かがきっと助けてくれるはず。
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