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第2章 正義と悪、そして忘却

閑話休題3

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side倉木龍司
クリストフ団長と接触してから数ヶ月経った。俺たちが団長から与えられた命令は2つ。『1つ、従順なフリをすること』
『2つ、団長が協力者と接触できるまで一切、団長と接触しないこと』だ。
王国側は俺たちの会話までわかる訳では無いらしいが、一応の警戒として、俺と華と渚の3人はツクヨミ様が用意してくれた夢の中の世界でのみ、コミュニケーションを取るようにしている。
ただ、焦りはある。今俺らが訓練している間にも宗ちゃんは死んでいるかもしれない。そう思うだけで手が震えて、力が抜ける。
他のクラスメイトはどうやら、洗脳が溶けていないようだが、いつも通りのみんなに見える。
まぁ、訓練のおかげで俺らはだいぶ戦えるようになった気がするし。クラスメイトも皆、最低限戦えるにはなってるだろ。いざとなったら逃げてもらうくらいはできるか…?

「リュウジ・クラキ!なにをボーッとしている!」
俺が意識を戻すと目の前に木剣が迫っていた

「あ……!ゲフッ!」
俺は木剣の直撃を食らった。痛てぇ

「全く何をしているんだ。龍司君は」
俺に木剣を当てた諜報人である草薙有翔が手を貸してきた

「すまねえ。考え事してた。助かるわ。」
そう言って俺が手を取ると草薙は勢いよく引っ張って俺の耳元でこういった

「君たち3人。今王国の奴らからかなり警戒されているよ。詳しくはその紙を見てくれ。ただ、開くのは君が部屋に帰ってからだ。」

「お前、何を……ってか、なんで……?」
そういった俺から草薙は離れた。

「ごめんね。龍司君。お互い頑張ろうな!」
草薙の笑顔からは『わかっているよな?』という圧を感じた

「お、おう。頑張ろうな」
この後、俺は自室に戻り、草薙から受け取った髪を確認した。


「なんだよ……これ?マジか…これはあいつらと確認取らねえと……!」
俺はあの二人との情報確認のため、眠りについた。もちろん、あの紙はしっかりと隠した。


side黒澤華
小鳥遊くんと別れて何ヶ月も経った…
あの人が生きているか心配で、私の心は摩耗していった。渚ちゃんも龍司くんも心配してくれるけど、私の心は『小鳥遊宗太が死んだかもしれない』ということに支配されていた。
私の体は日に日に弱っていってる気がする。ただ、彼を助けるには力が足りない…彼をこんな状況にした奴らを殺すには力が足りない…!
だから私はこの気持ちを押し殺して押し殺して、訓練に励んだ。
今日は3人での定期集会の日だけど、どうせいつもと変わらない。
そんなこと思ってはいけないのに、私の心はどんどんマイナスになっていく…

私は訓練が終わった後集会のために、早めにベッドで眠った。


side東条渚
あたしはこの何もできない数ヶ月に苛立ちを覚えていた。
龍司も華もあたしもだいぶ弱ってる。
龍司とあたしはまだ大丈夫だけど華の方はやばい。もうボロボロだ。正直予想外だよ。あの子があんなに弱るだなんて思っても見なかった。どうしよう…このままじゃ華が壊れちゃう。
けど、あたしの声届いているのかなぁ…?どうすればいいのよ……


こんな時あなたならどうするの?宗太…あたしには…わかんないよ…




今日は集会の日。ダメ元だけど華に声かけなきゃ。どうせ今日もいつもと変わらないだろうけど…



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side倉木龍司

その日の夜俺たちは夢の世界での定期集会として集まった

「今日も来てくれてありがとうな。二人とも」
俺はうなだれている華とあまり機嫌が良くないように見える渚にそういった

「うん、龍司君。1週間ぶりだね。今日の会議って何か、変わった話題あるの?いつもと変わらない報告会?」
華はいつもと同じ質問をしてきた

「今日は報告することがある。急を要する話題だと思うから、ほかに何かなければ先に言わせて欲しいんだが。」

「ないわ。」
渚は間を開けず、すぐにそう言い放った

「私もないよ。」

「ありがとな。それで内容だが結論だけ先に言わせてもらう。俺は草薙と協力すべきだと考える」
俺の発言に渚は驚きのあまり立ち上がった

「あんたマジで言ってるの!?というか洗脳が解けてるのは私らだけでしょ?それだったらあいつは洗脳されたままじゃないの?」

「確かにあいつは洗脳されたままだ。ただあいつは王族の奴らに洗脳されてるわけじゃない。クリストフ団長に洗脳されてるんだよ」

「なんでそんなことわかるの?あんた団長と接触したわけじゃないでしょ?」

「そうだ。俺は団長とは接触してはいない。ただし、この情報は草薙本人が書いて、こっそり渡してきた紙に書かれていた情報だ。」

「だからなんだっていうのよ?王族の奴らが私たちの行動を見張るためにさせたんじゃないの?」

「俺もあいつ本人が書いた紙なら信用しなかったよ。けど、後で渡すがあいつの書いた紙は団長が書いたものだった。」

「そう。それで?草薙くんを入れて何か利益があるの?」
俺らが問答していると先程まで聞いていただけだった華が話しかけてきた

「それを言い忘れてたな。まず、あいつは今ら能力的に王族の奴らと近くなることが多い。それは知っているか?」

「あの子の能力ってなんだっけ?」

「洗脳系だ。発動条件は接触。直接、間接問わないそうだ。」

「へぇ、同系統の能力だから効かなかったってこと?運が良かったんだね」
華はどうでも良さそうな声で言った

「おそらくな。それであいつは今訓練中にクラスメイトに触れて洗脳を弱めている。要は時間稼ぎをしてくれてるってことだ。
そして、この能力は俺たちがクラスメイトを連れて逃げる時に役に立つ。
あいつらの洗脳が緩和できれば逃げやすくなる。逃亡の成功確率を上げるには必要な人物だ。だから、俺は草薙と協力すべきだと思う」

「わかったわ。ただ、判断は待ってもらえる?」
渚はいつも通りの顔でそう言った

「うん。私はいいよ。宗太くんさえ助けれればいいし。」
華は虚な表情でそういった

「わかった。ただ、期限は次の集会まででいいか?」

「いいわよ。それで話はこれで終わり?」

「ああ、ありがとな。お疲れ様。また明日、訓練がんばろうな」
俺は立ち上がって2人へ向けて心からの言葉をいった

「うん。じゃあね」
華はそういって消えていった

「あたしも。じゃね」
渚も消えていった

最後に残った俺は、決意を新たにこれからの行動に向けて気合を入れた









この時の俺たちはまだ、死んだと思っていた彼が生きていることを知らなかった
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