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第3章 神と悪魔、そして正義
閑話休題6
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前回、閑話休題5はクリストフの目線で物語を運んでおりました。
しかし、クリストフは今現在、キキリアと一体化しているので、これ以降クリストフ視点の話を行う際に、キキリア視点が入ることがあります。
具体的にはキキリアがクリストフを装って発言する際はクリストフ。装わない場合はキキリア。そういう分け方をさせていただきます。
わかりづらい部分があるかもしれませんが、ご了承ください。
____________________________________________________
フロスト王国の重要人物、クリストフ・シュタインがヴァール神聖国から訪れたというキキリアに乗っ取られる。
そんな緊急事態に気付いている人間は、ただの一人もいなかった。
彼を乗っ取ったキキリアは、クリストフの記憶をのぞき込み、この国の状態を確認する。記憶を除く中、いくつかの記憶を見ることができないことに、キキリアは気づいた。
「うーん?彼、なかなかの男だね。明らかに私が関与できない記憶がある。精神力とやらが高いのかな?乗っ取られてもなお、私に抗えるとは…全くいい体を手に入れられたものだよ。さて、彼の頑張りに免じてそこの記憶は見ないでおこう。まぁ君が抗わなくなったら覗かせてもらうけど。」
彼がそう語っていると部屋のノックが鳴らされる。
「団長!暇ですかぁ~!?」
声の主はライラだった。もちろん、彼女は団長が乗っ取られていることは知らない。それゆえ、彼女はいつも通りの団長との戯れをしに来ていた。
「いいえ、暇ではありませんよ。いつものことならさっさと訓練に戻りなさい。」
ドアの前にいる彼女をクリストフを追い払うように言葉をかける。しかし、彼女はいつも通り団長の制止を無視して部屋に入ってくる。
「そんないつも通りのテレはいらないですよー。もっと種類増やしましょー?」
「何を言っているんですか?私の制止を振り切って入ってくるあなたが悪いんですよ?」
クリストフはため息をつきながら、仕事を続ける。
「いやさ、昨日団長に頭を使う勝負を練習しろって言われたじゃないですか?だから昨日一日使って考えてきたんですよ!なので勝負してください!」
彼女は今日こそ勝てると意気込んだ表情で、クリストフのほうを見る。
「はいはい。わかりましたよ。私が言った種ですからね。しかし私も仕事中なので口頭で指示をするので、あなたがそれどうりに駒を動かしてもらえませんか?」
しょうがないと、どこかあきらめた表情でクリストフは語る。
「別にいいですけどー、なんですか?私に花持たせるつもりですか?」
ライラはバッグから盤面を取り出しながら、不服そうにそう話す。
「君相手に手を抜くことはないよ。無論、手を抜いて負けることはありませんが、本気で来ている君に失礼ですからね。しっかりとやらせてもらうよ。」
クリストフは仕事をしながらも、にやりと笑みを浮かべた。そんな彼を傍目にライラは駒の設置を進める。
「ならいいですけどー。あ、駒の設置終わりました。じゃあ、やりますか?」
「いいでしょう。君とやるのも久しぶりですからね。楽しみですよ。」
「負けても知りませんからね!」
二人の発言の後、試合が始まった。
――三十分後。
「あぁーーーーー!!!負けたぁーーーー!!!なーんでー!あんなに練習したのにぃ!!!!」
ソファに座るライラは駄々をこねるように寝転んで、悔しがっていた。
「いい勝負でした。前にやった時よりうまくなっていて、結構苦戦しましたよ。そのせいで仕事の手が止まってしまいました。」
そう話すクリストフは優しく笑っていた。
「悔しいぃぃぃ!やっぱりあそこで、あの駒動かしたのがダメだったのかなぁ...?」
終わった後の盤面を覗きながら、ライラは真剣に考える。
「そうですね。あなたがあそこで攻めに転じずに、守りに徹していれば、展開が変わっていたのかもしれませんね。」
