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第一章・ハイテク・プリズン『電子レンジ地獄』
第十七話・想定外のデスペナルティ
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ステージ10のお題である、「コンビニ店長の愚痴を聞け」をクリアするために、富樫はコンビニのレジカウンター内で店長の横に立ち、店長の言葉を待っていた。店長は口を開いた。
「トガシ君はいいよね……、ニート君だものね……、俺なんて、店長だから休みなんてなくてね……、はぁ……」
「そ、そうですか……」
「あ、店長っていうと、すごく聞こえがいいと思うんだけどね、実際は違うんだよね。収入はそんなによくないし、アルバイトのみんなとの人付き合いは大変だし、超ブラックなんだよ、超ブラック。ねえトガシ君、よかったらもう少し聞いてもらえる?」
「……」
富樫は絶句した。だが店長は構わず続ける。
「ありがとう。ちょうどお客さんも来ないようだし、もう少し僕の話を聞いてね。まずね、僕のこの店は、フランチャイズ契約をしてるんだけどね、このフランチャイズっていうのがね、本当に本当につらいの。売上げのほとんどはね、本部に取られちゃってね、残った金額から、光熱費とか、アルバイトのみんなのお給料とか、その他色々とられてね……」
「うっ……、あ、頭が……」
富樫は眩暈を感じて左手で頭を押さえ、右手でカウンターに手をついた。そこへセファの声が響く。
「トガシだめよ! ちゃんと店長の話を聞いてあげて。そうしないと……」
「あ!」
店長が突然、コンビニの入口の方を指さして叫んだ。大型トラックが、すごい勢いでこちらに突っ込んで来る所だった。
「な、なんだよ……、まさか……、ちょっと聞き逃したくらいで……」
バリバリバリ、という破壊音が店内を揺るがせ、直後、富樫と店長は肉片となって壁に叩きつけられていた。
(ひ、ひどすぎだろこれ……)
「ト、トガシイイイイイ!」
セファが絶叫したが、その声はすでに富樫には届かない。富樫は瀕死の肉片となって床に転がっていた。セファは右手で空中に輪を書いて緑色のサークルを出現させ、それを眺めたあと叫んだ。
「プリズン! どういうことなの? さっき設定しておいた、ゲームオーバーまでの時間がゼロに変えられてる。あなたがやったの?」
プリズン、というのは、この空間の管理を任されている、人工知能である。プリズンは黙っていたが、セファが二度目の声をあげたとき、観念して白状しはじめた。
「プリズン!」
「ええ、設定をいじったのは私です。ただしそれは、私の意志ではありません。エリス様のご意志です」
「エ、エリスが?」
「はい、あなたの今回の、囚人トガシへの態度が目に余ると、私が本部に通報しておきました。それをエリス様がじきじきにご覧になられ、ご判断をくだされました。このステージ10より以降、ゲームの難易度を最高に上げること。それがセファ様への、エリス様からへの罰、反論は認めない、とのことです」
「くっ……、あと少しだったのに……。エリスのやつ……」
セファは握りこぶしで机をドンと叩いた。
そんなセファとプリズンのやり取りを、幻想世界の別空間に設置された端末室で眺めるニーアとターラ。ニーアがひとり言のようにつぶやいた。
「エリスって……、エリス社長のこと?」
「そうよ。この日本にコンビニ妖精派遣会社を創立した、敏腕女社長、元ドイツ人のエリス・ハーデン社長。彼女はセファと旧知の友人だそうよ。そんなエリス社長から罰をもらうなんて、やはりやり過ぎだったようね、あの娘」
ターラは、おほほと笑った。悔しがるセファの表情を見て、ニーアは複雑な気持ちになった。
(わ、私がセファに罰を与えるはずだったのに……、余計なことを……。で、でも、セファはこのステージ10を終えたら、卒業試験を申請しようとしているみたいだから、邪魔されるとしてもあと少しね。そのあと私が、私からの罰をセファに……)
