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おじさんはチュートリアルから奇跡を起こす
第021話 動き出すモノたち(第三者視点)
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◆第三者視点
亜理紗が動画をアップした翌日。
すでに世界中の国が巫光を巡って動き始めていた。
◆ ◆ ◆
国土が広そうな国のとある執務室で軍服を着た男同士が相対していた。
鷹のように鋭い瞳を持ち、刈り上げられた短髪の男が執務机の前に立っている。一方で机に向かう司令官は不摂生と運動不足から肉をたらふく蓄えていた。
「おい、セルゲイ!! こいつをすぐに連れてこい!!」
端末に写る巫光の動画を見て司令官が叫ぶ。
司令官は是が非でも巫光が欲しかった。なぜなら、巫光がいれば、この世界の覇者になれると確信できたからだ。
巫光がいれば、覚醒者で組織した最強の軍隊を作り、どこの国でも落とせる。スキルによっては国の機密情報だって簡単に手に入れて、核の抑止力など関係なしに戦争を仕掛けることさえできる可能性があった。
「どんな手を使ってもいいんですかい?」
セルゲイは獰猛な笑みを浮かべて司令官に尋ねる。
「当たり前だ。さっさと行け!!」
「分かりやしたよ。お任せください、司令官殿」
つばをまき散らす司令官に、目をニタリと細め、さらに笑みを深めて返事をしてセルゲイは部屋を出ていった。
「あいつさえ手に入れれば……私が地球の王だ。ぐわっはっはっはっはっ」
司令官は執務椅子に深く腰掛けて頬を緩ませた。
◆ ◆ ◆
チーズの生産が盛んな国のとある部屋。
軍服を着た女性が執務机に向かい、女性騎士のような胸当てや防具を身に着けた女性が机の前に立っていた。
「ジャンヌ、今すぐ日本に向かいなさい」
上官からジャンヌに命令が下る。
「何故でしょうか?」
「日本にいるこの男を我が国にスカウトしてくるのです」
ジャンヌが理由を尋ねると、上官は資料を机の上に投げ出して、彼女の前に差し出した。彼女はそれを手に取って内容を確認する。
「この男は?」
「知らないのですか?」
ターゲットについて何も知らないジャンヌに苛立ちを隠せない上官。
「はい」
そんな上官の言葉を意に介すことなく、ジャンヌは無機質に返事をする。
「後で動画を見ておくことです。いいですか。世界はこれからこの男を中心に回り始めます。この男がいる場所が世界の中心になるのです。あなたの全てを使ってこの男を連れてきなさい。あなたの体を使ってでも。さもないと……」
「はっ。承知しました」
含みある言い方で指示を出す上官に、ジャンヌは顔色を変えず頷いた。後ろで組んでいる手がブルブルと震えているのを上官が知ることはなかった。
◆ ◆ ◆
人口が非常に多い国の繁華街の古びたとあるビルの一室。
薄暗い部屋の中で黒のチャイナ服を着て帽子をかぶり、サングラスをかけている男と、チャイナドレスを着た女が密会していた。
「メイリン、次のターゲットはこの男だ」
「この男の動画を見たけど、高くつくヨ?」
男から資料を受け取ったメイリンと呼ばれた女はニンマリと笑って問い返す。
メイリンから見ても巫光の力はかなり異常だと言わざるを得ない。そんな人間を殺そうと言うのだから、値が張るのは当然だった。
「なんだ? 世界一の殺し屋である"絶死"と謳われるお前が殺せないとでも?」
「そんなわけないネ。私の手で殺せない人間は居ないヨ。でも、それとこれとは別。きちんと仕事分の依頼料を頂かないとネ」
少しでも安く済ませようと挑発するが、メイリンは目を鋭く細めて男を睨みつける。
「はぁ……分かった分かった。今回はいつもの三倍だそう。それでどうだ?」
「うんうん。金払いが良いのは良いことネ。任せるアルヨ。その男は必ず殺してみせるネ」
諦めた様に両手を挙げて降参する男。その様子を見てメイリンは威圧するのを止めて元の笑みを貼り付けた表情に戻る。
「それじゃあ、支払い方法はいつも通り」
「あいあい。またネ」
仕事を引き受けたメイリンはその場から消えるように姿を消した。
◆ ◆ ◆
世界各国の反応は概ね四つに分かれた。
強引に従わせようとする者。懐柔・篭絡して仲間にしようとする者。危険分子として排除しようとする者。そして、静観する者たちだ。
巫光の出現によって世界は激動の時代を迎えようとしていた。
