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おじさんはチュートリアルから奇跡を起こす

第002話 始まりの奇跡

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 検査を繰り返した結果、下半身不随と診断された。

 それから俺は日々を浪費した。

 亜理紗や兄貴が見舞いに来て何かを話しかけてくるが、頭に入ってこない。善意に甘え、ただただ漫然と死んでないだけの生活を送っていた。

 「ねぇねぇ、おじさん。FIOやろうよ!!」

 そんな日々が続いたある日、亜理紗がヘルメットのような物を持ってやってきた。

「これはVRゲームに使うマシンなんだけど、これを使えばおじさんも自由に体を動かせるよ!!」

 なんでもそのヘルメットを被ると、『ファンタジー・インベイション・オンライン』通称『FIO』という仮想世界に意識を入り込ませてゲームをできるらしい。

 FIOは剣と魔法がある世界を冒険していくゲームだ。仮想世界だから現実で体が不自由な人でも自由に体を動かすことができる。

 彼女の言葉はとても魅力的だった。下半身が動かない生活をしていると、普通に歩ける人たちがどうしても羨ましくなる。

 たとえそれが幻想だとしても、できることならもう一度自分の足で立ちたかった。

「……分かった」

 誘惑に抗えなかった俺は亜理紗の提案に頷く。

「ホント? やったぁ!! 色々教えてあげるから二十時に待ち合わせね!!」
「あぁ」

 彼女は善は急げと言わんばかりに、VRマシンを病室に置いて帰っていった。

「こうか?」

 二十時前にVRマシンを被り、ボタンを押してゲームをスタートさせる。

「ここは……」

  自然と瞼が落ちると、気づけば俺は真っ白な空間に立っていた。

 この空間だと手も足も自由に動く。五体満足であることがこんなにも嬉しいことだとは思わなかった。

「ようこそ、ファンタジー・インベイション・オンラインへ。あなたのお名前を教えてください」
「……俺の名前はフォルトだ」

 感動も束の間、目の前に金髪ロングヘアーの碧眼美少女が現れる。

 前髪は真横に切りそろえられ、黄金に輝く円環と、純白の翼を持っている、いかにも天使と呼ばれるようなキャラクターが俺の名前を尋ねた。

 少し悩んだ末、自分の不幸を払しょくするために、運命や幸運を意味するフォルトゥーナから文字を取って名前を決める。

「あなたにふさわしい職業を選択いたします」

 次に空中にスロットが現れてクルクルと回り出す。数十秒ほど経つとスロットが止まった。

「あなたの職業はサモナーです」

 よく分からないけど、サモナーという職業になったらしい。
 詳細は後で亜理紗に聞こう。

 ――フォンッ

「これがステータスってやつか」

 職業が決定すると同時に、ポップアップウィンドウのように俺のステータスが空中に表示される。

『チュートリアルは終了しました』
「おわっ!?」

 しかしその瞬間、天使とは別の機械的な声が脳内に響き渡り、仮想世界が激しく揺れ出した。

 ――ビーッ、ビーッ、ビーッ

『現実世界で強い揺れを確認。ゲームを強制終了いたします。終了まで十秒前』

 緊急警報とアナウンスが流れ、カウントダウンが始まる。

「フォルト様は一億人目のプレイヤーとなりました。そして、最後のプレイヤーです。特別な称号が送られます」

 しかし、眼前のキャラクターは何事も起こっていないかのように話を進めていく。

 ――ピロンッ

 目の前に半透明のウィンドウが現れて俺に『最幸』の称号が付いた、という通知が届く。

「フォルト様のこれからの人生に幸多からんことを」

 目の前の天使は俺にニッコリと微笑む。その顔はとても自然で、ゲームの中のキャラクターだとは思えなかった。

 よく分からないまま、俺の意識は遠のいていった。



「何が起こったんだ?」

 目を覚まして確認するが、病室は何も変わりはない。

 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 ただし、揺れが続いていて、その激しさは明らかに災害レベル。数分経ってようやく揺れが治まった。

 物が落ちたり、倒れたりすることはなかったのは不思議だ。

「今のは一体……いや、それよりも亜理紗が心配だから連絡してみよう」

 ――ツー、ツー、ツー

『もしもし、おじさん無事?』

 亜理紗すぐに通話に出た。
 そして、出るなり俺の心配をしてくれる。

「ああ。そっちも大丈夫そうだな」
『うん、大丈夫』

 亜理紗が無事だったみたいで俺はホッと大きく息を吐いた。

「良かった。何かおかしなことはなかったか?」
『うーん、突拍子もない話だけど、世界がゲームに飲み込まれちゃったかも』
「え?」

 余りに意味不明な言葉に俺は無意識に声を漏らす。

 ――フォンッ

「これはゲームの……」

 その時、急に俺の前に半透明のウィンドウが表示され、ゲームでアバターを作成した際のステータスが記載されていた。

『どうしたの?』

 何か言いかけて止めた俺に、亜理紗が問いかける。

「なんかステータスウィンドウが目の前に表示された」
『あ、おじさんも?』

 俺が状況を説明すると、亜理紗も同じ状況だったらしい。さっきの彼女の言葉は、この現象を見たからというわけだ。

「それにしてもどうなってるんだ、これ?」
『さっきの声が関係していると思う』

 俺が首を捻ると、亜理紗はさも当然と言わんばかりの声色で返事をする。

「あの、頭の中に響いた声か」
『そうそう。『チュートリアルは終了しました』ってやつ。あれってゲームの初心者に対する説明パートが終わったよって意味なんだよね。そして、現実世界にゲームのステータスが現れたってことは、多分ゲームが現実に侵食してきてるのかなって』
「なるほどな」

 ゲームをよくやっている亜理紗の言葉には説得力がある。

『私は友達の安否確認のついでに、ゲーム関係の話を当たってみるよ』
「分かった」

 ゲーム関係のことは亜理紗に任せ、俺は知り合いの安否確認に勤しんだ。幸い俺の知り合いで何かに巻き込まれたという人物はいなかった。

「良かった……」

 胸を撫でおろす。

「ん?」

 俺はもぞもぞと動いている内に、ふとあることに気づいた。

「か、感覚がある!?」

 それは、下半身に感覚が戻っていること。力を入れると下半身が動く。

 これならリハビリでどうにかなるかもしれない

「やってやるぞ」

 俺は必ずまた自分の足で立つことを心に決めた。
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