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一章 〜異世界と旅立ち〜
12話 『街の案内』
しおりを挟むここはさっきの商店街だな。お祭りをやってるみたいに賑わってる。どうやらここから始めるらしい。
この通り、僕が初めてこの町に来たときに通った商店街へと二人でやって来たのだった。
「ここはねー、この街一番の商店街なんだよー! 何か買いたい物があったら大体ここで揃っちゃうんだ!あっでも心葉は文字が読めないんだっけ……後で少し教えるね」
やっぱり文字がよめないと何も出来ないんだな。ってそんなの当たり前か。これじゃあ売ってるものが何かすらわからないや。
あっ! でも分かる物も少しは売ってる!
多分あの赤いのは林檎だ。横のは梨かな。
この世界にも僕の知っている物があるっぽい。まぁまだあれが林檎や梨かは分からないけど。
僕がいろんな商品を見てるあいだ、リッタはリュックをずっとごそごそと掻き回していた。
そして、「あった!」と言って僕に何かを差し出してくる。
「やっと見つけたよー。これを渡しとかないとね。はい」
「えっとこれは? お守りみたいだね」
リッタに渡されたのは、お守りのような形をしたものだ。なんて言うんだっけか、この星のマーク。
よく一筆書きで書くこの星。確か……あ、そうだ! 五芒星だ! 生者がどうとか、死者がどうとか相手を呪うだとか……なんだかいろいろな話があったっけなぁ。
そんなことよりこのお守りの効果だ。そういえばこれ、リッタもつけてるけどなんの意味があるんだろ?
「リッタが首にかけているのと同じやつだよね?」
「そうだよ! よく分かったねー! これはね、通訳の付与されたペンダントなんだー。これを付けてれば誰とでもはなせるんだよ。家に予備がいくつかあったから、心葉にも渡そうと思ってたの」
「それは助かるよ。また言語を一から学ばないといけないところだった。ありがとう!」
「また?」
「あー、、なんでもないよ」
「? えーと、どういたしまして!」
「肌身離さず持っておくことにするよ」
便利だなぁ、魔法って。
中学の間、三年間かけて英語を学んだのが馬鹿らしく思える。あれだけやって簡単な会話が出来るようになったくらいだったからな。
こんな道具があったらあっちの世界じゃ特許のお金で一生暮らしていけそうだ。でも、そういうズルっぽいことは良くないような気もする。
ま、この世界はこの世界、あの世界はあの世界ってことか!
「じゃあ次はね~、中央広場に行こう! この街の中心にあって、いろんな施設が近くにあるの」
そう言ってまた僕の手を引いて行く。どうやら次は施設を紹介してくれるらしいな。
出来れば早く文字を覚えて図書館にこもりたい。異世界の図書館だ。きっと面白いに決まってる!
その前に、この世界に図書館だとかそんな施設があるのか確認しとかないとな。なにがあってなにがないのか、僕はまだ何も知り得ないからだ。
「いろんな施設って、図書館とか病院とか?」
「そうそう、そんな感じかな。さ、行くよ!」
やっぱりまた手を繋ぐんかい。それに走るの結構早い。
もうさすがになれたけど。でもなれより怖いものはないってよく先生が言ってたっけな。
じゃなくて、図書館!
どうやらあるようだし、向こうの世界と文化は大した差はないようだ。パッとした表面だけ見れば、の話だけれどね。武器を持っている以上、狩猟も仕事だろうし。考え方は似てるけど、生活の仕方は全く違う。そんな感じだ。
「ほら心葉、もう見えて来たよ!」
道のど真ん中を走りながらリッタが言う。
なんだか周りの人たちの視線を感じるなぁ。
僕らって周りから見たらカップルが仲良くデート中みたいにしか見えないんだよなぁ、きっと。勘違いされてもしょうがないよね。……自意識過剰かな?
「あそこに噴水が見えるでしょ? あそこが中央広場だよ!」
「うわぁ~でっかい噴水。それより広場って思ってたよりも広いんだね」
目の前にあるのは大きな噴水と、円形の広い空間だ。なにかのイベントをやるにはちょうどいい広さだな。でもここはさっきの商店街と比べると人が少ない気がする。お店があるわけでもないから当然と言っちゃ当然だ。
おそらくこの付近の建物がこの街の主要施設だな。
たくさんある訳ではないけどこの広場の周りには大きな建物がある。
早く図書館に行きたいな! あ、でもその前に少し休憩が欲しいかな…………走り過ぎだよ……リッタ。
「ふぅ、疲れたー。けっこう走ったね。心葉は大丈夫?」
「そうだね。大丈夫だけど、少し疲れたかな、ハハ」
「ここはねー、お祭りとかやるときに使う場所なんだよ。だから普段はあまり人がいないの。だいたいああいう人が来るとこかな」
そう言ってリッタが指さすのは、数組のカップル達だった。たしかにここはそういうのには最適な場所かもな。
地面も建物もレンガっぽい石造りで、円形に空いたこの広場の中央には大きめの噴水がある。その風景がどことなくロマンチックな雰囲気を醸し出していた。
僕らが来るところじゃないだろ、ここ。周りに施設があるのはなんとなく分かるけど、その施設を使ってる人っているのかな?
さっきからカップル以外数人しか見てないし。
……そのカップルの中に僕らも入ってるのかもしれないが、今は気にしないでおこう。
リッタもちょっと顔を赤らめて、僕の方をチラチラと見ている。きっと彼女も恥ずかしいんだろな。
何か適当な話題を振って早くここから逃げよう。
とりあえず、この街ではどんなお祭りをやるのかと聞いてみたら、
「冒険者の安全を祈願するお祭りとかー、建街記念日を喜ぶお祭りとかかな」って返ってきた。
冒険者の安全祈願、そんなに冒険者が来るのか。そんなに来るといざこざが多そうだけどな。
そういえばこの街はクラウス王国という国に属しているとリッタが言ってたな。どの街にも騎士団が派遣されてるんだとか。
この街は特に騎士が多い。さっきも何人か見かけた。
格好は銀の鎧を着て、腰に剣をかけていて海外の昔の騎士のような格好だ。胸には騎士団の紋章がある。
かっこいいな、騎士。男の子だったらけっこう憧れるよね、こういうの。
小さい頃の夢で、大きくなったらヒーローになりたいって書いたっけ。あの世界じゃそんなのは小さい頃だけの夢の話だったけど、この世界だとほんとに騎士を目指してる人が多いんだろうな。どちらにしたって僕には遠い話だけどね。
僕もまずは戦えるようにならなきゃだ。魔法に剣術に、あと柔術も覚えなくちゃ。体ももっと鍛えないとかな。
あまり現実味がないけど、これが現実なのか。
ほんと、生きてると何が起こるか分からないものだね。
そうして僕らはそそくさと逃げるように、このロマンチックな空間を後にしたのだった。
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