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第一章・ハイテク・プリズン『電子レンジ地獄』
第十三話・STAGE3・クリア
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ステージ3における、「クレーマー3人の怒りをしずめよ!」、というお題の3人目のクレーマーである拳銃野郎が、商品は何も取らずにレジカウンターにゆっくりと近づいてくる。富樫はすっとしゃがみ、周囲を見回した。
「あった」
富樫が探していたのは、非常用の通報ボタンだった。カウンターの裏に、赤いボタンと黄色いボタンを発見し、立ち上がろうとした時、さらに棚の下の方に置かれた巨大な赤いボタンを目にした。その富樫の様子を見てセファが言った。
「さすがねトガシ。あの拳銃を持った男はクレーマーじゃなくて強盗。通報ボタンの確認は重要ね」
「ボタン多すぎだろ。どれだ通報ボタンは」
「カウンター裏の2つのボタンは、どちらも警備会社への通報用。棚の下にある大きなボタンは、警報ベルと警報ランプのスイッチだよ。緊急での通報は、上の赤い方のボタンがいいわね」
「わかった! ありがとう」
立ち上がるとちょうど拳銃野郎が、銃を持った右手を上げる所だった。顔には巨大な白いマスクとサングラス、手には白い軍手をしている。どう見ても強盗という姿だ。
「よお、にいちゃん、金出しな。そのレジの中のお金と、釣り銭用の小銭を、全部だ」
富樫は冷静に赤い通報ボタンを押した後、素早く男とレジと、レジカウンターから出るためのスイングドアの位置関係を確認した。レジは富樫の右手にあり、男は今カウンターを挟んだ富樫の正面にいる。スイングドアは、富樫の左に2メートルほど離れた所にあった。
(駄目だ。あの扉から出ての不意打ちは無理だな。となると、このカウンターごしのジャンピング・エルボー……。無理だ俺のジャンプ力では。どうする? 考えろ俺!)
ここで初めて、富樫の2番目の異常能力が発揮された。その異常能力とは、異常事態における驚異的な分析力・計算能力である。すう、と息を吸うと、富樫の身体は緊張状態に入り、その身体能力が若干向上するとともに、脳が異常なほどの高速回転を始めるのである。瞬間、富樫の頭には正解のビジョンが映し出された。
(そうだ! これでいこう!)
富樫の血圧が急激に上がり、その瞳孔が異様に開いたことにセファが気づいた。富樫が何かしようとしている。危険な事なら止めなきゃ、と思うものの、富樫が何をしようとしているのか、予想がつかなかった。セファには「トガシ……」、とつぶやくことしか出来なかった。
「わ、わかりました……」
そう富樫は言い、レジの中のお金を集め始めた。その手は恐怖のためか、滑稽なほどに震えている。
「おい、早くしろ」
集めた金を、震える手でレジカウンターに運ぶ富樫。その際、何枚かの硬貨がぽろぽろと落ちて、金属音を響かせた。
「お、おい、落とすな! いや、拾わなくていいからさっさとよこせ!」
「す、すみませ……、あ!」
富樫の上着の裾が、レジのキャッシュドロワーに引っかかり、富樫はよろけた。手にしていた札束と硬貨は、レジカウンターの上に放り出され、すべって拳銃野郎の足元にぶちまけられた。
「お、お前! ちくしょう!」
「すみません、すみません!」
札束を拾い始める拳銃野郎を見て、富樫の唇がにやりと歪んだ。
アドレナリンの作用で能力の高まった身体で、富樫は一瞬にしてカウンターの上に飛び乗り、拳銃野郎めがけてダイブした。振り下ろした富樫の右エルボーは、頭上の異様な気配に顔を上げた拳銃野郎の頬骨にクリーンヒットした。人間ひとりの落下エネルギーが顔面に集中するだけでも、そのダメージは相当なものだが、加えて富樫の「七色のエルボー」の破壊力が加わったのだから、たまったものではない。富樫の肘は、男の頬骨を粉々に砕いて顔面を陥没させた。同時に男は脳震盪起こしたため、その場に倒れ込み、動かなくなった。
