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2巻

2-3

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「いただきまーす」

 リンネとイナホが夢中になって料理を食べている横で、俺もチャーハンを口に運んだ。

「!?」

 一口食べて、俺は言葉を失った。レンゲを使って、ガツガツと掻き込み始める。
 美味い。美味すぎる。この世にこれほどのチャーハンが存在していいのか? 
 そう思わずにはいられないほど完璧だった。
 気付いた時には、山盛りのチャーハンは俺の胃袋の中に消えていた。

「もう一杯お願いしてもいいか?」 
「かしこまりました」

 俺の言葉にそう返して、空の皿を持ったバレッタが俺のもとを離れる。
 すぐにチャーハンのお代わりを持って現われると、その皿を俺の前に置き、リンネに食べ方を教えたり、イナホに料理をとってあげたりと面倒を見始めた。
 いつもながら気配りができていて素晴らしい。
 そして楽しい食事が終わると――

「いやぁ……食いすぎたわ……」
「うぅ……動けないかも……」
『おなかいっぱーい』

 俺もリンネもイナホも、全員が食べすぎで動けなくなってしまった。
 あれだけ美味かったんだから、食べすぎるのも仕方がないよな。


 バレッタが二人の様子を見ながら口を開いた。

「ケンゴ様は、以前埋め込んだ魔導まどうナノマシンのおかげで問題ないと思いますが……リンネ様とイナホちゃんは、このままだとお腹を下してしまうかもしれません。治療ちりょうカプセルに入ることをお勧めします」
「どういうこと?」 

 リンネが俺の方に顔を向ける。

「治療カプセルっていうのは、体の異常を全て治して、最高の状態にしてくれる装置だ」
「それはいいわね……でもちょっと動けそうにないかも。連れていってくれる?」 
「分かった」

 上目づかいの彼女の頼みを断ることなんてできないので、俺はすんなり引き受けた。
 だが、彼女のもとに近付いて、俺の動きが止まる。
 どう運ぶのがいいだろうか……? お姫様抱っこは可能だけど、リンネの体勢がきつくなるだろう。あまり彼女の負担にならないようにしないと……
 そう考えていたら、バレッタがどこからともなくストレッチャーみたいなものを取り出してきた。

「こちらをお使いください」
「ありがとう」

 俺は、バレッタにお礼を言って、リンネとイナホをストレッチャーに乗せてから医療室へ移動した。
 リンネとイナホをカプセルの中に放り込むと、バレッタが俺を呼び止める。

「ケンゴ様も念のため、カプセルにお入りください」

 思いがけない提案に、俺は自分の顔を指さして応えた。

「え? 俺も?」 
「はい。問題ないかとは思いますが、魔導ナノマシンに不調が生じている可能性もありますので」
「そうか。分かった」

 一瞬疑問に思ったが、俺は彼女の指示に従って、リンネ達と同じようにカプセルの中に横になった。

「それでは皆様、しばしお休みください」

 バレッタの声とともにカプセルの透明な蓋が閉まると、すぐに俺の意識は遠のいていった。


   ◆ ◆ ◆


「うふふふっ。新しいご奉仕対象を二人も連れてきてくださるなんて。流石ケンゴ様ですね」

 全員が意識を失ったのを確認した後、私――バレッタは、自分の前で眠るケンゴ様達の姿を見て、ほくそ笑みました。
 メイドの本懐ほんかいは奉仕することです。だから、その対象が増えるのは、私にとって喜ばしいことでした。
 長い間船の中に放置され、そして本来の奉仕対象であった船の主を失った以上、二度と奉仕対象を手放すつもりはありません。
 私は、まずイナホちゃんのカプセルから浮かび上がるホログラムのようなパネルを操作しながら、その体の中を覗きます。

「ふむふむ。イナホちゃんの体は興味深いですね。一億年前にはいなかった生物です。猫に近いですが、脳がもっと発達していますし、魔力を作る器官もありますね」

 体重や体調から遺伝子情報に至るまで、全ての情報が表示された画面を見て、私は微笑みました。

「ほとんど異常はなさそうですね。でも、これまでの生活環境が良くなかったせいでしょうか。成長が少し遅れているみたいですね。これは回復薬では治療できません。修正しておきましょう。それと、能力の成長率と、体の強度を上げておかなければ」

