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第八章 江東の小覇王と終焉の刻
第百一話 董卓暗殺計画
しおりを挟む広々とした庭園の中に、ひっそりと佇む鳳儀亭は、揺らめく池の水面に美しい姿を映し出し、夜露に煌めいて実に艶やかであった。
「鳳儀」とは、“有鳳來儀”「鳳凰が飛来する」と言う意味で、中華文化に於いて“鳳凰”は非常に縁起の良いものであり、運勢が上がり物事が順調に行くという事の象徴である。
毎晩、密かにそこを訪れると、侍女に扮した孟徳が仙女と見紛う美しさで待っていてくれた。
共に過ごせる時間は限られており、それはまるで儚い一瞬の夢の様であった。
孟徳と一緒に居ると、まるで童心に返った様な懐かしさを覚える。
奉先にとってそれは至福の時であり、虎淵と妻の香蘭に子供が産まれる事や、幼馴染みだった鈴星が孟徳の妻になった事などを知り、何時も驚きと感嘆に満ちていた。
「今夜も出掛けるの?奉先…」
「ああ、直ぐに戻るから、先に休んでいてくれ。」
居室で外出の支度をする奉先に向かって問い掛けた雲月は、少し俯いてから再び彼に声を掛けた。
「あんたが好きだったと言う女性に…会っているのだろう…?」
一瞬、何の事か分からず、奉先が稍々驚きの表情で振り返ると、顔を上げた雲月が少し目元を赤くして彼を見詰めている。
「…まさか、そんな筈は無い…!彼女は…もう他人の妻になったのだ。」
彼女を見下ろしながら、奉先は彼女の肩に手を伸ばし胸に引き寄せた。
「雲月、俺の妻はお前だ。誰よりもお前を愛している…」
そして、彼女の体を抱き締めてその背中を優しく撫で下ろすと、雲月は彼の胸に顔を埋めて小さく肩を震わせた。
やがて顔を上げた雲月は、少し頬を紅く染めながら彼を見上げ、
「馬鹿だな…私は。子を身籠ってから、少し情緒が不安定になっている様だ。気にしないでおくれ…」
そう言って笑顔を作る。
「ああ…大丈夫か、雲月?」
「さあ、もう行って。大切な人と会うのだろう…!」
心配げな面持ちで彼女を見詰める奉先に、雲月は少し顔を顰め、今度は煩わしそうに言ってから彼の腕を離れて行く。
奉先は戸惑いを隠し切れなかったが、部屋を出て行く雲月をただ黙って見送った。
「どうした?今日は随分と浮かない顔をしているな?」
奉先の顔を覗き込んで、孟徳が訝しげに問い掛ける。
「孟徳殿…貴方と会うのは、今日で最後にしたい。身重の妻が不審がっているし、彼女に心配を掛けたくないのだ…」
「そうか…実はな、俺もお前に言わねば成らぬ事がある…」
「?」
少し言い出し難そうに表情を曇らせる孟徳を、奉先は訝しげに見詰めた。
「俺は、明日から董仲穎の侍女となるのだ。」
「そ、それは…どう言う事だ…?!」
奉先は驚きの余り言葉に詰まった。
「長安から西へ、凡そ二百五十里の地に“郿塢”と呼ばれる城塞を築いている。その砦には三十年分の食糧を蓄えているが、仲穎はそこへ八百人もの美女を集める積りらしい…」
「何と浅ましい事を…!」
眉間に皺を深く刻み、奉先は不快を露わにする。
「それから、お前の屋敷に貂蝉という娘が居るであろう?仲穎はその娘の事も狙っていると、王子師殿が申しておられた。」
「貂蝉を…?!」
奉先は思わず瞠目し、激しく動揺した。
彼が貂蝉を妹の様に可愛がっている事を、仲穎が知らぬ筈は無い。
それにも関わらず、彼から貂蝉を奪おうとしているとは信じ難い事である。
奉先の胸には、激しい怒りと嫌悪感が込み上げて来た。
「仲穎の身辺を探り、反対勢力の者たちと連絡を取り合う為、俺はともかく仲穎と共に郿へ行く積りだ。」