フフッと笑いながらクリストフは仕事を再開する。
「うぅ...でも!あと一歩だったはず!団長、私今から練習しに戻るので、次にやるのを楽しみにしていてください!」
彼女は、そう言って盤面を片付けると、走って部屋から去っていた。
「はいはい。待っていますよ。」
彼女を見送った後、それと入れ替わる形で、カルテナが部屋に入ってきた。
「お時間よろしいでしょうか。クリストフ団長?」
「ああ、大丈夫だよ。カルテナさん。まぁ、立っているのもつらいだろうからね。そこの席に座るといい。」
クリストフはカルテナに向けて、そこに座るよう案内した。それに対し彼は、「ありがとうございます。」と言って、ソファに座る。
「それで、どのような用事でここに来たのかな?」
「その前に、部屋を黒くしてもよろしいでしょうか?」
彼の普通に聞いてはよくわからない発言に、クリストフは納得したような表情になり、それを承諾するかのようにうなずいた。
「感謝いたします。それでは、『堕ちろ、これより先はそなたの身を呪う』。」
カルテナが呪文のようなものを唱えると、執務室の天井と床に魔法陣が浮かぶ。そして端から黒い泥があふれ出し、二人のいる空間を包む。
「君がこれを使うということは、いい報告ができるということだね?」
クリストフは先ほどとは違い、少し高圧的にそう話す。
「ハッ。現在この部屋の内容を盗み聞くのは不可能です。そのうえで報告させていただきます。」
彼はソファから立ち上がり、クリストフの前に跪く。そんな彼を見ながら、クリストフは「いいでしょう」といい放った。
「感謝致します。報告ですが、キキリア様の見た記憶の通り、転移者たちの大半が洗脳状態にあることを確認しました。そして、クリストフの協力者であるリュウジ・クラキ、ハナ・クロサワ、ナギサ・トウジョウの三名の無事も確認しました。」
淡々と報告するカルテナに対し、キキリアは不満げな顔をしていた。
「それで?もう一人の使徒の様子はどうだった?」
「良好です。彼自身は変わらず、自分のことをクリストフの協力者だと思っているようですね。キキリア様がクリストフとして接触すれば、彼をより有用に使えるでしょう。」
彼の報告を聞いたキキリアはにやりと笑い、ふむと言いながら考え事を始めた。
「うんうん。順調すぎて笑ってしまうね。あとほかに報告はあるかい?」
「強いて言えばですが、王国の外で何らかの魔力反応がありました。かなり微弱だったため、発見には至りませんでしたが、付近にかなり巧妙に隠された地雷のようなものがありました。」
「そうかい。その様子だと除去もできていないようだね。」
少し圧を発するキキリアにカルテナは先ほどよりも深く頭を下げた。
「申し訳ございません!周囲の地雷が多かったもので、下手に触れれば大惨事になる可能性がありました。それゆえ報告ののち、キキリア様に対策を伺おうと。」
「それも一理あるか。すまない。圧を与えたことは謝るよ。うん、その件は僕が請け負おう。君は変わらず騎士団員と共に行動しつつ、動向を探れ。」
キキリアの言葉の後、カルテナは立ち上がる。それと同時に部屋を包む泥が晴れる。そして、彼は部屋から消えた。
「さてと、めんどくさいことになりそうだねぇ。」
部屋に残されたキキリアはため息をつきながら、そうつぶやいた。
Side:ロビン
主人の命でフロスト王国付近の森まで、近づいていたロビンは疲れからか、木の陰で休んでいた。
「あぁ~、疲れたわ。遠すぎんねんってこの国。マスタァがポータル用意したはいいけど、設置するために行きは歩きで行けて...もぉ最悪やわ。」
ため息をつきながら、水筒を取り出し、水を浴びるように飲む。
―あかんなぁ。ポータルの作動確認でマスタァのところに戻るのも危険やな。ちょっとばかし距離はあるが、今使えば感知される可能性があるわ。まぁええわ。ポータルはさしっぱにして、周囲に俺以外のやつがふんだら爆破する魔力感知型の地雷でも埋めておけばええやろ。
こそこそと地雷を埋めたのち、ロビンは主の命を果たすため、王国内に侵入した。
日が出ている間は民衆に紛れながら、日が落ちた後は夜の闇に溶け込みながら。ロビンは着々と情報収集を進めていった。そして調べていく中でロビンは以下のことに気づいた。