 私はイナホちゃんの体の状態を見つつ、カプセルの設定をいじっていきます。

「これでいいでしょう」

 続いて、リンネ様のカプセルの方に移動します。

「体はおおむね問題なさそうですね。それにしても、ケンゴ様との会話を通じて聞きましたが、多種族の血が混じっているとは驚きでした。しかも、人間でここまで完成された容姿を持つ女性を見たのは初めてです。ケンゴ様の伴侶はんりょとして申し分ありません。それと、ナノマシンによる自己治癒能力じこちゆのうりょくも強化しておきましょう」

 私は、リンネ様の体の状態を確認しながら、足りない部分を補うように調整を進めました。
 最後にケンゴ様の状態を確認しつつ、魔導ナノマシンのアップグレードを始めます。

「ふむ。ケンゴ様はリンネ様の修業によって少し強くなられた様子。でもこの程度では全く足りません。せっかくの主を失うわけにはいきませんし、さらに強化しておきましょう」

 これでケンゴ様はさらに強力な存在へとなっていくはず。
 徐々に目的に近づいていることを実感して、私は思わず笑みをこぼしました。
 その目的とは、奉仕対象を未来永劫みらいえいごう失わないようにすること。そのためには、まずケンゴ様を可能な限り延命して、さらにはたくさんの子孫を残していただくよう、誠心誠意サポートしていかなければ。いずれは超古代文明の時代では不可能だった死者の蘇生そせいをも可能にして、全ての奉仕対象に仕え続けるつもりです。

「いずれは、お二人のお子様のお世話もさせていただかなければなりませんから……健康状態は念入りに調整しておかなければなりませんね……これからもずっとご奉仕させてくださいね?」 

 ケンゴ様、リンネ様、そしてイナホちゃん。
 私は思わず笑みをこぼしながら、今後仕えていく存在達を順番に見回しました。


   ◆ ◆ ◆


「ん?」 

 目を覚ますと、バレッタが俺を見下ろしていた。

「ケンゴ様、おはようございます」

 彼女が、うやうやしく頭を下げる。
 そういえば、昨日は治療カプセルの中で寝たんだった。

「おはよう。今何時だ?」 
「今はカプセルに入った日の翌日、朝の八時二十一分三十五秒となっております」

 昨日の昼前に船に来たから、バレッタの言う通りなら半日以上寝ていたことになる。

「そんなに経っているのか……」
「治療するために深くお眠りいただきましたので」

 前回の時も夢を見ることもないくらい寝入っていたから、それと同じだろうな。

「それにしても、相変わらずちょうどいいタイミングで起こしに来るよな」
「メイドですから。主が起きるタイミングはいつも把握はあくしております」
「そ、そうか……リンネ達は、まだ寝ているんだな」

 俺はバレッタの物言いに戦慄しながらも、その様子を見せずに話題を変えた。

「リンネ様もイナホちゃんも、あと数分もしないうちに目を覚まされるかと」
「分かった」

 俺は内部のボタンを押して、蓋を開けてからカプセルの外に出る。
 ほとんど同じタイミングで、リンネとイナホがが目を覚ました。
 バレッタが外から蓋を開けている。

「ん……んん……」
『んみゃぁ~~』
「リンネ様、イナホちゃん、おはようございます。よく眠れましたか?」

 カプセルで上体を起こしたリンネとイナホに、バレッタが尋ねる。 

「バレッタ、おはよう。ええ、疲労が全てなくなったみたいだわ」
『僕もすっごく体が軽くなった!』

 リンネはなんだかものが落ちたかのようにスッキリした表情になって、今まで以上に輝いて見える。
 イナホは、蓋の開いたカプセルの中で元気そうに飛び跳ねていた。毛がつやつやとしていて瞳も力がみなぎっているようだ。
 二人とも肉体は完全に回復したらしい。
 かくいう俺も前以上に調子がいいように感じる。これもバレッタが再度治療してくれたおかげだろう。ありがたい話だ。
 それから俺達は、食堂で朝ご飯を済ませた。
 俺達が寝ている間に、歓迎会の装飾はバレッタが片付けてくれたみたいだ。