孟徳が言うと、奉先は彼を見詰めてその肩を強く掴んだ。
「貴方は、どうせ俺が止めても行くのであろうから…危険な真似だけはするなよ!危険が迫れば、直ぐにでも逃げてくれ。」
「言われずとも、わかっている!」
苦笑を浮かべる奉先に笑顔で答えると、風に踊る長い黒髪を軽やかに靡かせながら、孟徳は池に掛かる橋を走り去って行く。
その姿を憂いの眼差しで見送った後、奉先は足早に鳳儀亭を後にした。
屋敷へ帰り着くと、急いで貂蝉の居室へと向かい部屋の外から呼び掛けた。
「貂蝉、起きているか?」
すると直ぐに此方へ走り寄る足音が聞こえ、扉を開いた貂蝉が訝しげな顔を覗かせた。
「こんな時間に、どうしたの?」
奉先は素早く室内へ入り、部屋に置かれた箪から彼女の衣服や履物を取り出すと、呆気に取られて立ち尽くす貂蝉の腕に抱かせる。
「今すぐに此処を出るぞ。太師の使者が現れる前に、何処かへ身を隠すのだ。」
そう言って、奉先は彼女の腕を引いて部屋を出て行った。
廊下を走って行くと、向こうから俊と雲月が何事かと走って来る。
「奉先、何があったの?貂蝉を何処へ…?」
「董太師が、貂蝉を郿塢へ連れて行こうとしているらしい。まだ正確な情報は無いが、大事を取って彼女の身を隠しておいた方が良いであろう。」
それを聞いた二人は瞠目し、不安そうな眼差しを奉先と貂蝉に向ける。
再び貂蝉の腕を引いて走り出そうとすると、突然、貂蝉が彼の腕を振り解こうと抵抗し始めた為、驚いた奉先は立ち止まって彼女を見下ろした。
「待って…っ!」
「どうした、貂蝉?!」
「私、逃げも隠れもしないわ…!」
「?!」
奉先が瞠目して彼女を見詰めると、
「董卓が私を連れて行くと言うなら、それでも構わない…!」
貂蝉はそう言って、握った拳を胸に押し当て瞳に強い光を宿す。
「何を言っているのだ、お前をあの男の元へなど行かせぬ…!」
彼女の細い両肩を強く掴むと、貂蝉は激しく首を横に振った。
「私の家族は、董卓に殺された…私はどうしても仇を討ちたいの…!」
「馬鹿な…!返り討ちにされるだけだぞ!」
「分かってる、だから…貴方が斃してくれるでしょう?」
「…っ!?」
貂蝉は瞳を赤く染めながら、彼の顔を見詰めた。
「私を素直に差し出せば、きっと董卓は喜んで貴方を信頼する筈だわ。お願い、奉先。私を信じて…!」
「貂蝉…」
愛らしくも麗しい少女の澄んだ瞳に、奉先の心は激しく掻き乱され、思わず彼女を胸に抱き締めた。
「分かった…侍女に麗蘭という人がいるから、その人を頼れ。信頼出来る人物だから、心配ない…」
「うん。」
貂蝉は彼の腕の中で、胸に顔を埋めて小さく頷く。
翌日、奉先は仲穎の屋敷を訪れ、彼との面会を申し入れた。
広間で奉先を出迎えた仲穎は、少し彼の顔色を伺う様な目付きで見ている。
「実の所…わしは、お前があの娘を差し出すのを渋るのではないかと懸念しておったぞ…」
仲穎が言うと、奉先はふっと笑い、
「太師のお目に留まったのなら、幸いです。あの娘も、太師に御寵愛して頂けるならと、非常に喜んでおりますので。」
穏やかな口調でそう答え、仲穎に向かって拱手する。
それを聞くと、仲穎は途端に顔を綻ばせ、
「そうか、あの娘の将来の事も、わしに任せておくと良い!やがては皇后となる日が来るかも知れぬからな!」
冗談とも本気とも取れぬ言い方で、仲穎は陽気な声を上げて笑った。
彼は明らかに漢王室を見下している。
自分の寵姫が“皇后”になると言う事は、自らが新たな皇帝になる意思を持つ事を示唆しているのである。
良くも、ぬけぬけと…!