___________________________________________________
一つ目は、この国はあとひと月もたたないうちに、魔族領への侵攻を開始するということ。
こんなにも早く戦争を起こせる理由は、二つ。転移者の利用だ。転移する際に世界の境界線を越えた彼らは、この世界の人間よりも強い魂を持っている。それゆえに、珍しい能力を保持していたり、身体能力が常人のはるか上を行っていたりする。
そしてもう一つの理由はヴァール神聖国の加勢だ。いくらフロスト王国が軍隊をそろえたとしても、身体能力が人間の上を行っている魔族相手に戦うのは厳しい。しかし、その差を埋める数。そして、魔族の強者ですら倒しうる人間が加わるとなると話は別だ。
現在フロスト王国は、この二つの力をもって魔族領を支配しようとしている。
二つ目は、この作戦を主導しているのが、自らの主小鳥遊宗太の協力者、クリストフ・シュタインだということだ。
あれほどまでに人間と魔族との平和を願った男が、この作戦を主導しているのはどこかおかしい。
___________________________________________________
「どないしようか?とりあえずはマスタァに報告したほうがええよな。明らかに異常事態や。もしクリストフが嘘をついてマスタァに接触しようとしたなら、あの地下下水道であったときに殺せばよかったはずや。それをせんかったということは、クリストフは今そうせざるを得ない状況にあるっちゅうことや。これは今すぐにマスタァに伝えんと!」
情報を得たロビンが森の中を進み、ポータルのもとへと向かおうとする。しかし、走るロビンの耳は自らの進む先にいる、男の足音を察知していた。
「よく気づきましたね。褒めてあげます。しかし残念です、あなたのような優秀な人材を今から僕の手で殺さないといけないのですから。」
木の陰から声が聞こえる。足を止めたロビンは陰から聞こえる不審な言葉に、殺気のようなものを感じ、すぐに戦闘態勢に入る。
「だれや、お前さん?今すぐその面みせてみい!」
ロビンはそう言って、声の聞こえる方の木を爆破させる。そして爆破による煙を切り裂き、声の主が現れる。その正体にロビンは絶句する。
「いきなり爆破はどうかと思うけどねぇ。君の話を聞く限り、僕は君の主の協力者なのに。」
不気味な笑みを浮かべて現れたのは、クリストフ・シュタイン。自らの主の協力者である男だった。
「君の話を聞く限り、なんて言っている時点で、お前さんは俺のマスタァの協力者じゃないわ!さっさと本当の名を名乗りやがれ!」
「アハハ!ばれてるのかぁ!そっかぁ。うん、そうだねぇ。僕の名前はキキリア。女神ヴァールに仕える、一人の騎士だよ。今は彼の体を借りているのだけどね。」
腹を抱えながら笑った後、キキリアと名乗ったそれはダランと剣の切っ先をロビンに向けた。
「そうかよ。なら、死ねや。《起きろロボ。喰らい尽くせ。ウォルフ。》」
胸元から取り出された一丁の銃が光だし、銀狼の装飾が施された二丁の銃になった。そして、それをためらわず、何十発も撃ち出す。キキリアは弾丸を剣で弾き返そうとするが、当たった瞬間に爆発。それに驚くがままにキキリアはかなりの数の弾を被弾。当たった個所すべてが爆発した。
「カハッ!やはり、いい攻撃をする。しかし残念です。それだけでは、私には勝てませんよ?」
そう言って、キキリアは一歩踏み出し、ロビンとの距離を詰める。剣を振りかぶり、ロビンを切り殺そうとするが、ロビンはそれを銃で受け止める。
「ハッ。銃相手やからって距離を詰めれば勝てるわけじゃねぇぞ!顕現しろ、ロボ!」
受け止めていない方の銃が再度光り、狼の形になる。そして、がら空きの腹にタックルを決める。吹き飛ばされたキキリアをよそにロビンは指を鳴らす。その瞬間、キキリアの倒れる地面が爆破した。宙に浮かぶ彼にロビンは容赦なく、銃を放つ。キキリアは爆破により地面にたたきつけられる。彼が立ち上がろうとした瞬間、ロビンはもう一度指を鳴らす。それにより、彼の立つ地面が爆破する。そんなハメ技をロビンは彼が動かなくなるまで続けた。