「加減できなくて悪いな、今のは俺の心の師匠の技、エルボー・スイシーダだ!」
アドレナリン分泌により加速されていた、富樫の身体と脳が通常状態に戻った。ちょうどそこへ警察官二人がやってきて、富樫に告げた。
「犯人逮捕にご協力ありがとうございます。ステージ3クリアです!」
店内に金色の紙吹雪が舞い、ファンファーレが鳴った。富樫の視界が暗転し、白く巨大な文字が表示された。
『STAGE3 CLEAR! セミダブルベッドを手に入れた!』
「はあ? ベッド? しかもセミダブル?」
白い文字が消え、視界が再び暗くなる。次の瞬間、富樫はセミダブルベッドに横になっている自分に気づいた。上半身を起こして見ると、布団やシーツ、枕など一式がそろっていた。
「お、なかなかの寝心地……、ってなんでベッドだよ、しかもセミダブルだよ!」
「トガシがお疲れのようだから、ゆっくり休んでもらおうと思ってね、えへへ。セミダブルなのはあたしも横に寝るからだよ。ほら、あたし用の枕もあるよ」
セファは5センチほどの、小さな小さな枕を富樫に見せた。
「お、お前のスペースなんてあんまりいらないだろ! で、今回は食べ物の報酬は無し、か。ポテチくらいは食いたかったけどな。ま、別にいいけど。それより……」
「ん?」
富樫は右手を頭にあてながら、ゆっくりと横になった。
「さっきの戦闘で疲れた。ちょっと寝かせてくれ。ベッド助かった……」
「うん、おやすみ」
セファはセミダブルベッドの隅にちょこんと座り、枕を置いて横になった。そう言えば、さっきの富樫の瞳孔の変化はなんだったんだろう、なんにしても、あのエルボーによる攻撃は諸刃の剣、今後のゲームの進行で、トガシがいい使い方をしてくれるといいんだけど、とセファは思った。
「あった」
富樫が探していたのは、非常用の通報ボタンだった。カウンターの裏に、赤いボタンと黄色いボタンを発見し、立ち上がろうとした時、さらに棚の下の方に置かれた巨大な赤いボタンを目にした。その富樫の様子を見てセファが言った。
「さすがねトガシ。あの拳銃を持った男はクレーマーじゃなくて強盗。通報ボタンの確認は重要ね」
「ボタン多すぎだろ。どれだ通報ボタンは」
「カウンター裏の2つのボタンは、どちらも警備会社への通報用。棚の下にある大きなボタンは、警報ベルと警報ランプのスイッチだよ。緊急での通報は、上の赤い方のボタンがいいわね」
「わかった! ありがとう」
立ち上がるとちょうど拳銃野郎が、銃を持った右手を上げる所だった。顔には巨大な白いマスクとサングラス、手には白い軍手をしている。どう見ても強盗という姿だ。
「よお、にいちゃん、金出しな。そのレジの中のお金と、釣り銭用の小銭を、全部だ」
富樫は冷静に赤い通報ボタンを押した後、素早く男とレジと、レジカウンターから出るためのスイングドアの位置関係を確認した。レジは富樫の右手にあり、男は今カウンターを挟んだ富樫の正面にいる。スイングドアは、富樫の左に2メートルほど離れた所にあった。
(駄目だ。あの扉から出ての不意打ちは無理だな。となると、このカウンターごしのジャンピング・エルボー……。無理だ俺のジャンプ力では。どうする? 考えろ俺!)
ここで初めて、富樫の2番目の異常能力が発揮された。その異常能力とは、異常事態における驚異的な分析力・計算能力である。すう、と息を吸うと、富樫の身体は緊張状態に入り、その身体能力が若干向上するとともに、脳が異常なほどの高速回転を始めるのである。瞬間、富樫の頭には正解のビジョンが映し出された。
(そうだ! これでいこう!)