内心、奉先は腸が煮えくり返る様な思いを抱いていたが、その感情を噫にも表さず、仲穎に微笑を向けていた。
長安と郿塢との間には、凡そ七丈(約21m)もの広さのある馳道(天子の通る道)が敷かれている。
仲穎は皇帝と同様の青い天蓋の車に乗り、そこを我が物顔で幾度と無く往復していた。
その日、馳道の上には所狭しと豪華絢爛な車が連なり、長安中から集められた美女たちを乗せて、次々に郿塢へと出発させていた。
華やかな衣装に身を包み、曇りのない美肌に化粧を施した貂蝉は、正に天界から舞い降りた天女の如き美しさであった。
長い睫毛を伏せたまま、門前で見送る奉先と雲月に向かって小さくお辞儀をすると、迎えに来た車に乗り込む。
奉先は門の前に佇み、貂蝉の乗った車が遠ざかるのを、ただ黙って見送った。
「あの娘は…気丈に振る舞ってはいるが、本当は心底仲穎を恐れているに違いない。それでも、あんたの役に立ちたいと願っているんだよ…」
ふと、隣で同じ様に車を見送っていた雲月が呟く。
「ああ、分かっている…」
奉先は視線を逸らさず、遠ざかる車の姿が見えなくまるまで見詰め続けた。
司徒の王允(字は子師)は、部下の士孫瑞(字は君栄)や、友人の黄琬(字は子琰)らと結束して、以前から仲穎暗殺の計画を密かに練っていた。
一方、仲穎の侍女に扮して郿へと向かった曹孟徳は、彼の周りを密かに調査し、仲穎に対して恨みを抱いている人物を探り出し、彼らを仲間に引き入れる事に成功していた。
子師は更に、孟徳を通じてその内通者らと密かに面会し、綿密な計画を立てて行った。
作戦は一度きりで、絶対に失敗する訳には行かない。中途半端な作戦では仲穎を取り逃がしてしまう恐れがある。
計画は慎重に慎重を重ね、ここまで順調に進められて来た。
舞台は整いつつある。
だが、ここへ来てある問題が生じていた。
誰が実際に仲穎を殺害するかと言う事である。
多少の衰えは見せたとはいえ、仲穎の武勇はまだ充分に意気軒昂であり、並の相手では太刀打ち出来ない。
子師の屋敷で密会した君栄と子琰は、彼に膝を進め眉根を寄せた。
「今、この長安で仲穎を斃せる様な刺客が居りましょうか…?」
「側近には、あの呂奉先もおります。彼が居ては、容易に手は出せませんぞ…!」
すると子師は二人に微笑を向け、
「その事なのだが、心配には及ばぬ。わしに任せてくれぬか?」
そう言って家人を呼び寄せると、その者に何やら耳打ちをする。
二人は訝しげに互いの顔を見合わせたが、やがて広間にある人物が姿を現すと、二人は大きく息を呑んで瞠目し、その人物を見上げたまま声を失った。
広間へ姿を現したのは、呂奉先である。
奉先は子師の前へ進み出ると、膝を突き彼に向かって拱手した。
それから、呆気に取られる二人に向き直り、二人にも挨拶をする。
君栄と子琰の二人は思わず狼狽え、子琰は子師の袖を強く引いて、彼の耳に口を押し当てた。
「どう言うお積もりです?!彼を計画に加えるのですか?!」
更には、君栄も子師に鋭く迫った。
「彼は、養父で恩人でもある丁建陽を裏切った男ですよ!信用出来ません…!」
すると子師は、まあまあ、と二人を宥める。
「彼を措いて、他に仲穎を斃せる者が居りましょうか?それに、彼は可愛がっていた貂蝉という侍女を仲穎に連れ去られ、取り戻したいと思っている。」
子師の説明を聞いても尚、二人は半信半疑な様子で、奉先に怪訝な眼差しを向けている。
「俺を信用出来ぬと言われるのは勝手だが、それならお二人に、今此処で俺を始末する事が出来るであろうか…?」
二人を見詰めながら、奉先は少し不敵な態度で問い掛ける。
確かに、この期に及んで計画を中止する訳には行かず、彼に計画を知られた以上、仲間に引き入れる他に選択肢は無かった。
二人は胸の前に腕を組み、むうっと唸って渋面を作ったが、やがて顔を上げると渋々ではあるが、一応は納得したと言う様に互いに頷き合った。
「分かりました。子師殿を信じ、奉先殿にお任せしましょう…!」
「そうと決まれば、早速、仲穎を誘き出す手筈を整えねば成らぬ。わしは、帝から既に“逆賊董仲穎誅殺の詔”を頂いておる。」
そう言うと、子師は部屋の床下に隠しておいた箱の中から、皇帝の詔を震える手で取り出し、それを三人の前に差し出す。
「では、これは俺が預かって置きましょう…」
奉先はそう言うと詔を手に取り、それを自分の懐の中へと収めた。
斯くして、董仲穎暗殺計画の決行日時は決まり、皇帝の快気祝いと称して、仲穎を未央宮へ呼び出す事となった。
子師の屋敷を出た時には、既に日は傾き、長安の街並みは茜色に染まっていた。
夕陽の色を吸い込み、朱い毛並みを更に鮮やかに輝かせた飛焔の背に揺られながら、奉先は自分の懐に手を押し当てた。
父上、貂蝉…そして、孟徳殿…
皆が臥薪嘗胆した思いが、遂に果たされる時が来たのだ…
腰に佩いた宝剣を鞘からゆっくりと引き抜くと、夕陽が剣身に反射し、目が眩む程の眩しい光を放つ。
奉先は目を細めてその光を暫し見詰めた後、鋭く瞳を上げて眼光を光らせた。
董仲穎と刺し違える事になってでも、必ず計画は成功させる…!!
夕陽はやがて更に赤味を帯びて輝き、彼の瞳の色を真っ赤な血の色に染めて行った。
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