「終わりかいな?ほな、さいなら。まぁ強かったで、お前さん。」
そう言って、ロビンはポータルのもとへ歩き出そうとする。
「いいえ、終わりなのはあなたのほうですよ?〈正義の神の天秤〉」
キキリアがボソッとつぶやく。そしてそれを聞いたロビンが振り返り、とどめを刺そうとした瞬間。ロビンの体に、キキリアと全く同じ傷が刻まれた。
「な...!?なんや?これぇ。」
いきなり膨大なダメージを与えられ、意識が飛びそうになりながらも、ロビンは気絶しないために力を振り絞って何とか立ち上がった。
「おやおや。素晴らしい!素晴らしいですね!初めて味わいましたよ。あんな攻撃。ボロボロになりながらもたつところも素晴らしい。しかし私はあなたを殺さないといけませんからね。〈白桜〉」
キキリアの足元から、木の根が生える。そしてその木の根から細い枝が生え始め、その先に桜の花が咲き誇る。
それをまずいものと判断したロビンは、即座に、ポータルのもとへ走り出した。
「待ってくださいよぉ。僕はあなたを殺さないと行かないのだから!」
木の根に乗りながら、ロビンのもとに進みだした。
「ポータルのもとへ行ったらすぐに、起動して乗り込む。あとは、なるようになれ!」
ポータルについたロビンは、それを起動。すぐに飛び込む。入り込んだロビンを追うように、キキリアが突っ込むもロビンの仕掛けた地雷が爆破。そこにあるポータルの杭ごと、キキリアを吹き飛ばした。
「やれやれ。そんな大胆な策をとるとはねぇ。予想外だよ。まぁいい。逃げられたところで、僕の作戦の障害にすらならない。でもまぁ、そうなったら、面白いなぁ。」
にやりと笑った、キキリアはクリストフ・シュタインとして、町に戻っていった。
____________________________________________________
次回より本編に戻ります。
長くなってすみませんでした。
しかし、クリストフは今現在、キキリアと一体化しているので、これ以降クリストフ視点の話を行う際に、キキリア視点が入ることがあります。
具体的にはキキリアがクリストフを装って発言する際はクリストフ。装わない場合はキキリア。そういう分け方をさせていただきます。
わかりづらい部分があるかもしれませんが、ご了承ください。
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フロスト王国の重要人物、クリストフ・シュタインがヴァール神聖国から訪れたというキキリアに乗っ取られる。
そんな緊急事態に気付いている人間は、ただの一人もいなかった。
彼を乗っ取ったキキリアは、クリストフの記憶をのぞき込み、この国の状態を確認する。記憶を除く中、いくつかの記憶を見ることができないことに、キキリアは気づいた。
「うーん?彼、なかなかの男だね。明らかに私が関与できない記憶がある。精神力とやらが高いのかな?乗っ取られてもなお、私に抗えるとは…全くいい体を手に入れられたものだよ。さて、彼の頑張りに免じてそこの記憶は見ないでおこう。まぁ君が抗わなくなったら覗かせてもらうけど。」
彼がそう語っていると部屋のノックが鳴らされる。
「団長!暇ですかぁ~!?」
声の主はライラだった。もちろん、彼女は団長が乗っ取られていることは知らない。それゆえ、彼女はいつも通りの団長との戯れをしに来ていた。
「いいえ、暇ではありませんよ。いつものことならさっさと訓練に戻りなさい。」
ドアの前にいる彼女をクリストフを追い払うように言葉をかける。しかし、彼女はいつも通り団長の制止を無視して部屋に入ってくる。
「そんないつも通りのテレはいらないですよー。もっと種類増やしましょー?」
「何を言っているんですか?私の制止を振り切って入ってくるあなたが悪いんですよ?」
クリストフはため息をつきながら、仕事を続ける。
「いやさ、昨日団長に頭を使う勝負を練習しろって言われたじゃないですか?だから昨日一日使って考えてきたんですよ!なので勝負してください!」
彼女は今日こそ勝てると意気込んだ表情で、クリストフのほうを見る。
