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第一章・ハイテク・プリズン『電子レンジ地獄』
第一話・コンビニ少女・あまぎ
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東京のある小さなアパートで、一人のニート(18歳・男性)が独身生活を満喫していた。彼の名は富樫秋那。中学校の頃に、なんとなーく不登校になり、やがてなんとなーくニートになった。
16歳の時に、親のすすめで一人暮らしを始めたが、ニート癖は変らず、そのまま2年が経過し、現在に至っている。
毎月10万円の小遣いの振り込みと、賃貸費光熱費の支払いをしてもらい、毎日寝て遊んで暮らしているという、いいご身分である。
ある朝彼はベッドから降りてカーテンを開け、まぶしい日光に顔をしかめてからこう言った。
「いつまでも、こんな生活してられないな……」
しかしその日も彼はいつも通り、ネットで生配信を見たり、ア〇ゾンで購入した恋愛ものコミックをだらだらと読んだりして過ごした。
ぐう、とお腹が鳴ったので、時計を見ると、そろそろお昼の12時が近い。
「よし、そろそろ行くか。いつものコンビニにな!」
黒いジャージ姿に黒いコートを着て、黒いスニーカーをはいて彼はアパートを出た。
すぐ近くの家に住むオバさん連中が、彼を見て会釈をした。だがオバさん達は知らなかった、富樫の耳が、異常に優れているということを。声を落として話すオバさん達の会話が、富樫には筒抜けであった。
「あの人の親も大変ね――」
「一日中引きこもって、外に出るのはコンビニに行くときだけ――」
「しっ、聞こえるわよ。怒ると意外と凶暴になるタイプかも――」
「聞こえても構わないわよ、あんな〇〇△×」
何もしてないだけで、なぜここまで酷い言われようをしなければならないのだ、何もしていないのに――、と、富樫はため息をついた。
信号を2つ渡った所で道路を横断し、彼はいつものコンビニに到着した。
入口で買い物かごを取り、冷たいお茶とおにぎり一つをぽいぽいと放り込み、レジへ向かった。レジにいたアルバイトの女の子が、睨むような目つきで富樫の買い物かごを受け取った。
「いらっしゃいませ、おにぎり、温めはいかがいたしますか?」
富樫は一瞬迷った――。
彼はこのバイトの女の子に、あまりいい印象がなかったのだ。制服のネームプレートを見ると、「天木」、と書かれているため、富樫はその女の子をことを、勝手に「あまちゃん」と呼んでいた――。
あまちゃんは、いつも富樫を軽蔑のこもってそうな目でにらみ、おにぎりを温めてくれるのはいいが、いつも富樫の希望を全く無視して、さわれないほどアッチッチに温めたり、逆に全く気づけないくらいにホンノリと温めたりして、よく富樫をいらだたせていたからだった。
迷った末に富樫が出した答えは――。
「お、おねがいします。気持ち程度にあっためで――」
「は、はい――」
あまちゃんはニコリともせずにおにぎりを電子レンジに入れ、温めを開始した。
気持ち程度にと言ったのに、と、富樫は嫌な予感に包まれ始めていた。温めの時間が長すぎるのだ。気のせいか? いや、気のせいじゃないこれは長すぎるだろ、と、富樫が思わず突っ込みを入れそうになった頃、ようやくあまちゃんがぱかっとレンジの扉を開け、確認のためにおにぎりにそっと手を触れた。その瞬間……。
「あちちちち!! あああちいいい!!!」
あまちゃんがレンジから飛びのき、手をぶんぶん振った。
やっぱりだ、熱かったのだ、あっためすぎだったのだ! 富樫は暗い気持ちに包まれた後、今度は怒りに震えた。さらにあまちゃんが白いレジ袋に、汚い物でも入れるかのように、指先でおにぎりをスライドさせて、ぼそっと入れた瞬間その怒りは限界を超えた。
「お、おまえなああ!!!」
指先をあまちゃんに突き付け、富樫が咆えた。
「は、はいい!」レジ袋の持ち手を両手で持ち、びびるあまちゃん。
「俺は気持ち程度に温めてって言っただろう、お前の気持ちってのはその触れないほどのアッチッチのおにぎりか!」
「ひいい、ちが、ちが……」
富樫はあまちゃんのネームプレートを見た後、続けた。
「あまきっていうのかお前。お前、前からずっとこうだよな。温め過ぎてたり、逆にさっぱり温まってなかったり。お前、こんな真昼間からコンビニでおにぎりを買うお客なんて、ニートで無職に違いないと決めつけてるだろ。それで馬鹿にしてるんだろう。いや、馬鹿にしてるに決まってるよその目! 俺を汚いものでも見るような目で見やがってチクショウめ。ああ、そうだよ俺はニートで無職だよ大正解だよ! だがだからといってこのおにぎりの温めによる俺への嫌がらせは、コンビニの店員として、いや、人として果たして許されるものなのか、おいどうなんだ!」