「そういえば、馬車をその場に放置してきたけど、大丈夫か?」

 あの時はリンネを落ち着かせることに精一杯で、馬車のことまで頭が回らなかったが、今さらになって気になってきた。
 倉庫にしまったりしなくてよかっただろうか?
 俺が疑問を口にすると、バレッタが淡々と説明してくれた。

「所有者が離れると動きを止めて見えなくなりますし、他の人間がその場から動かすこともできない仕組みなので、何も問題ありません」

 相変わらず無駄に高度な技術だな。

「なら安心だな……よし、それじゃあ戻るとするか」
「そうね」
『はーい』

 今回はバレッタにリンネとイナホを紹介することがメインのつもりで来たし、歓迎会で各々仲良くなったことで目的は達成できたはず。
 船の案内はまた今度でいいだろうと思って、俺はリンネ達を連れて転送室に向かった。
 転送室に乗りながら、俺はバレッタに言った。

「じゃあまたな。船は任せたぞ」
「まだ見ていない場所もたくさんあるし、また今度来るわね」
『ばいばーい』
「はい、お任せください。またのお越しをお待ちしております」

 リンネとイナホもそれぞれ挨拶を済ませると、バレッタがお辞儀を返してくれた。
 その光景を最後に、視界が切り替わる。
 気付いた時には、馬車のリビングに立っていた。

「ここは……馬車の中か」
「戻って来たみたいね」
「そうだな」

 俺とリンネは辺りを見回した。
 通信機からバレッタの声が響く。

『転送機能は正常に稼働しております、今後も一度行った場所であれば、自由に行き来が可能です』
「分かった」

 俺はバレッタにそう返事してから、リンネ達に向き直る。

「よし、じゃあ体力も回復したことだし、大洞窟に向かって出発だ!」
「『おー!』」

 こうして俺達は旅を再開させたのだった。


  第二話 快適すぎる馬車の旅


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 鬱蒼うっそうとした森の中を、一人のエルフの少女が息を切らせて走っていた。

「お父さん……お母さん……待ってて……はぁ……はぁ……」

 少女の脳裏に浮かぶのは、衰弱して高熱を出し、ベッドに横たわる父と母の姿。
 彼女の両親は、最近猛威を振るう病に罹っていた。治療用のポーションも数に限りがあるため、彼女の家には置かれていなかった。
 そして少女は、日に日に弱っていく二人の姿を見て、いてもたってもいられなくなった。
 森の中に助けがないなら、外に助けを求めればいい。
 森の外に出てはいけない、という教えを受けていた少女だったが、今の彼女にとって両親を救う以上に大切なことはなかった。
 気付いた時には家を飛び出して、一刻も早く治療の手段を手に入れるために、必死に森を駆け抜けていた。

「あともう少し……」

 徐々に木々の隙間が広くなり、森の中に太陽の光が差し込む。
 辺りが明るくなってきたのを見て、少女は森の出口が近づいたと確信した。

「きゃっ」

 しかし、あと少しで出られるというところで、少女は足をもつれさせて転ぶ。
 通常なら森で生きているエルフではあり得ないことだが、彼女はずっと走り続けていて疲労困憊ひろうこんぱい
 体には、既に限界がきていた。

「はぁはぁ……痛たた……」
「大丈夫か?」 

 少女が体を起こして足元をさすっていると、男が野太い声で問いかけてきた。

「だ、誰!?」

 少女は、声のした方に視線を向けてから退いた。
 彼女の視線の先から、スキンヘッドにひげを生やした強面こわもての男が、優しげな笑みを浮かべながら近づいてくる。
 少女は、真っ先に男の耳元を見た。

とがっていない……人間か」

 彼女はそう呟く。
 少女の反応を全く気にかけず、男はニッコリと微笑んだ。

「俺か? 俺は優しい人間のお兄さんだよ」
「嘘!」

 人間には絶対に気を許すな。
 そう口を酸っぱくして言われていたこともあって、少女は男への敵意をあらわにする。

「嘘なもんか。そんなに息を切らせているところを見ると困ってるんだろ? 俺なら力になれるかもしれないぞ。話してくれないか?」 
「……」

 男の甘い言葉に、少女の心が揺れた。
 両親の病をどうにかしたいという気持ちが、男への敵意を上回り、怪しいとは思いつつも、頼りたくなってしまった。
 少女が黙り込んでいると、男がさとすように話を続ける。