「はいはい。わかりましたよ。私が言った種ですからね。しかし私も仕事中なので口頭で指示をするので、あなたがそれどうりに駒を動かしてもらえませんか?」
しょうがないと、どこかあきらめた表情でクリストフは語る。
「別にいいですけどー、なんですか?私に花持たせるつもりですか?」
ライラはバッグから盤面を取り出しながら、不服そうにそう話す。
「君相手に手を抜くことはないよ。無論、手を抜いて負けることはありませんが、本気で来ている君に失礼ですからね。しっかりとやらせてもらうよ。」
クリストフは仕事をしながらも、にやりと笑みを浮かべた。そんな彼を傍目にライラは駒の設置を進める。
「ならいいですけどー。あ、駒の設置終わりました。じゃあ、やりますか?」
「いいでしょう。君とやるのも久しぶりですからね。楽しみですよ。」
「負けても知りませんからね!」
二人の発言の後、試合が始まった。
――三十分後。
「あぁーーーーー!!!負けたぁーーーー!!!なーんでー!あんなに練習したのにぃ!!!!」
ソファに座るライラは駄々をこねるように寝転んで、悔しがっていた。
「いい勝負でした。前にやった時よりうまくなっていて、結構苦戦しましたよ。そのせいで仕事の手が止まってしまいました。」
そう話すクリストフは優しく笑っていた。
「悔しいぃぃぃ!やっぱりあそこで、あの駒動かしたのがダメだったのかなぁ...?」
終わった後の盤面を覗きながら、ライラは真剣に考える。
「そうですね。あなたがあそこで攻めに転じずに、守りに徹していれば、展開が変わっていたのかもしれませんね。」
フフッと笑いながらクリストフは仕事を再開する。
「うぅ...でも!あと一歩だったはず!団長、私今から練習しに戻るので、次にやるのを楽しみにしていてください!」
彼女は、そう言って盤面を片付けると、走って部屋から去っていた。
「はいはい。待っていますよ。」
彼女を見送った後、それと入れ替わる形で、カルテナが部屋に入ってきた。
「お時間よろしいでしょうか。クリストフ団長?」
「ああ、大丈夫だよ。カルテナさん。まぁ、立っているのもつらいだろうからね。そこの席に座るといい。」
クリストフはカルテナに向けて、そこに座るよう案内した。それに対し彼は、「ありがとうございます。」と言って、ソファに座る。
「それで、どのような用事でここに来たのかな?」
「その前に、部屋を黒くしてもよろしいでしょうか?」
彼の普通に聞いてはよくわからない発言に、クリストフは納得したような表情になり、それを承諾するかのようにうなずいた。
「感謝いたします。それでは、『堕ちろ、これより先はそなたの身を呪う』。」
カルテナが呪文のようなものを唱えると、執務室の天井と床に魔法陣が浮かぶ。そして端から黒い泥があふれ出し、二人のいる空間を包む。
「君がこれを使うということは、いい報告ができるということだね?」
クリストフは先ほどとは違い、少し高圧的にそう話す。
「ハッ。現在この部屋の内容を盗み聞くのは不可能です。そのうえで報告させていただきます。」
彼はソファから立ち上がり、クリストフの前に跪く。そんな彼を見ながら、クリストフは「いいでしょう」といい放った。
「感謝致します。報告ですが、キキリア様の見た記憶の通り、転移者たちの大半が洗脳状態にあることを確認しました。そして、クリストフの協力者であるリュウジ・クラキ、ハナ・クロサワ、ナギサ・トウジョウの三名の無事も確認しました。」
淡々と報告するカルテナに対し、キキリアは不満げな顔をしていた。
「それで?もう一人の使徒の様子はどうだった?」
「良好です。彼自身は変わらず、自分のことをクリストフの協力者だと思っているようですね。キキリア様がクリストフとして接触すれば、彼をより有用に使えるでしょう。」
彼の報告を聞いたキキリアはにやりと笑い、ふむと言いながら考え事を始めた。
「うんうん。順調すぎて笑ってしまうね。あとほかに報告はあるかい?」
「強いて言えばですが、王国の外で何らかの魔力反応がありました。かなり微弱だったため、発見には至りませんでしたが、付近にかなり巧妙に隠された地雷のようなものがありました。」