富樫の血圧が急激に上がり、その瞳孔が異様に開いたことにセファが気づいた。富樫が何かしようとしている。危険な事なら止めなきゃ、と思うものの、富樫が何をしようとしているのか、予想がつかなかった。セファには「トガシ……」、とつぶやくことしか出来なかった。
「わ、わかりました……」
そう富樫は言い、レジの中のお金を集め始めた。その手は恐怖のためか、滑稽なほどに震えている。
「おい、早くしろ」
集めた金を、震える手でレジカウンターに運ぶ富樫。その際、何枚かの硬貨がぽろぽろと落ちて、金属音を響かせた。
「お、おい、落とすな! いや、拾わなくていいからさっさとよこせ!」
「す、すみませ……、あ!」
富樫の上着の裾が、レジのキャッシュドロワーに引っかかり、富樫はよろけた。手にしていた札束と硬貨は、レジカウンターの上に放り出され、すべって拳銃野郎の足元にぶちまけられた。
「お、お前! ちくしょう!」
「すみません、すみません!」
札束を拾い始める拳銃野郎を見て、富樫の唇がにやりと歪んだ。
アドレナリンの作用で能力の高まった身体で、富樫は一瞬にしてカウンターの上に飛び乗り、拳銃野郎めがけてダイブした。振り下ろした富樫の右エルボーは、頭上の異様な気配に顔を上げた拳銃野郎の頬骨にクリーンヒットした。人間ひとりの落下エネルギーが顔面に集中するだけでも、そのダメージは相当なものだが、加えて富樫の「七色のエルボー」の破壊力が加わったのだから、たまったものではない。富樫の肘は、男の頬骨を粉々に砕いて顔面を陥没させた。同時に男は脳震盪起こしたため、その場に倒れ込み、動かなくなった。
「加減できなくて悪いな、今のは俺の心の師匠の技、エルボー・スイシーダだ!」
アドレナリン分泌により加速されていた、富樫の身体と脳が通常状態に戻った。ちょうどそこへ警察官二人がやってきて、富樫に告げた。
「犯人逮捕にご協力ありがとうございます。ステージ3クリアです!」
店内に金色の紙吹雪が舞い、ファンファーレが鳴った。富樫の視界が暗転し、白く巨大な文字が表示された。
『STAGE3 CLEAR! セミダブルベッドを手に入れた!』
「はあ? ベッド? しかもセミダブル?」
白い文字が消え、視界が再び暗くなる。次の瞬間、富樫はセミダブルベッドに横になっている自分に気づいた。上半身を起こして見ると、布団やシーツ、枕など一式がそろっていた。
「お、なかなかの寝心地……、ってなんでベッドだよ、しかもセミダブルだよ!」
「トガシがお疲れのようだから、ゆっくり休んでもらおうと思ってね、えへへ。セミダブルなのはあたしも横に寝るからだよ。ほら、あたし用の枕もあるよ」
セファは5センチほどの、小さな小さな枕を富樫に見せた。
「お、お前のスペースなんてあんまりいらないだろ! で、今回は食べ物の報酬は無し、か。ポテチくらいは食いたかったけどな。ま、別にいいけど。それより……」
「ん?」
富樫は右手を頭にあてながら、ゆっくりと横になった。
「さっきの戦闘で疲れた。ちょっと寝かせてくれ。ベッド助かった……」
「うん、おやすみ」
セファはセミダブルベッドの隅にちょこんと座り、枕を置いて横になった。そう言えば、さっきの富樫の瞳孔の変化はなんだったんだろう、なんにしても、あのエルボーによる攻撃は諸刃の剣、今後のゲームの進行で、トガシがいい使い方をしてくれるといいんだけど、とセファは思った。
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