鼻息を荒くするニーアであったが、彼女は知らなかった。富樫にとっての真の地獄の蓋が、ステージ10において今まさに開こうとしているのを……。
「トガシ君はいいよね……、ニート君だものね……、俺なんて、店長だから休みなんてなくてね……、はぁ……」
「そ、そうですか……」
「あ、店長っていうと、すごく聞こえがいいと思うんだけどね、実際は違うんだよね。収入はそんなによくないし、アルバイトのみんなとの人付き合いは大変だし、超ブラックなんだよ、超ブラック。ねえトガシ君、よかったらもう少し聞いてもらえる?」
「……」
富樫は絶句した。だが店長は構わず続ける。
「ありがとう。ちょうどお客さんも来ないようだし、もう少し僕の話を聞いてね。まずね、僕のこの店は、フランチャイズ契約をしてるんだけどね、このフランチャイズっていうのがね、本当に本当につらいの。売上げのほとんどはね、本部に取られちゃってね、残った金額から、光熱費とか、アルバイトのみんなのお給料とか、その他色々とられてね……」
「うっ……、あ、頭が……」
富樫は眩暈を感じて左手で頭を押さえ、右手でカウンターに手をついた。そこへセファの声が響く。
「トガシだめよ! ちゃんと店長の話を聞いてあげて。そうしないと……」
「あ!」
店長が突然、コンビニの入口の方を指さして叫んだ。大型トラックが、すごい勢いでこちらに突っ込んで来る所だった。
「な、なんだよ……、まさか……、ちょっと聞き逃したくらいで……」
バリバリバリ、という破壊音が店内を揺るがせ、直後、富樫と店長は肉片となって壁に叩きつけられていた。
(ひ、ひどすぎだろこれ……)
「ト、トガシイイイイイ!」
セファが絶叫したが、その声はすでに富樫には届かない。富樫は瀕死の肉片となって床に転がっていた。セファは右手で空中に輪を書いて緑色のサークルを出現させ、それを眺めたあと叫んだ。
「プリズン! どういうことなの? さっき設定しておいた、ゲームオーバーまでの時間がゼロに変えられてる。あなたがやったの?」
プリズン、というのは、この空間の管理を任されている、人工知能である。プリズンは黙っていたが、セファが二度目の声をあげたとき、観念して白状しはじめた。
「プリズン!」
「ええ、設定をいじったのは私です。ただしそれは、私の意志ではありません。エリス様のご意志です」
「エ、エリスが?」
「はい、あなたの今回の、囚人トガシへの態度が目に余ると、私が本部に通報しておきました。それをエリス様がじきじきにご覧になられ、ご判断をくだされました。このステージ10より以降、ゲームの難易度を最高に上げること。それがセファ様への、エリス様からへの罰、反論は認めない、とのことです」
「くっ……、あと少しだったのに……。エリスのやつ……」
セファは握りこぶしで机をドンと叩いた。
そんなセファとプリズンのやり取りを、幻想世界の別空間に設置された端末室で眺めるニーアとターラ。ニーアがひとり言のようにつぶやいた。
「エリスって……、エリス社長のこと?」
「そうよ。この日本にコンビニ妖精派遣会社を創立した、敏腕女社長、元ドイツ人のエリス・ハーデン社長。彼女はセファと旧知の友人だそうよ。そんなエリス社長から罰をもらうなんて、やはりやり過ぎだったようね、あの娘」
ターラは、おほほと笑った。悔しがるセファの表情を見て、ニーアは複雑な気持ちになった。
(わ、私がセファに罰を与えるはずだったのに……、余計なことを……。で、でも、セファはこのステージ10を終えたら、卒業試験を申請しようとしているみたいだから、邪魔されるとしてもあと少しね。そのあと私が、私からの罰をセファに……)
鼻息を荒くするニーアであったが、彼女は知らなかった。富樫にとっての真の地獄の蓋が、ステージ10において今まさに開こうとしているのを……。
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