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第2章 ハイデルベルク城
第二十話・セファとサファイア
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こうしてエルフの末裔、ホワイトニンフのセファは、森の泉で生まれた。ホワイトニンフというのは、かつてヨーロッパに住んでいた種族である「エルフ」が、先祖のかけた魔法の力を借りて、泉の妖精の娘として転生したものである。ホワイトニンフは先祖のエルフ達の記憶を持ち、魔法なども生まれながらにして使える、突然変異で生まれた妖精界の超エリートなのだ。
ただ、先祖の記憶の獲得のスピードには個体差がある。セファは生まれてすぐに人の言葉を喋るほど、言語記憶の獲得スピードはすさまじかったが、エルフの歴史や魔法の知識の獲得スピードは遅かった。
「この泉から、魔法の力が湧いているのを感じる。あたしの身体が、その力を吸収する。でも、どう使えばいいの? 早くこの力を使ってみたい」
夜の泉のほとりで、苔のむした岩に座ってセファは右手を月にすかした。その手から、白くキラキラと輝く砂のような光がこぼれた。セファの身体からあふれ出したマナであった。
次の日の朝、セファは多くの精霊たちのダンスを興味深そうに眺めていた。そのダンスの輪の一つから、きらっと緑色の輝きが周囲に放たれ、小さいけれどもひときわ強く輝く精霊がうまれた。
「きれい……」
セファはうっとりとその緑の輝きに見とれた。その精霊はしばらく周囲をうかがった後、セファに近づいてきた。セファはその精霊に手を伸ばしてみた。
「このやさしい感じ、これは癒しのエレメントね」
精霊もまたセファの手に触れた。緑色の小さな光の粒が、セファの指に吸収され、セファの身体を内部から癒した。
「あたしはホワイトニンフのセファ、よろしくね。そうだ、あなたにも名前をつけてあげる。きれいな緑色だからサファイアはどう?」
精霊は少し考えていたようだが、やがてクルクルと回転しながら、セファの周囲で美しい緑の軌跡を描いた。
サファイアとともに、朝の泉を散策していたセファは、きらきらと輝く水面の光を見てひとつ先祖の記憶を思い出した。
「そうだ……、この光を集めて糸にして……」
セファは両手を前に出し、泉の表面できらめく光を手の平ですくい取るようなしぐさをした。瞬間、セファの両手には半透明に輝く光のドレスが現れた。そのドレスを身に着けたセファは、サファイアに向かって言った。
「あなたにも、かわいい衣装を作ってあげるね」
お昼になる頃には、セファは銀色にかがやく帽子とドレス、手袋とブーツを身に着け、そしてサファイアはひらひらとした羽衣とリボンをまとっていた。多くの精霊達が、セファとサファイアを取り囲み、うらやましそうにくるくると回転してみせた。
「大丈夫、朝の光とこの泉の力があれば、衣装はいくらでも作れるから、明日の朝みんなにも作ってあげるね」
と、その時、セファ達の頭上高くを飛んでいた数匹の精霊たちが、慌てた様子で降りてきて、セファの周囲を飛び回った。セファはその精霊たちを不安そうな顔で見つめていたが、やがて目を見開いてこう言った。
「え、人間が二人、この泉に向かってるの?」
セファの脳裏に、この泉を目指して東方から歩いてくる二人のビジョンが見えた。一人は軍服を着た少年兵で、もう一人は小さな金髪の女の子だった。そう、その女の子が、のちにセファの大親友となるエリス・ハーデンだった。でも、この時のセファには、そんな未来を知るよしもなかった。
「おいで、サファイア」
セファはサファイアとともに、泉の上空めざして飛んだ。
ただ、先祖の記憶の獲得のスピードには個体差がある。セファは生まれてすぐに人の言葉を喋るほど、言語記憶の獲得スピードはすさまじかったが、エルフの歴史や魔法の知識の獲得スピードは遅かった。
「この泉から、魔法の力が湧いているのを感じる。あたしの身体が、その力を吸収する。でも、どう使えばいいの? 早くこの力を使ってみたい」
夜の泉のほとりで、苔のむした岩に座ってセファは右手を月にすかした。その手から、白くキラキラと輝く砂のような光がこぼれた。セファの身体からあふれ出したマナであった。
次の日の朝、セファは多くの精霊たちのダンスを興味深そうに眺めていた。そのダンスの輪の一つから、きらっと緑色の輝きが周囲に放たれ、小さいけれどもひときわ強く輝く精霊がうまれた。
「きれい……」
セファはうっとりとその緑の輝きに見とれた。その精霊はしばらく周囲をうかがった後、セファに近づいてきた。セファはその精霊に手を伸ばしてみた。
「このやさしい感じ、これは癒しのエレメントね」
精霊もまたセファの手に触れた。緑色の小さな光の粒が、セファの指に吸収され、セファの身体を内部から癒した。
「あたしはホワイトニンフのセファ、よろしくね。そうだ、あなたにも名前をつけてあげる。きれいな緑色だからサファイアはどう?」
精霊は少し考えていたようだが、やがてクルクルと回転しながら、セファの周囲で美しい緑の軌跡を描いた。
サファイアとともに、朝の泉を散策していたセファは、きらきらと輝く水面の光を見てひとつ先祖の記憶を思い出した。
「そうだ……、この光を集めて糸にして……」
セファは両手を前に出し、泉の表面できらめく光を手の平ですくい取るようなしぐさをした。瞬間、セファの両手には半透明に輝く光のドレスが現れた。そのドレスを身に着けたセファは、サファイアに向かって言った。
「あなたにも、かわいい衣装を作ってあげるね」
お昼になる頃には、セファは銀色にかがやく帽子とドレス、手袋とブーツを身に着け、そしてサファイアはひらひらとした羽衣とリボンをまとっていた。多くの精霊達が、セファとサファイアを取り囲み、うらやましそうにくるくると回転してみせた。
「大丈夫、朝の光とこの泉の力があれば、衣装はいくらでも作れるから、明日の朝みんなにも作ってあげるね」
と、その時、セファ達の頭上高くを飛んでいた数匹の精霊たちが、慌てた様子で降りてきて、セファの周囲を飛び回った。セファはその精霊たちを不安そうな顔で見つめていたが、やがて目を見開いてこう言った。
「え、人間が二人、この泉に向かってるの?」
セファの脳裏に、この泉を目指して東方から歩いてくる二人のビジョンが見えた。一人は軍服を着た少年兵で、もう一人は小さな金髪の女の子だった。そう、その女の子が、のちにセファの大親友となるエリス・ハーデンだった。でも、この時のセファには、そんな未来を知るよしもなかった。
「おいで、サファイア」
セファはサファイアとともに、泉の上空めざして飛んだ。
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