64 / 76
四章 〜聖龍と最後で最初の日々〜』
62話 『魔族大襲来』
しおりを挟む「心葉! 良かった、早く寝てくれて!」
気がつくと、とても焦った顔をして僕にしがみつく、小さなルナの姿があった。
ご飯や風呂も済ませたあと、僕はすぐに寝てしまったのだ。お風呂に入ったら気持ちよくて寝てしまう始末。そのまま逆上せて風呂から出て、ベッドにドーン。五分と経たないうちに眠りについた。
それはそうと、何でルナがここに? 会うのは五日後って言ってたような。それに珍しく焦ってる?
「そんなに慌ててどうしたの?」
「何も言わずにぼくの言うことをよく聞いて」
慌てていた顔が一瞬にして真剣な顔に変わる。
「今『フレイジア』は魔族の集団に奇襲されてるんだ」
「なんだって⁉︎ 魔族?」
彼女の言葉に耳を疑うが、本当の話しだってことはその表情で分かる。
「魔族の数は悪魔族が九十五に魔神族が五の計100体。ぼくの結界も破壊されて、フレイジア軍と魔族の戦いがずっと続いてる。こっちでも出来る限りの事はやってるけど、もってあと三日だと思うんだ。だからさ、心葉、君に『フレイジア』に今すぐ来て欲しい。君のその魔力なら、魔族たちもなんとかなるかもしれない。お願い! すぐに『フレイジア』に来て!」
まさか魔族が群をなして襲ってくるなんて。思いもしなかった事態に驚きを隠せない。
それにこの一件には僕にも非がある筈だ。僕があの時魔族を倒したから、その仕返しに『フレイジア』が……。
「君のせいでこうなってるなんて事はないよ」
ルナは僕の心中を見透かしているかのようにそう言った。
「いづれ起こる事だったんだ。聖龍様のお告げ通りなんだよ」
「聖龍? 聖域に住んでいるっていう伝説の?」
「伝説じゃないんだ。ぼくは聖龍と知り合いなんだよ。ううん、僕の師匠が聖龍フィルア様なんだ」
「ルナの師匠⁉︎」
「そう。ぼくの師匠だよ。その聖龍様が近い将来に起こるって言ってたんだ。今がその時だとは思いもしなかったけど」
どんどん彼女の声のトーンが落ちていく。顔もずっと暗いままだった。このまま三日が経てば、自分が死ぬ。そうしっかりと感じているのだろう。
僕は、そんな彼女を助けたいと心から思った。もともとルナあっての僕のこの力だし。ルナには感謝している。
「僕が行けばその戦いに少しでも希望が持てるんだよね?」
「もちろん! 君は知らないかもしれないけど、君は魔力だけで言えば最高クラスなんだ。ぼくなんて足元にも及ばないよ。君がいれば間違いなく勝てる!」
なんとなしか明るくなった彼女はそう言い切る。
そんな彼女のために、最大限に頑張ろと思う。
「ルナ、転移魔法ってある?」
「もちろんあるよ。『ゲート』や『ワープ』がそう呼ばれてる。行き先や対象の魔力を捉えたり、思い浮かべながら唱えるとそこへ行ける魔法なんだ」
「分かった。目が覚めたらすぐにでもそっちに向かう」
「頼んだよ、心葉! ぼくも戦わなくちゃ!」
「頑張って! 『パニッシュ』!」
彼女にそう告げ、僕は呪文を唱えた。それが一番早く目覚められる方法だ。
すぐに気を失って、目が覚めた時には天井が見える。僕は飛び起きると、両腕につかまっている二人を起こし、事情を説明する。
「分かった、そこに今からみんなで行くんだね!」
「みんなじゃないよ。僕が一人で行く」
「そんなの絶対に許さない!」
「ダメなのです! コノハ一人を危険に晒すなんて」
「頼むから言うことを聞いてくれ! 君たちが行ってもどうしようもないんだって。魔族を相手に戦えないでしょ!」
「……ダメ、絶対にダメ! 心葉は私と、私たちとずっと一緒にいるって言ってくれたもん! 心葉が行くなら私も行く! それで危険な目に遭うのなら構わない!」
「わたしも行くのです! わたしとコノハはパートナーなのですよ? どんなに危険な事があっても、魔族と戦えなくても、出来る事がきっとあります! それに、コノハの友達が大変な目に遭っているのです。黙って見てはいられないのです!」
二人のその勢いに、僕は何も言い返せなかった。もう何を言っても聞かないだろう。
だから、僕は一言だけ言った。
「……絶対に魔族と戦わないと約束して」
「うん!」
「分かったのです!」
「……今すぐに準備するぞ。この間にもルナたちは戦ってるんだ!」
僕もリッタもゆぅも急いで支度をする。荷物は最低限、武器を背負って魔法服を着る。二人も着替えて自らの武器のみを持って戻ってきた。
準備は完了だ。
「行くよ! 『ワープ』」
足元に展開された魔法陣がクルクルと回転し、黄色く輝く光に包まれる。夜明けの見えていた窓が映る視界も、だんだんと光に遮られ、やがて全て光に包まれてしまった。
高速回転する光が少しずつその速度を落とし、まばらになってくると、急にいろいろな音が聞こえてくる。爆音であったり悲鳴であったり、戦争を感じさせる音だ。
間違いなく、ここは『フレイジア』だ!
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~
クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。
ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。
下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。
幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない!
「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」
「兵士の武器の質を向上させる!」
「まだ勝てません!」
「ならば兵士に薬物投与するしか」
「いけません! 他の案を!」
くっ、貴族には制約が多すぎる!
貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ!
「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」
「勝てば正義。死ななきゃ安い」
これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる