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四章 〜聖龍と最後で最初の日々〜』

62話 『魔族大襲来』

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「心葉! 良かった、早く寝てくれて!」

 気がつくと、とても焦った顔をして僕にしがみつく、小さなルナの姿があった。
 ご飯や風呂も済ませたあと、僕はすぐに寝てしまったのだ。お風呂に入ったら気持ちよくて寝てしまう始末。そのまま逆上せて風呂から出て、ベッドにドーン。五分と経たないうちに眠りについた。

 それはそうと、何でルナがここに? 会うのは五日後って言ってたような。それに珍しく焦ってる?

「そんなに慌ててどうしたの?」
「何も言わずにぼくの言うことをよく聞いて」

 慌てていた顔が一瞬にして真剣な顔に変わる。

「今『フレイジア』は魔族の集団に奇襲されてるんだ」
「なんだって⁉︎ 魔族?」

 彼女の言葉に耳を疑うが、本当の話しだってことはその表情で分かる。

「魔族の数は悪魔族が九十五に魔神族が五の計100体。ぼくの結界も破壊されて、フレイジア軍と魔族の戦いがずっと続いてる。こっちでも出来る限りの事はやってるけど、もってあと三日だと思うんだ。だからさ、心葉、君に『フレイジア』に今すぐ来て欲しい。君のその魔力なら、魔族たちもなんとかなるかもしれない。お願い! すぐに『フレイジア』に来て!」

 まさか魔族が群をなして襲ってくるなんて。思いもしなかった事態に驚きを隠せない。
 それにこの一件には僕にも非がある筈だ。僕があの時魔族を倒したから、その仕返しに『フレイジア』が……。

「君のせいでこうなってるなんて事はないよ」

 ルナは僕の心中を見透かしているかのようにそう言った。

「いづれ起こる事だったんだ。聖龍様のお告げ通りなんだよ」
「聖龍? 聖域に住んでいるっていう伝説の?」
「伝説じゃないんだ。ぼくは聖龍と知り合いなんだよ。ううん、僕の師匠が聖龍フィルア様なんだ」
「ルナの師匠⁉︎」
「そう。ぼくの師匠だよ。その聖龍様が近い将来に起こるって言ってたんだ。今がその時だとは思いもしなかったけど」

 どんどん彼女の声のトーンが落ちていく。顔もずっと暗いままだった。このまま三日が経てば、自分が死ぬ。そうしっかりと感じているのだろう。
 僕は、そんな彼女を助けたいと心から思った。もともとルナあっての僕のこの力だし。ルナには感謝している。

「僕が行けばその戦いに少しでも希望が持てるんだよね?」
「もちろん! 君は知らないかもしれないけど、君は魔力だけで言えば最高クラスなんだ。ぼくなんて足元にも及ばないよ。君がいれば間違いなく勝てる!」

 なんとなしか明るくなった彼女はそう言い切る。
 そんな彼女のために、最大限に頑張ろと思う。

「ルナ、転移魔法ってある?」
「もちろんあるよ。『ゲート』や『ワープ』がそう呼ばれてる。行き先や対象の魔力を捉えたり、思い浮かべながら唱えるとそこへ行ける魔法なんだ」
「分かった。目が覚めたらすぐにでもそっちに向かう」
「頼んだよ、心葉! ぼくも戦わなくちゃ!」
「頑張って! 『パニッシュ』!」

 彼女にそう告げ、僕は呪文を唱えた。それが一番早く目覚められる方法だ。

 すぐに気を失って、目が覚めた時には天井が見える。僕は飛び起きると、両腕につかまっている二人を起こし、事情を説明する。


「分かった、そこに今からみんなで行くんだね!」
「みんなじゃないよ。僕が一人で行く」
「そんなの絶対に許さない!」
「ダメなのです! コノハ一人を危険に晒すなんて」
「頼むから言うことを聞いてくれ! 君たちが行ってもどうしようもないんだって。魔族を相手に戦えないでしょ!」
「……ダメ、絶対にダメ! 心葉は私と、私たちとずっと一緒にいるって言ってくれたもん! 心葉が行くなら私も行く! それで危険な目に遭うのなら構わない!」
「わたしも行くのです! わたしとコノハはパートナーなのですよ? どんなに危険な事があっても、魔族と戦えなくても、出来る事がきっとあります! それに、コノハの友達が大変な目に遭っているのです。黙って見てはいられないのです!」

 二人のその勢いに、僕は何も言い返せなかった。もう何を言っても聞かないだろう。
 だから、僕は一言だけ言った。

「……絶対に魔族と戦わないと約束して」
「うん!」
「分かったのです!」

「……今すぐに準備するぞ。この間にもルナたちは戦ってるんだ!」

 僕もリッタもゆぅも急いで支度をする。荷物は最低限、武器を背負って魔法服を着る。二人も着替えて自らの武器のみを持って戻ってきた。
 準備は完了だ。

「行くよ! 『ワープ』」

 足元に展開された魔法陣がクルクルと回転し、黄色く輝く光に包まれる。夜明けの見えていた窓が映る視界も、だんだんと光に遮られ、やがて全て光に包まれてしまった。

 高速回転する光が少しずつその速度を落とし、まばらになってくると、急にいろいろな音が聞こえてくる。爆音であったり悲鳴であったり、戦争を感じさせる音だ。

 間違いなく、ここは『フレイジア』だ!
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