「あ、あの――」
「……」
「私、あまきじゃありません、これ、あまぎって読みます――」
「そっちかああああい!!」富樫は頭をかかえて絶叫した。
その時富樫は、店の奥から、二人をちらちらと盗み見ている、店長らしき不安そうな顔の男に気づき、少し冷静になることにした。
ふう、と深呼吸をし、髪を整えたあと、キャッシュトレーに千円札を置き、あまちゃんの持つ、おにぎりの入ったコンビニ袋を要求した。あまちゃんがそれを渡し、お釣りを支払った後、富樫は静かに言った。
「あまぎとやら。俺をこんなに怒らせたコンビニ店員は、お前が初めてだ。俺の名においてお前に命ずる。二度と俺のおにぎりを温めるな。いいな?」
「そ、そんな!」
「お前、俺に口ごたえをする気か!」
――ゴゴゴという効果音と黒いモヤモヤした背景とともに、富樫はあまちゃんを睨みつける。
あまちゃんは答えなかったが、その目の端から、一筋の涙をこぼした。富樫はその涙に一瞬たじろいだが、ふんっと鼻を鳴らして入口の方に向き、レジ袋を提げて歩き出した。
がーっという音を立てて自動ドアが開いた時、後ろから甲高い女の声がした。
「おいちょっと待て! ニート野郎!」
「はあ?」
あまちゃんが追いかけてきたのかと思い、富樫がイラッとしながら振り返ると、目の前に緑色に輝く妖精が浮かんでいて、腰に手をあてて富樫を睨みつけていた。
富樫は言った。「な、なんだお前……」
「あたしはコンビニ妖精のセファ――、って、そんなことはどうでもいいよ。富樫秋那、コンビニの治安を乱した罪により、あたしの作ったハイテク・プリズン、業務用レンジでコンビニ食材温めゲーム、クリアするまで帰れません、をプレイすることを命ずる。いいな?」
「いいな、だと? なら断る!」富樫は即答した。
「はは! お前に断る権利はないわああああ、オラオラオラオラオラアア!!」
妖精が両手を軽く上げ、パラパラ(死語)のような不思議な踊りを踊った。すると富樫の周囲に、レモン色に輝く光の帯がまとわりつき始めた。それは人を異世界に誘う、ゲートを作るためのものだ。空間がねじれ、富樫は身体が何かに引きずられるのを感じて、それに抗おうとしたが、うまくいかない。
「くっ、断る権利がないなら、聞くなああああ!!」
富樫の視界は強い光に包まれた。薄れゆく意識の中、富樫はこう思った。
(俺が一体、何をした――)
恐怖にこわばる富樫の顔を満足そうに見ながら、コンビニ妖精セファは、右手を高くあげて一際強く命じた。
「ゲーム・スタート!(転移開始!)」
16歳の時に、親のすすめで一人暮らしを始めたが、ニート癖は変らず、そのまま2年が経過し、現在に至っている。
毎月10万円の小遣いの振り込みと、賃貸費光熱費の支払いをしてもらい、毎日寝て遊んで暮らしているという、いいご身分である。
ある朝彼はベッドから降りてカーテンを開け、まぶしい日光に顔をしかめてからこう言った。
「いつまでも、こんな生活してられないな……」
しかしその日も彼はいつも通り、ネットで生配信を見たり、ア〇ゾンで購入した恋愛ものコミックをだらだらと読んだりして過ごした。
ぐう、とお腹が鳴ったので、時計を見ると、そろそろお昼の12時が近い。
「よし、そろそろ行くか。いつものコンビニにな!」
黒いジャージ姿に黒いコートを着て、黒いスニーカーをはいて彼はアパートを出た。
すぐ近くの家に住むオバさん連中が、彼を見て会釈をした。だがオバさん達は知らなかった、富樫の耳が、異常に優れているということを。声を落として話すオバさん達の会話が、富樫には筒抜けであった。
「あの人の親も大変ね――」
「一日中引きこもって、外に出るのはコンビニに行くときだけ――」
「しっ、聞こえるわよ。怒ると意外と凶暴になるタイプかも――」
「聞こえても構わないわよ、あんな〇〇△×」
何もしてないだけで、なぜここまで酷い言われようをしなければならないのだ、何もしていないのに――、と、富樫はため息をついた。
信号を2つ渡った所で道路を横断し、彼はいつものコンビニに到着した。
入口で買い物かごを取り、冷たいお茶とおにぎり一つをぽいぽいと放り込み、レジへ向かった。レジにいたアルバイトの女の子が、睨むような目つきで富樫の買い物かごを受け取った。
「いらっしゃいませ、おにぎり、温めはいかがいたしますか?」
富樫は一瞬迷った――。
彼はこのバイトの女の子に、あまりいい印象がなかったのだ。制服のネームプレートを見ると、「天木」、と書かれているため、富樫はその女の子をことを、勝手に「あまちゃん」と呼んでいた――。