しかし、一方で世界中でオーガのような強力なモンスターの出現がちらほらと報告され始めている。
巫光を中心としたプレイヤー界隈のみならず、世界にも着実に変化が訪れていた。
亜理紗が動画をアップした翌日。
すでに世界中の国が巫光を巡って動き始めていた。
◆ ◆ ◆
国土が広そうな国のとある執務室で軍服を着た男同士が相対していた。
鷹のように鋭い瞳を持ち、刈り上げられた短髪の男が執務机の前に立っている。一方で机に向かう司令官は不摂生と運動不足から肉をたらふく蓄えていた。
「おい、セルゲイ!! こいつをすぐに連れてこい!!」
端末に写る巫光の動画を見て司令官が叫ぶ。
司令官は是が非でも巫光が欲しかった。なぜなら、巫光がいれば、この世界の覇者になれると確信できたからだ。
巫光がいれば、覚醒者で組織した最強の軍隊を作り、どこの国でも落とせる。スキルによっては国の機密情報だって簡単に手に入れて、核の抑止力など関係なしに戦争を仕掛けることさえできる可能性があった。
「どんな手を使ってもいいんですかい?」
セルゲイは獰猛な笑みを浮かべて司令官に尋ねる。
「当たり前だ。さっさと行け!!」
「分かりやしたよ。お任せください、司令官殿」
つばをまき散らす司令官に、目をニタリと細め、さらに笑みを深めて返事をしてセルゲイは部屋を出ていった。
「あいつさえ手に入れれば……私が地球の王だ。ぐわっはっはっはっはっ」
司令官は執務椅子に深く腰掛けて頬を緩ませた。
◆ ◆ ◆
チーズの生産が盛んな国のとある部屋。
軍服を着た女性が執務机に向かい、女性騎士のような胸当てや防具を身に着けた女性が机の前に立っていた。
「ジャンヌ、今すぐ日本に向かいなさい」
上官からジャンヌに命令が下る。
「何故でしょうか?」
「日本にいるこの男を我が国にスカウトしてくるのです」
ジャンヌが理由を尋ねると、上官は資料を机の上に投げ出して、彼女の前に差し出した。彼女はそれを手に取って内容を確認する。
「この男は?」
「知らないのですか?」
ターゲットについて何も知らないジャンヌに苛立ちを隠せない上官。
「はい」
そんな上官の言葉を意に介すことなく、ジャンヌは無機質に返事をする。
「後で動画を見ておくことです。いいですか。世界はこれからこの男を中心に回り始めます。この男がいる場所が世界の中心になるのです。あなたの全てを使ってこの男を連れてきなさい。あなたの体を使ってでも。さもないと……」
「はっ。承知しました」
含みある言い方で指示を出す上官に、ジャンヌは顔色を変えず頷いた。後ろで組んでいる手がブルブルと震えているのを上官が知ることはなかった。
◆ ◆ ◆
人口が非常に多い国の繁華街の古びたとあるビルの一室。
薄暗い部屋の中で黒のチャイナ服を着て帽子をかぶり、サングラスをかけている男と、チャイナドレスを着た女が密会していた。
「メイリン、次のターゲットはこの男だ」
「この男の動画を見たけど、高くつくヨ?」
男から資料を受け取ったメイリンと呼ばれた女はニンマリと笑って問い返す。
メイリンから見ても巫光の力はかなり異常だと言わざるを得ない。そんな人間を殺そうと言うのだから、値が張るのは当然だった。
「なんだ? 世界一の殺し屋である"絶死"と謳われるお前が殺せないとでも?」
「そんなわけないネ。私の手で殺せない人間は居ないヨ。でも、それとこれとは別。きちんと仕事分の依頼料を頂かないとネ」
少しでも安く済ませようと挑発するが、メイリンは目を鋭く細めて男を睨みつける。
「はぁ……分かった分かった。今回はいつもの三倍だそう。それでどうだ?」
「うんうん。金払いが良いのは良いことネ。任せるアルヨ。その男は必ず殺してみせるネ」
諦めた様に両手を挙げて降参する男。その様子を見てメイリンは威圧するのを止めて元の笑みを貼り付けた表情に戻る。
「それじゃあ、支払い方法はいつも通り」
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◆ ◆ ◆
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巫光の出現によって世界は激動の時代を迎えようとしていた。
しかし、一方で世界中でオーガのような強力なモンスターの出現がちらほらと報告され始めている。
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