「そうかい。その様子だと除去もできていないようだね。」
少し圧を発するキキリアにカルテナは先ほどよりも深く頭を下げた。
「申し訳ございません!周囲の地雷が多かったもので、下手に触れれば大惨事になる可能性がありました。それゆえ報告ののち、キキリア様に対策を伺おうと。」
「それも一理あるか。すまない。圧を与えたことは謝るよ。うん、その件は僕が請け負おう。君は変わらず騎士団員と共に行動しつつ、動向を探れ。」
キキリアの言葉の後、カルテナは立ち上がる。それと同時に部屋を包む泥が晴れる。そして、彼は部屋から消えた。
「さてと、めんどくさいことになりそうだねぇ。」
部屋に残されたキキリアはため息をつきながら、そうつぶやいた。
Side:ロビン
主人の命でフロスト王国付近の森まで、近づいていたロビンは疲れからか、木の陰で休んでいた。
「あぁ~、疲れたわ。遠すぎんねんってこの国。マスタァがポータル用意したはいいけど、設置するために行きは歩きで行けて...もぉ最悪やわ。」
ため息をつきながら、水筒を取り出し、水を浴びるように飲む。
―あかんなぁ。ポータルの作動確認でマスタァのところに戻るのも危険やな。ちょっとばかし距離はあるが、今使えば感知される可能性があるわ。まぁええわ。ポータルはさしっぱにして、周囲に俺以外のやつがふんだら爆破する魔力感知型の地雷でも埋めておけばええやろ。
こそこそと地雷を埋めたのち、ロビンは主の命を果たすため、王国内に侵入した。
日が出ている間は民衆に紛れながら、日が落ちた後は夜の闇に溶け込みながら。ロビンは着々と情報収集を進めていった。そして調べていく中でロビンは以下のことに気づいた。
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一つ目は、この国はあとひと月もたたないうちに、魔族領への侵攻を開始するということ。
こんなにも早く戦争を起こせる理由は、二つ。転移者の利用だ。転移する際に世界の境界線を越えた彼らは、この世界の人間よりも強い魂を持っている。それゆえに、珍しい能力を保持していたり、身体能力が常人のはるか上を行っていたりする。
そしてもう一つの理由はヴァール神聖国の加勢だ。いくらフロスト王国が軍隊をそろえたとしても、身体能力が人間の上を行っている魔族相手に戦うのは厳しい。しかし、その差を埋める数。そして、魔族の強者ですら倒しうる人間が加わるとなると話は別だ。
現在フロスト王国は、この二つの力をもって魔族領を支配しようとしている。
二つ目は、この作戦を主導しているのが、自らの主小鳥遊宗太の協力者、クリストフ・シュタインだということだ。
あれほどまでに人間と魔族との平和を願った男が、この作戦を主導しているのはどこかおかしい。
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「どないしようか?とりあえずはマスタァに報告したほうがええよな。明らかに異常事態や。もしクリストフが嘘をついてマスタァに接触しようとしたなら、あの地下下水道であったときに殺せばよかったはずや。それをせんかったということは、クリストフは今そうせざるを得ない状況にあるっちゅうことや。これは今すぐにマスタァに伝えんと!」
情報を得たロビンが森の中を進み、ポータルのもとへと向かおうとする。しかし、走るロビンの耳は自らの進む先にいる、男の足音を察知していた。
「よく気づきましたね。褒めてあげます。しかし残念です、あなたのような優秀な人材を今から僕の手で殺さないといけないのですから。」
木の陰から声が聞こえる。足を止めたロビンは陰から聞こえる不審な言葉に、殺気のようなものを感じ、すぐに戦闘態勢に入る。
「だれや、お前さん?今すぐその面みせてみい!」
ロビンはそう言って、声の聞こえる方の木を爆破させる。そして爆破による煙を切り裂き、声の主が現れる。その正体にロビンは絶句する。
「いきなり爆破はどうかと思うけどねぇ。君の話を聞く限り、僕は君の主の協力者なのに。」
不気味な笑みを浮かべて現れたのは、クリストフ・シュタイン。自らの主の協力者である男だった。