あまちゃんは、いつも富樫を軽蔑のこもってそうな目でにらみ、おにぎりを温めてくれるのはいいが、いつも富樫の希望を全く無視して、さわれないほどアッチッチに温めたり、逆に全く気づけないくらいにホンノリと温めたりして、よく富樫をいらだたせていたからだった。
迷った末に富樫が出した答えは――。
「お、おねがいします。気持ち程度にあっためで――」
「は、はい――」
あまちゃんはニコリともせずにおにぎりを電子レンジに入れ、温めを開始した。
気持ち程度にと言ったのに、と、富樫は嫌な予感に包まれ始めていた。温めの時間が長すぎるのだ。気のせいか? いや、気のせいじゃないこれは長すぎるだろ、と、富樫が思わず突っ込みを入れそうになった頃、ようやくあまちゃんがぱかっとレンジの扉を開け、確認のためにおにぎりにそっと手を触れた。その瞬間……。
「あちちちち!! あああちいいい!!!」
あまちゃんがレンジから飛びのき、手をぶんぶん振った。
やっぱりだ、熱かったのだ、あっためすぎだったのだ! 富樫は暗い気持ちに包まれた後、今度は怒りに震えた。さらにあまちゃんが白いレジ袋に、汚い物でも入れるかのように、指先でおにぎりをスライドさせて、ぼそっと入れた瞬間その怒りは限界を超えた。
「お、おまえなああ!!!」
指先をあまちゃんに突き付け、富樫が咆えた。
「は、はいい!」レジ袋の持ち手を両手で持ち、びびるあまちゃん。
「俺は気持ち程度に温めてって言っただろう、お前の気持ちってのはその触れないほどのアッチッチのおにぎりか!」
「ひいい、ちが、ちが……」
富樫はあまちゃんのネームプレートを見た後、続けた。
「あまきっていうのかお前。お前、前からずっとこうだよな。温め過ぎてたり、逆にさっぱり温まってなかったり。お前、こんな真昼間からコンビニでおにぎりを買うお客なんて、ニートで無職に違いないと決めつけてるだろ。それで馬鹿にしてるんだろう。いや、馬鹿にしてるに決まってるよその目! 俺を汚いものでも見るような目で見やがってチクショウめ。ああ、そうだよ俺はニートで無職だよ大正解だよ! だがだからといってこのおにぎりの温めによる俺への嫌がらせは、コンビニの店員として、いや、人として果たして許されるものなのか、おいどうなんだ!」
「あ、あの――」
「……」
「私、あまきじゃありません、これ、あまぎって読みます――」
「そっちかああああい!!」富樫は頭をかかえて絶叫した。
その時富樫は、店の奥から、二人をちらちらと盗み見ている、店長らしき不安そうな顔の男に気づき、少し冷静になることにした。
ふう、と深呼吸をし、髪を整えたあと、キャッシュトレーに千円札を置き、あまちゃんの持つ、おにぎりの入ったコンビニ袋を要求した。あまちゃんがそれを渡し、お釣りを支払った後、富樫は静かに言った。
「あまぎとやら。俺をこんなに怒らせたコンビニ店員は、お前が初めてだ。俺の名においてお前に命ずる。二度と俺のおにぎりを温めるな。いいな?」
「そ、そんな!」
「お前、俺に口ごたえをする気か!」
――ゴゴゴという効果音と黒いモヤモヤした背景とともに、富樫はあまちゃんを睨みつける。
あまちゃんは答えなかったが、その目の端から、一筋の涙をこぼした。富樫はその涙に一瞬たじろいだが、ふんっと鼻を鳴らして入口の方に向き、レジ袋を提げて歩き出した。
がーっという音を立てて自動ドアが開いた時、後ろから甲高い女の声がした。
「おいちょっと待て! ニート野郎!」
「はあ?」
あまちゃんが追いかけてきたのかと思い、富樫がイラッとしながら振り返ると、目の前に緑色に輝く妖精が浮かんでいて、腰に手をあてて富樫を睨みつけていた。
富樫は言った。「な、なんだお前……」
「あたしはコンビニ妖精のセファ――、って、そんなことはどうでもいいよ。富樫秋那、コンビニの治安を乱した罪により、あたしの作ったハイテク・プリズン、業務用レンジでコンビニ食材温めゲーム、クリアするまで帰れません、をプレイすることを命ずる。いいな?」
「いいな、だと? なら断る!」富樫は即答した。
「はは! お前に断る権利はないわああああ、オラオラオラオラオラアア!!」
妖精が両手を軽く上げ、パラパラ(死語)のような不思議な踊りを踊った。すると富樫の周囲に、レモン色に輝く光の帯がまとわりつき始めた。それは人を異世界に誘う、ゲートを作るためのものだ。空間がねじれ、富樫は身体が何かに引きずられるのを感じて、それに抗おうとしたが、うまくいかない。
「くっ、断る権利がないなら、聞くなああああ!!」
富樫の視界は強い光に包まれた。薄れゆく意識の中、富樫はこう思った。
(俺が一体、何をした――)
恐怖にこわばる富樫の顔を満足そうに見ながら、コンビニ妖精セファは、右手を高くあげて一際強く命じた。
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