上 下
12 / 50
おじさんはチュートリアルから奇跡を起こす

第012話 「た、助けて……」失敗率さんは逃げ出した

しおりを挟む
 少し休憩した後、亜理紗によるチュートリアルが再開された。

「次は装備の強化について説明するね」
「おう。頼んだ」

 亜理紗が俺の前で先生ぶって説明を始める。

「まずはメニューウィンドウを表示して装備強化の項目を選んでみて」
「了解」

 メニューウィンドウは念じるだけで浮かび上がる。俺はその中から装備強化の項目をタッチした。

 メニューが消え、左側にアイテムボックスのウィンドウ、右側に装備強化のウィンドウが表示された。

「可視化」

 亜理紗が呟くと、彼女のウィンドウが俺に見えるようになる。

「それじゃあ、私と同じようにアイテムボックスの中から強化したい装備を、強化のウィンドウにある、強化したい装備の枠に持ってきて」
「分かった」

 俺は彼女の言われた通りに、初期装備の木の棒をアイテムボックスからドラック&ドロップした。

「次に、この装備強化石ってやつを強化ウィンドウの右側の強化石の欄に置く」
「ふむふむ」

 次も彼女の指示に従い、強化石を移動させる。

「そしたら、最後に強化ウィンドウの強化ボタンを押す」
「強化ボタンを押す」

 俺は亜理紗の言葉をオウム返しに唱えてボタンをクリックした。

「そしたら、強化ウィンドウの下にあるステータスバーが右端まで行くのを待つ」

 ――ポンッ
 ――ポンッ

 亜理紗の言う通り、バーが満タンになるまで待つと俺と亜理紗の武器が画面から飛び出してくる。

"木の棒+1"

 装備は若干名前が変わっていた。

「はい、これで完成。強化に成功すると、こうして小さな破裂音を出して装備が飛び出してくるから。そして、武器の名前にプラス表記が付くの。成功一回目だと+1、二回連続だと+2って具合にね。それから、失敗すると装備は跡形もなく消えるから気を付けてね」
「シビアだな」

 失敗したら装備がなくなるとかひどいもんだ。完全に博打じゃないか。

「まぁね。でも+が付くと性能が段違いに変わるから、皆少しでも+を増やそうとやっきになっているの」
「なるほどな」

 武器の性能が上がれば生き残れる確率も上がる。躍起になるのも当然か。

「強化石には、最下級強化石、下級強化石、中級強化石、上級強化石、最上級強化石と5つの種類があって、最下級が強化成功率二十%、それ以降は二十%ずつ成功率が上がるの。でも上級強化石や最上級強化石なんてめったに手に入らないから、基本的に最下級から中級で強化を行うのが普通かな」
「武器が消滅することを考えると、できるだけ高いランクの強化石を使った方がいいわけか」

 レアな武器なんかを強化する場合は、絶対上級、できれば最上級強化石を使いたいよな。

「あ、ただし、初期装備だけはなくならないで、プラスが消えるだけで済むよ」
「そうなのか。それじゃあ、少し練習してみるか」

 俺は練習がてらいくつか強化してみることにする。適当な場所に腰を掛けて強化を始めた。

 ――ポンッ

「おお、成功だ」

 二回目も問題なく成功。

 ――ポンッ
 ――ポンッ
 ――ポンッ
 ――ポンッ

 その後も成功が続いた。

「なんだ、結構簡単に成功するんだな。これならどこまでいけるか試してみるか」

 ここまで成功が続くとやっぱり気になる。

 ――ポンポンポンポンポンッ

 俺はそれから何度も武器を強化し続けた。

 ――ブブーッ

「ふむ。99が限界なのか」

 プラス表記が99に到達したところでそれ以上強化できなくなった。無くならないなら誰でもこのくらいはやってみてるだろう。

 俺は木の棒を仕舞って立ち上がる。

「……」

 すると、亜理紗がこちら見て唖然としていた。

 なんだかデジャブ感があるな。

「どうかしたか?」
「なんで+99まで強化できてるの!!」

 やっぱりこの前みたいに詰め寄られることになったか。

「いや、何でって言われてもやってみたかったからとしか……」

 俺としては気になっただけなのでそう言うしかない。

「使った強化石は最下級。つまり成功率二十%、それが九十九回連続で成功する確率は?」
「んー、ざっくり〇%?」

 ビシリと俺を指さす亜理紗に気おされながら、計算すると途中から限りなくゼロに近い数字になっていく。

「そう。そうなの。ゼロだよ、ゼロ。成功しないの。するわけないんだよ!!」
「でもほら、実際できてるし、難しくないんだよ、きっと」

 さらに詰め寄ってくる彼女にタジタジになりながら返事をする。

 亜理紗はそう言うけど、俺ができることなんだから他の人でもできるだろうに。

「簡単なわけがないでしょ!!」

 それでも引き下がらない亜理紗。

 でも、仮にできなかったとしても初期装備が+99になったくらいでそんなに騒がなくてもいいと思う。

「別にいいじゃないか。たかが初期装備の木の棒だろ?」
「はぁ……もういいよ。ツッコんだら負けだって分かったから」

 俺の返事に諦めた様に大きくため息を吐く亜理紗。

「そんなこと言われてもなぁ……」
「もうおじさんは勝手にしたらいいと思う」

 困惑する俺の前で、亜理紗がツーンと俺から顔を逸らした。
 拗ねてしまったらしい。

「そ、そうだ。もう少し奥に行ってみないか? マヒルとヨルにはこの辺りの敵じゃ弱すぎるだろ?」
「……それもそうだね。この少し奥に行けば、ケムーシーしか出ない初心者エリアを抜けて別のモンスターが出るようになる。そこで、マヒルちゃんとヨルちゃんの実力を見せてもらいましょ」

 なんとか亜理紗を宥めるため、俺は近くで戯れているマヒルとヨルに視線を向けながら話す。

 亜理紗も釣られるように二人を見る。しばらくすると、二人の様子を見て少し気分が落ち着いたのか、俺の言葉に頷いてくれた。

 助かった……。

 俺は内心ホッとしながら、亜理紗の先導の元、奥地を目指した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...