「君の話を聞く限り、なんて言っている時点で、お前さんは俺のマスタァの協力者じゃないわ!さっさと本当の名を名乗りやがれ!」
「アハハ!ばれてるのかぁ!そっかぁ。うん、そうだねぇ。僕の名前はキキリア。女神ヴァールに仕える、一人の騎士だよ。今は彼の体を借りているのだけどね。」
腹を抱えながら笑った後、キキリアと名乗ったそれはダランと剣の切っ先をロビンに向けた。
「そうかよ。なら、死ねや。《起きろロボ。喰らい尽くせ。ウォルフ。》」
胸元から取り出された一丁の銃が光だし、銀狼の装飾が施された二丁の銃になった。そして、それをためらわず、何十発も撃ち出す。キキリアは弾丸を剣で弾き返そうとするが、当たった瞬間に爆発。それに驚くがままにキキリアはかなりの数の弾を被弾。当たった個所すべてが爆発した。
「カハッ!やはり、いい攻撃をする。しかし残念です。それだけでは、私には勝てませんよ?」
そう言って、キキリアは一歩踏み出し、ロビンとの距離を詰める。剣を振りかぶり、ロビンを切り殺そうとするが、ロビンはそれを銃で受け止める。
「ハッ。銃相手やからって距離を詰めれば勝てるわけじゃねぇぞ!顕現しろ、ロボ!」
受け止めていない方の銃が再度光り、狼の形になる。そして、がら空きの腹にタックルを決める。吹き飛ばされたキキリアをよそにロビンは指を鳴らす。その瞬間、キキリアの倒れる地面が爆破した。宙に浮かぶ彼にロビンは容赦なく、銃を放つ。キキリアは爆破により地面にたたきつけられる。彼が立ち上がろうとした瞬間、ロビンはもう一度指を鳴らす。それにより、彼の立つ地面が爆破する。そんなハメ技をロビンは彼が動かなくなるまで続けた。
「終わりかいな?ほな、さいなら。まぁ強かったで、お前さん。」
そう言って、ロビンはポータルのもとへ歩き出そうとする。
「いいえ、終わりなのはあなたのほうですよ?〈正義の神の天秤〉」
キキリアがボソッとつぶやく。そしてそれを聞いたロビンが振り返り、とどめを刺そうとした瞬間。ロビンの体に、キキリアと全く同じ傷が刻まれた。
「な...!?なんや?これぇ。」
いきなり膨大なダメージを与えられ、意識が飛びそうになりながらも、ロビンは気絶しないために力を振り絞って何とか立ち上がった。
「おやおや。素晴らしい!素晴らしいですね!初めて味わいましたよ。あんな攻撃。ボロボロになりながらもたつところも素晴らしい。しかし私はあなたを殺さないといけませんからね。〈白桜〉」
キキリアの足元から、木の根が生える。そしてその木の根から細い枝が生え始め、その先に桜の花が咲き誇る。
それをまずいものと判断したロビンは、即座に、ポータルのもとへ走り出した。
「待ってくださいよぉ。僕はあなたを殺さないと行かないのだから!」
木の根に乗りながら、ロビンのもとに進みだした。
「ポータルのもとへ行ったらすぐに、起動して乗り込む。あとは、なるようになれ!」
ポータルについたロビンは、それを起動。すぐに飛び込む。入り込んだロビンを追うように、キキリアが突っ込むもロビンの仕掛けた地雷が爆破。そこにあるポータルの杭ごと、キキリアを吹き飛ばした。
「やれやれ。そんな大胆な策をとるとはねぇ。予想外だよ。まぁいい。逃げられたところで、僕の作戦の障害にすらならない。でもまぁ、そうなったら、面白いなぁ。」
にやりと笑った、キキリアはクリストフ・シュタインとして、町に戻っていった。
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次回より本編に戻ります。
長くなってすみませんでした。
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クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
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※本作品は他サイト様でも掲載中です。
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