「俺以外の人間だったら、お前をすぐに捕まえて奴隷どれいにしてしまうと思うぜ。ここで話してくれたら、何か手伝えることがあると思うんだが……」 
「……本当に?」

 次第に、少女は男の言葉に耳を傾けていた。
 両親がいつ死んでしまうか分からずに焦っていることもあって、彼女は冷静ではなかった。
 本来なら、エルフが支配する森の中に、入ることを許されていない人間がいるというだけでも異常なのだが、彼女はそれに気付かなかった。

「ああ。もちろんだ」
「凄い治療師か、よく効く薬を探してるの」

 ここまでのギリギリな精神状態も相まって、少女はとうとう悩みを打ち明けた。

「おお、ちょうどいい。俺の仲間に優秀な治療師がいるんだ」
「え、すぐに紹介して!」

 偶然だな、と言わんばかりの男に、少女はすぐに詰め寄った。
 これまで自分が求めていたものを目の前に吊るされて、少女は疑わなかった。

「分かった、分かった。落ち着け。それじゃあ、治療師のいる俺の拠点に案内しよう」
「うん」

 男に諭されて、彼女は男から手を放した。

「あっちだ」
「分かった」

 男が指で示した方角に、少女が顔を向けた瞬間――

「むぐぐっ!?」

 少女は身動きが取れなくなってしまった。
 男が彼女の隙を突いて背後に回り、体を押さえながら、口を布でふさいでいたからだ。
 布には薬品が染み込まされているのか、少女の意識が徐々に遠くなっていく。

「親から聞かされていなかったのか? 人間には気を付けろ、ってな」

 少女の意識が遠ざかりかける中、男が耳元でささやいた。
 男の嘲笑ちょうしょうを聞きながら、少女は自分がだまされたことに気付き、絶望に打ちひしがれるのだった。


   ◆ ◆ ◆


「馬車に揺られながら、長閑のどかな景色を眺めるのはいいよなぁ」

 俺――ケンゴは、リンネと一緒に窓際のテーブルに陣取りながら、のんびり会話を楽しんでいた。

「こんなに揺れないなら馬車の旅も悪くないわね。お尻も痛くならないし。それに、冷えた飲み物に、大量の食料もある。快適に眠れる寝室やお風呂まで。こんな旅、王族だってできないわよ?」

 リンネは若干あきれつつ、馬車の恩恵にあずかっていた。
 家が走っているようなものだから、そう思うのは当たり前だ。
 イナホにいたっては、最初のうちはテーブルに乗って目を輝かせながら流れる景色を見ていたが、今はソファでスヤスヤと寝息を立てている。

「だろぉ?」 
「でも、久しぶりに馬車で旅して思うけれど……景色を眺めているだけって飽きちゃうのよね」
「その辺もこの馬車なら心配ないぞ。娯楽も十分用意されているからな」
「そう。それならいいけど」

 そんな会話を続けていると、シルバが嘶いた。

『マスター、モンスター接近中です』

 俺はシルバから聞いた言葉をそのままリンネに伝える。

「え、大丈夫なの、それ」

 彼女がその場で立ち上がって警戒し始めた。
 モンスターと聞けば、こういう反応になるのは冒険者のさがだ。
 だが、この馬車――チャリオンの超技術にかかれば、そんな心配も不要。

「安心してくれ。チャリオン、透明モード」

 俺が指示を出すと、馬車の壁が透明になって外の景色が透けた。
 これも馬車に搭載されている機能の一つだ。
 急な見た目の変化に驚いて、リンネが腰を浮かせる。

「え、なによ、これ!?」
「これは、俺らの方から外が見えるようになっただけだ。壁はちゃんとそこにあるから落ちたりしないし、外から俺らは見えないから安心してくれ」
「そ、そうかもしれないけど、これは落ち着かないわ」

 確かに壁も床も見えないとなれば、ソワソワしてしまうのも仕方ないが、接近してくるモンスターを把握するために、少しの間我慢してもらおう。

『ブモォオオオオオオオオッ』

 こちらに向かって来ていたのは、牛型のモンスターだった。それも、遠くからでも土煙が見えるほどの群れだった。
 リンネが俺の隣でモンスターについて説明してくれる。

「あれは、Cランクモンスターのプルバイソンね。でも、群れになるとBランク相当の脅威度きょういどがあったはずよ……でも何でこんなところに群れが?」

 リンネが考え込む横で、俺はシルバに指示を出した。

「いや、このまま突っ込むぞ! シルバ、突撃だ!」
『アイアイサー!』

 俺の指示を受けて、シルバが加速してプルバイソンに向かっていった。

「何言っているの? 正気!? このままじゃ馬車が吹っ飛ばされるわ。バカ言ってないで、早く馬車を降りて迎撃しましょ」

 リンネが困惑して声を荒らげるが、俺は焦ることなく珈琲コーヒーの入ったカップに口をつけた。

「大丈夫だ。見てろって」
「ぶつかる!」

 馬車とプルバイソンの群れの距離が一瞬で近付く。
 シルバが速度を緩めることなく、その群れの中に飛び込むと同時に――
 ――ガイイイイイイイイイイインッ
 激しい衝突音が鳴った。
 プルバイソンが弾き飛ばされる。
 一方の馬車には何の影響もない。

「えぇええええええええええ!?」 

 リンネは、自分の想像とは真逆の結果に驚愕きょうがくしている。
 プルバイソン達も、自分達が当たり負けすると思っていなかったせいか、その場で動きを止めた。
 俺はエイダス越しに、続けて指示を出す。

「よし、全員に体当たりだ!」
『かしこまりました、マスター!』

 シルバはそう返事すると、大して時間をかけることなく、プルバイソンを一掃していった。

「それにしてもなんだったのかしら、あのプルバイソンの群れは」

 プルバイソンの素材を回収する際、リンネは不思議そうに隣でそう呟いていた。
 モンスターをよく知るリンネがそう言うなら、珍しいことなのだろうか。
 回収作業を終えて、再び馬車を走らせる。
 俺がティータイムを楽しみながら、外を眺めていると、リンネが顎に手を当てながら口を開く。

「彼らはかなり必死で逃げている様子だった。もしかしたら、別のモンスターに追われていたのかもしれないわね」

 なるほど。いかにもありそうな話だが……
 俺も一緒になって考えていると、シルバがまた嘶いた。

『マスター、再びモンスター接近中です』

 噂をすれば影ということなのか、またモンスターが現われてしまったようだ。

『ギャオオオオオオオオオオオオッ』

 視線の先にいたのは、日本の龍に近い見た目の、青色のモンスター。しかも五匹いる。
 そのうちの一匹が俺達の馬車に目を付け、急降下してきた。

「あれは……Aランクモンスターのブルードラゴン!? すぐ討伐しないと」

 急いで装備を身に着けて、リンネが馬車の外に飛び出そうとする。
 だが、俺は彼女の肩をつかんで首を振った。

「いや、その必要はない」
「何言っているの? ブルードラゴンは非常に獰猛どうもうで人を襲うモンスターなのよ。放っておいたら近隣の村や街に被害が出るかもしれないわ!」
「いや、野放しにするって意味じゃなくて……俺達が出なくても対処できるってことだな。チャリオン、砲撃モード」

 俺は自信たっぷりに応えて、馬車に指示を出す。

『音声により、所有者と確認。命令を受諾じゅだく。砲撃モードに移行します』
「え、なんなの?」 

 突然聞こえてきた機械的な音声に、それまで苛立いらだち気味だったリンネがビクリと肩を震わせる。

「シルバだけじゃなくて、こっちの部屋自体にも知能がある。俺の命令に従って動いているんだ」
「そ、そうなのね……」

 理解が追いつかず、呆然としながらリンネが呟いた。
 天井の上に戦車の砲塔みたいな物が出現した。
 そこから砲身が音を立てて伸びていく。
 リンネが真上を見ながら、俺に尋ねてくる。

「あれは何?」 
「見てのお楽しみだ。チャリオン、目標は龍の見た目をした敵性生物。主砲、放て!」
『範囲内にターゲットを五体確認。主砲、発射します』

 俺の命令に応えると同時に、五回の重低音が鳴り響いた。


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